2013 Fiscal Year Research-status Report
シャルル・ロラン『学校教育論』から捉えるフランス近代学校文化の形成
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24530975
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
越水 雄二 同志社大学, 社会学部, 准教授 (40293849)
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Keywords | シャルル・ロラン / フランス / 学校文化 / パリ大学 / コレージュ / 古典人文学 / 修辞学 / 啓蒙思想 |
Research Abstract |
シャルル・ロラン(1661-1741)の『学校教育論』(1726-28)が当時の学校教育と学問の世界において重要な著作だったことは、フランスの教育史や文学史研究者には周知の事実である。しかし日本では、その書の内容も意義も従来ほとんど知られていない。同書が教師はもちろん思想家たちにも多くの読者を得ていた事実は、例えば、ルソーが1750年代に執筆していた『エミール』(1762)で、先行する重要な教育論者にジョン・ロックらと並べてロランの名も挙げて、好意的に言及している例からも推察できる。 本研究の平成25年度の成果としては、『学校教育論』の受容を解明する面で、通称『匿名の公教育論』(1762)を史料に考察していたところ興味深い進展があった。主張の革新性で知られる『匿名の公教育論』の著者をめぐっては、古くからディドロ説もあったが、近年フランスではクレヴィエ説が公認されている。クレヴィエ(1693-1766)とは、ロランの後継者の位置にあり、パリ大学のコレージュで教鞭を執っていた人物である。 ところが、『匿名の公教育論』の内容を筆者が検討したところ、ロランへの言及も『学校教育論』からの引用も見られない。これは著者がクレヴィエならば実に不可解である。 この疑問に関して筆者は、アメリカの歴史学者パーマー(R.R.Palmer)が1985年の論文で、真の著者は、ディドロと親交もあったと推測可能な、イエズス会のコレージュで教師を務めたディユードネ・ティエボー(1733-1807)であろうと説得力の高い推論を提示していることを知った。意外にもパーマーの論考は、これまでフランスでも日本でも紹介されてこなかった。『匿名の公教育論』の著者がイエズス会の学校教育とつながる人物ならば、対抗関係にあったパリ大学のコレージュの伝統から生まれたロランの『学校教育論』に触れなかったことにも容易に納得できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度には、前年度に『学校教育論』の全体像を把握した成果を踏まえて、計画通りに、第8章「授業とコレージュにおける指導」の翻訳と内容の検討を進めることができた。また、『学校教育論』の受容についても、18世紀後半に多数発表されていた公教育論の中で重要ないくつかの著作を史料にして検討を進められた。後者では、国内および海外出張調査も行い、新たな史資料や関連研究文献の収集でも一定の収穫を得られている。そして、本研究の内容に関連する発表を、2013年10月の「教育史学会大会」で行い、他の研究者から意見をいただいた。 これらの成果は、すべて次年度以降の研究の推進に積極的につながっていくものである。したがって、本研究は「研究の目的」の達成へ向けて、現時点で「おおむね順調に進展している」と自己評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
シャルル・ロラン『学校教育論』の翻訳と内容検討を、引き続き、その抄訳を研究最終年度に発表できるように進めていく。 これと並行して、18世紀後半の他の人物による教育論やイエズス会追放(1762年)以降の教育改革へ『学校教育論』が与えていた影響を解明し、同書が19世紀前半へかけての学校教育に直接また間接的にどのように受容されていたのかを考察していく。 成果の中間発表および公開の面では、教育史学会大会で行った研究発表の内容を学会機関誌『日本の教育史学』へ投稿すると共に、研究室ホームページ上でも一般読者に分かりやすいように工夫して成果の一端を公表していきたい。 以上の研究に必要な史資料の収集と専門家との意見交換のため、平成26年9月にはフランスへ出張し、また、年度内に2回、東京へ出張する計画である。
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