2012 Fiscal Year Research-status Report
ラテン語educareとeducereに関する教育概念史研究
Project/Area Number |
24530954
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
白水 浩信 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (90322198)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 教育概念生成史 / ラテン語 / デジタル・アーカイブ / educare / コルメッラ『農業論』 / paideia / disciplina / educatio |
Research Abstract |
Bibliotheca Teubneriana Latina 4及びPerseus Digital Libraryを用いて、educare とeducere の用例を検索した。古典文献を中心に319件を抽出した。現在、電子テクストと文献資料を照合し、文意の把握による検索結果の確定をすすめ、データ整理を遂行中である。当初予想された通り、用例データを網羅的に検討することには限界があるので、まずは用例の頻出する文献を特定して、作業を展開することにした。 これまでの研究からコルメッラの『農業論(res rustica)』は、名詞educatioの用例が特に多いことが判明しているが、動詞educareについても、古典文献のなかでは突出して多くの用例が認められた。『農業論』第1巻から第4巻までで14件(用例数/総単語数=2.808 /10K)、第5巻から第9巻までについては65件(12.734 /10K)もの用例を抽出することができた。この用例件数は古代の文献では突出して多く、大部なウルガータ(ラテン語訳聖書)の場合で48件(0.773 /10K)、プリニウスの『博物誌』の場合で40件(0.988 /10K)、アンミアヌスの『歴史』の場合で32件(2.127 /10K)であることと比べれば、いかに多くの用例がコルメッラの『農業論』に集中しているかが分かる。漸次、コルメッラの用例分析を進めており、次年度以降、まとまった形で提示する予定である。 加えて今年度は、『聖書』をもとにギリシア語paideiaとラテン語disciplinaの用例を比較検証した。ウルガータにあっては、ギリシア語paideiaをdisciplinaで承ける傾向が極めて顕著であることが確認された。この結果はpaideiaを無造作にeducation(教育)と翻訳することに一石を投じるものである。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度予定していた作業は、①ラテン語コーパス(BTL4、Perseus Library)を用いたラテン語動詞educareとeducereの用例検索(年代、著者名、作品名ごとに出現傾向を数量化)、②ラテン語文意の読解(educareとeducereの識別)、③文脈に即したeducareとeducereの用法の特徴把握(概念整理)であった。 ①については、電子テクストとして収録された古典文献から319件の用例を抽出し、年代、著者名及び作品名ごとに用例数を整理することは完了している。②については、コルメッラ『農業論』を筆頭に用例の多い文献について、ラテン語の文意の把握、文脈の特徴を把握する作業に着手したところである。③の概念整理については、 ①及び②の作業の蓄積にしたがって進められるが、現在、次のような感触を得るにいたっている。educareの用例がコルメッラ『農業論』に突出して多く見出されること自体、この動詞の典型的性格を示していると考えられる。コルメッラ『農業論』をもとにeducareの用法の具体的特徴を検討すると、まず教師が弟子を教える行為とは完全に区別され、人間及び動物の子を養い育てる文脈で用いられている。それゆえウルガータにおいて、paideia(動詞paideuein)がeducatio(動詞educare)によって受けられることはまずなく、disciplinaによってラテン語訳されていることと符合する。 これら具体的作業の進捗状況を踏まえると、本年度、研究の緒にあって具体的な作業に着手し、作業仮説を裏づける見通しが得られた点において、本研究はおおむね順調に進展していると評価しうる。
|
Strategy for Future Research Activity |
引き続き①~③の作業に従事する。 ① ラテン語コーパスによる古典古代の用例検索を継続する。研究計画立案時に構想していた中世以降の用例にまで広げることは当面見合わせ、丁寧にeducare とeducere の用例整理作業を継続する。 ② 特に平成25年度は、文献による裏づけ調査について力点を置く。①の作業を受けて、ラテン語用例の文意の把握に努め、用例データベースの充実を図る。用例頻度の数量化については比較的進展しているので、よりいっそう用例の具体的内容に踏み込んだ形で研究を展開していく。 ③ 初年度の具体的作業によって得られた作業仮説の検証を進め、educare とeducere に関して概念整理を行う。educereの用法分析については、やや手薄な状況なので、この点についても作業を進捗させる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費使用計画は次の通りである。 (物品費)西洋古典に関するデータベース及び文献の収集を引き続き行う。 (人件費・謝金)データ入力・整理に関して、研究協力者を短期間雇用し、協力補助を仰ぎ、謝金を支出する。 (旅費)初年度の成果に基づいて、国内に所蔵されていない文献を精選し、平成25年度はフランス国立図書館に赴き文献調査を実施する。用例の該当箇所の確認、複写等による収集を行う。 (その他)本研究の要である、ラテン語コーパス、特にBibliotheca Teubneriana Latinaの年間利用契約料を支出する。
|