2012 Fiscal Year Research-status Report
現象学的教育学における教育的タクト論と教員研修に関する研究
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24530936
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University of Education |
Principal Investigator |
宮原 順寛 北海道教育大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (10326481)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 現象学的教育学 / 教育的タクト / 校内研修 / 授業研究 |
Research Abstract |
現象学的教育学および教育的タクト論に関するマックス・ヴァン=マーネンおよびヘルムート・ダンナーの論考を検討した。ヴァン=マーネンの論考は、教育に関わるエピソードを語り合い記述するなかで教職の専門性としての「思慮深さ」や「教育的タクト」が形成されるというものである。この知見は、教師をはじめとする対人援助の任務に当たる仕事においては、経験知や暗黙知と呼ばれる知見を、より自覚的で明示的な知見へと組み変えつつ、これまでの支援者自身の行動についてより省察的になり、専門職としての自覚や力量の形成に資すると言える。 これに関連して、ドイツあるいは日本の教育学における現象学の受容に際して、現象学の創始者エドムント・フッサールよりも、その継承者と目されているマルティン・ハイデッガー、ジャン=ポール・サルトル、モーリス・メルロー=ポンティ、エマニュエル・レヴィナスらに影響を受けた考察が多く見られる。これに対して、フッサールの論考の教育学における再評価が必要であると、本研究では主張した。 また、校内研修に関する実地調査を、長崎県佐世保市の中学校および長崎県諫早市の小学校、北海道石狩市の小学校、北海道石狩郡の小学校、北海道白老郡の中学校、北海道札幌市の高等学校、および北海道教育大学附属札幌小学校において実施した。これらの調査活動については、エピソードの聞き取りとその記述の途中段階として位置づけている。 なお、このほかに、教育的タクト論の提唱者であるヨハン・フリードリッヒ・ヘルバルトの出身地であるドイツ・ニーダーザクセン州オルデンブルク市等を訪問し、現象学的教育学に関する知見を得るほか、現地の高等学校の授業を見学した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究においては、A. 日本における先行研究の整理、B. 海外の文献の翻訳読解検討、C. 授業研究ならびに聴き取り調査、の3点を具体的な研究内容として掲げている。このうち、Aについては関連する先行研究の概略をほぼ渉猟し、Bについては1冊について翻訳検討を進めつつあり、Cについては協力学校を確保して数回にわたって訪問するといった具体的な成果を挙げている。 A(日本における先行研究の整理)については、現象学的教育学や教育的タクト論についての先行研究の成果と課題についての洗い出しの概略を済ませ、日本教育方法学会等での発表を行っている。 B(海外の文献の翻訳読解検討)については、ヘルムート・ダンナーの著書『精神科学的教育学の方法』の中で本邦未翻訳であった現象学に関する章について読解を行い、そこで整理されていたドイツにおける現象学の教育学への受容状況についての考察を学会発表において示した。また、現象学的教育学のカナダにおける泰斗であるマックス・ヴァン=マーネンの著書のうち本邦にては未だ翻訳刊行されていない著書(共著書)『子ども時代の秘密』(オランダの研究者との共著)について読解を進めており、次年度以降に成果を発表する予定である。 C(授業研究ならびに聴き取り調査)については、長崎県内(諫早市および佐世保市)および北海道内(札幌市および石狩市、石狩郡、白老郡)の小中高等学校等を対象に、授業研究による学校改革や教員研修といった視点からフィールドワークを行った。学校および受入学級の担当教師との間での信頼関係を醸成しつつ、授業の実践事例をフィールドノートに蓄積している段階であり、具体的な研究成果物については次年度以降に発表予定である。 以上のように、本研究においては当初の研究計画に対して概ね順調に研究を遂行している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては、研究計画において、A. 日本における先行研究の整理、B. 海外の文献の翻訳読解検討、C. 授業研究ならびに聴き取り調査、の3点を具体的な研究内容として掲げている。 このうち、A(日本における先行研究の整理)については、既に関連する先行研究の概略については把握しているため、今年度(2013年度)においては、学会等での発表を機に得られた情報網を活用しつつ、さらなる情報の取得に努める。 また、B(海外の文献の翻訳読解検討)については、現象学的教育学のカナダにおける泰斗であるマックス・ヴァン=マーネンの著書のうち本邦では未だ翻訳刊行されていない著書『教えることのタクト――教育的な思慮深さの意味』、ならびに、共著書『子ども時代の秘密』(オランダの研究者との共著)、および、編著書『闇の中での記述――解釈学的な問いの現象学的研究』について、彼の主張するところの教育的状況の事例のテーマ分析に関する作品集と位置づけ、これらを通した教師の教育的タクトあるいは思慮深さの養成に対する有効性について検討を進める。 さらに、C(授業研究ならびに聴き取り調査)については、引き続き、長崎県内(諫早市および佐世保市)および北海道内(札幌市および石狩市、石狩郡)の小中高等学校等を対象に、授業研究による学校改革や教員研修といった視点からフィールドワークを行う。その際、ビデオ録画された授業の記録化と分析といった手法によって、遠隔地間における検討をより日常化する方略を模索し、事例研究の素材を収集する。なお、2012年度に訪問した北海道白老郡の中学校については学校統廃合が行われて当該学校が存続していないため、同校から別の学校へ異動した校長あるいは教諭に対して今後の研究協力を要請する。 これらの研究を通して、本研究の最終年度である2014年度に行う研究まとめの検討素材を蓄積する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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