2015 Fiscal Year Research-status Report
血圧および自律神経活動の変化がラットの認知機能に及ぼす影響
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24530917
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Research Institution | Tohoku Bunka Gakuen University |
Principal Investigator |
佐藤 俊彦 東北文化学園大学, その他の研究科, 准教授 (20322612)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | SHR / WKY / ラット / 遅延照合課題 / オペラント条件づけ / 記憶 / 血圧 / 血管拡張薬 |
Outline of Annual Research Achievements |
高血圧自然発症ラット(SHR)ならびに健常血圧の比較群(WKY)を用いて行動実験を行った。ここでは、左右2本の格納式レバーを装備したスキナー箱一式を使用し、DMTP課題(レバー位置遅延照合課題;Delayed-Matching-to-position task)を実施した。DMTP課題では、最初に見本レバー(左右のいずれか1本)を提示して、一定の遅延の後に、左右2本のレバーを同時に提示し、見本と同じ側のレバーを押せば正反応となり、ペレットを獲得できた。遅延の長さとして0、2、5、10、ならびに20秒の5種類を設定し、SHRおよびWKYの記憶の保持勾配の特徴を明らかにしようと試みた。1回のセッションの中でこれらの5種類の遅延をランダムな順序で出現させた。実験に先立ち、SHRとWKYに対して、0.1、0.3、または0.6 mg/kgの濃度の血管拡張薬ヒドララジン(Hydralazine, Sigma)溶液、あるいは溶媒(生理食塩水)のみのいずれかを投与した。これは、循環器機能、特に、血圧水準の操作を意図したものであり、これらの投与後のセッションを、同一個体にランダムな順序で1回ずつ行った。実験結果の分析は現在も継続しており、これまで得られた分析結果より、正反応数に関して、ラットの系統間で成績の明瞭な違いを認めず、SHRおよびWKYともに明確な保持勾配(遅延増加に伴う成績低下)を認めた。また、薬物の効果も有意であり、0.3および0.6 mg/kgのヒドララジン投与後には、溶媒投与後に比べて成績が有意に低下したものの、その差は比較的小さかった。過去の研究成果より、降圧薬を投与したSHRでは、情動的な行動指標が低減することが示唆されたものの、こうした行動変化は、血圧低下を原因とした認知機能低下を媒介して生じたものではないと結論できた。同年度には、自動反応形成の実験も合わせて実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究を進める中で、高血圧ラットSHRがレバー押し反応を獲得するプロセスには、健常血圧ラットとは異なる特徴があることを見出した。このため、自動反応形成などの反応形成過程に着目して、レバー配置の物理的な条件(餌皿からの距離など)と、動物の生体機能(血圧など)のいずれかを操作しながら、反応獲得のプロセスの特徴を行動と生理の両側面から明らかにすることを試みてきた。こうしたオペラント条件づけの基礎過程における相違は、DMTPなどの記憶課題や、選択反応時間課題のような注意機能を測定する課題など、より複雑かつ高度な学習課題の成績に直接ないし間接的な影響を及ぼしうるため、DMTP課題と並行して、この種の実験的検討を優先的に行ってきた。そのために、注意機能に関する課題の実施に若干の遅れが生じている。しかしながら、自動反応形成を優先して検討する意義が大きいことに加えて、DMTP課題については当初の目標をおおよそ達成するなど、その他の側面では、本研究の進捗はきわめて順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
上述のように、反応形成の基礎的なプロセスにSHRとWKYの系統差を見出しており、こうしたオペラント条件づけの基本的特徴に関する実験的検討を継続したい。この点についての知見は、より高次の複雑な行動課題の系統差を理解する上でもきわめて重要な情報となる。また、これと並行して、本研究の当初の計画通り、注意機能を調べる行動課題を実施したいと希望しているものの、当初に予定していた5肢選択反応時間課題(5-Choice Serial Reaction Time Task, 5-CSRTT; Higgins & Breysse, 2008)は想定した以上に訓練期間を必要としており、より簡便で、なおかつ、注意機能の指標となる行動課題を実施したいと考える。現在のところ、比較的短い期間で注意機能を調べる課題として、「視覚的信号検出課題(Visual signal detection)」などを候補に考えている。これまで実験場所として利用させていただいた東北大学大学院文学研究科心理学研究室の動物実験室については、数年前より使用できる期間が限られており、許される時間と実験環境を最大限に活用し、できるかぎり効率良く、最善の成果を上げられるよう努力していきたい。
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Causes of Carryover |
飼育作業や実験補助のアルバイトをあまり雇用せず、ほとんどの作業を研究代表者が行った。また、米国への海外出張の経費のうち、宿泊費を研修代表者の自己負担としたことにより、当初予定していた支出予定金額を下回ることとなった。いずれも経費節約の努力によるものであり、この分の金額を次年度に有効に活用したい。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年7月に予定している欧州での成果発表の旅費などに充てたい。
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