2013 Fiscal Year Research-status Report
ラテン語educareとeducereに関する教育概念史研究
Project/Area Number |
24530954
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
白水 浩信 北海道大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (90322198)
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Keywords | educare / educere / ラテン語文法 / エウテュケス / nutrire / proferre |
Research Abstract |
平成25年度は、Bibliotheca Teubneriana Latina (on line)を用い、ラテン語動詞educareの用例検索を続行した。またBTLで得られたデータを逐一文献資料と照らし合わせ、必要に応じて日本語訳を試みた。前年度の研究実績から、動詞educareが農業論の文脈で頻出することは確認されていたので、むしろ古典期、動詞educareと動詞educereの違いがどのような形で認識されていたのかについて明らかにすることが課題となった。というのも、educareとeducereの区別は古代にあって必ずしも明確ではなかったかのような説明が往々にしてなされることがあるからである。 すでに4世紀末の文法学者ノニウス・マルケッルス(Noniue Marcellus)のDe compendiosa doctrinaにおいて、両動詞が明確に区別されていたことは明らかにしてきた。該当箇所は、ルソーが『エミール』の冒頭でワローの言葉として引用する、educit obsterix, educat nutrixの典拠でもあるから重要である。このほかの著者によっても、educareとeducereの違いについて説明がなされていないか探索が進められた。その結果、6世紀頃に活躍したエウテュケス(Eutyches)の『言葉の技術(Ars de verbo) 』において、educareが「(栄養を与え)養うこと(nutrio)」と「前に運ぶこと(profertur)」を意味するという説明がなされており、両動詞の区別について自覚的であることが判明した。エウテュケスは、ラテン語文法書で著名なカエサレアのプリスキアヌス(Priscianus Caesariensis)の弟子であることからみて、そのeducareに関する見解は中世にいたっても継承されたのではないかと推定される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成25年度予定していた作業は、①ラテン語コーパスによる古典古代の用例検索とデータベース化の継続、②該当箇所の文献による照合調査、③educareとeducereに関する用例分析をもとにした概念整理の三点である。 まず①に関しては、BTL(online)を年間契約することにより、最新のラテン語コーパスにインターネットを通してアクセスしながら、作業を実施することが可能になった。ただし、予定していたとおり研究協力者を短期間雇用するも、従来のBTL4との仕様の違いに慣れるというところから作業を出発させなければならず、思いのほか難航した。 また②に関して、海外の図書館での資料収集を行う予定であったが、研究機関の変更が生じたことにより、実施することは困難となった。ただし、学内及び国内の図書館にて文献収集を実施することにより、研究が大幅に遅滞することはなかった。 さらに③に関して、educareの用例パターンが把握されつつあることは大きな成果である。上述のとおり、educareは農業論と文法や語彙の説明において用いられ、「(栄養を与え)養うこと」と「前に運ぶこと」を意味していたと現段階では総括可能になってきた。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き①から③の研究作業に従事する。 ①ラテン語コーパスBTL(on line)を活用したeducare及びeducereの用例検索を実施する。特に両者の形態上の区別が困難な場合、これまでの研究成果から得られた概念整理をも参照しながら、文脈からの判別に努める。 ②文献収集による該当箇所の裏づけ作業を続行する。平成26年度は海外図書館での資料調査を実施し、未確認の用例についても検証作業を進める。 ③educareの用例分析に基づく概念把握は目処がついてきたので、educereの用例分析に基づく概念把握を進捗させる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度より研究機関の変更が生じ、研究を遂行するための環境整備等に時間がかかり、予定していたフランス国立図書館における資料調査を実施することができなかった。そのため、海外旅費として見込んでいた額が次年度使用額として生じた。 平成26年度に海外における文献資料調査を実施する予定である。
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