2015 Fiscal Year Research-status Report
シャルル・ロラン『学校教育論』から捉えるフランス近代学校文化の形成
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24530975
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Research Institution | Doshisha University |
Principal Investigator |
越水 雄二 同志社大学, 社会学部, 准教授 (40293849)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | シャルル・ロラン / フランス教育史 / パリ大学 / コレージュ / 古典人文学 / 修辞学 / 啓蒙思想 / 市民教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、17世紀末から18世紀前半にパリ大学総長を務めるなどの活躍をしていた人文学者シャルル・ロランCharles Rollin(1661-1741)の教育論の内容を検討し、その19世紀前半へかけての受容も解明する。 1726年から1728年にロランは、『人文学を教え・学ぶ方法―知性と心につなげて』(全4巻)を公刊した。目的はパリ大学に付属するコレージュで行われている教育を世に広く知らせ、特に経験の浅い教師へ指針を示すことであった。この書では言語・詩学・修辞学・歴史・哲学の学習内容と指導法に加え、学校の管理運営と校長・教師・生徒・親の心得が論じられた。こうした著作の補遺として、ロランは1734年に幼児期と女子の教育に関する論考も発表した。彼の教育論は刊行直後から好評を博し、“トレテ・デ・ゼテュート”という略称で知られるようになった。この略称を本研究では『学校教育論』と翻訳している。 ロランは古代ギリシア・ローマの学問と歴史に通暁し、かつ、ジャンセニスムを奉じる敬虔なキリスト教信者だった。彼は「学問が国民の運命を決める」と主張して知識の普及を説くと同時に、青少年の道徳性と信仰心の育成を目指し、学習者の尊重を指導の原理とした。フランス革命前の約四半世紀、イエズス会追放後の教育改革を推進したパリ高等法院の部長ロラン・デルスヴィルは、教育課程の刷新に『学校教育論』を援用して絶賛した。その書は革命期の多様な公教育論の中でも、論者の立場に拘らず学習指導の基本文献として引用された。1818年にアカデミ・フランセーズは、ロランが市民の育成に献身し、教育に関する学問を作ったとする論考を懸賞論文の入選作としたのである。 以上のようなロラン学校教育論の内容と受容から、フランス近代学校教育の形成において、アンシアン・レジーム期のパリ大学を母胎とする文化伝統が継承された側面の重要性も注目されよう。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は当初の4年計画での最終年度となり、9月末の教育史学会では研究成果の全体像を提示する発表「シャルル・ロランの教育論からみたフランス近代公教育の形成過程」を行い、フランスに限らず広く教育史の専門家から批評や意見を得られた。シャルル・ロランの教育論の内容と受容を原典にあたって紹介し検討する研究は、日本では初めてのものであり、それに基づいてフランス近代公教育の形成過程を捉え直そうとする試みには、学会発表を通じて大方の理解を得ることができ、大きな興味関心を寄せてくれる研究者もあった。このことから、現在までの進捗状況は「おおむね順調に進展している」と自己点検・評価できる。 なお、本研究の内容を踏まえ、それを発展させるために計画した研究課題「1720年代から1820年代フランスにおける市民社会論の形成に関する研究」を、平成28年度基盤研究(C)に申請したところ、幸いにも採択していただく結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画は平成24年度から27年度までの4年計画で進められ、進捗状況は上記の通り自己評価しているが、成果の取りまとめと公表へ向けては、最終的な吟味と確認の作業にさらに時間が必要であると判断し、もう1年間の研究期間の延長を申請することとした。 今後の課題は、大きく次の3点である。 第一に、本研究の全体像を提示する論文、すなわち、平成27年度に教育史学会で発表した内容を、機関誌『日本の教育史学』(査読有)へ投稿する。 第二に、4年間の研究成果を、シャルル・ロラン『学校教育論』の重要箇所の抄訳とともに、紙媒体の報告書(冊子)にまとめる。 第三に、研究成果の概要を、高校生や一般市民にもわかりやすいように工夫して、研究室のホームページ上に公開・紹介する。
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Causes of Carryover |
4年間の研究計画は、おおむね予定通り順調に進められた。ただし、その成果を紙媒体の報告書冊子およびホームページで公開するにあたり、調査および考察内容に対する最終的な吟味と確認に、さらに時間をかける必要があり、それを通じて、研究成果の信頼性を高め、内容を一層充実させられると判断した。最も大きな要因は、シャルル・ロランの『学校教育論』にはラテン語とギリシア語での引用が多く含まれており、それらの箇所の検討に時間と労力を要する点にある。このため研究期間を1年間延長することを願い出ることとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
1.研究報告書(紙媒体の冊子)の作成。A4判で約130頁となる冊子を100部作成する。原稿は研究代表者が作成し、印刷と製本を業者へ発注する。校正・確認の作業にあたる協力者に謝金を支払う。 2.研究室ホームページで公開するコンテンツの製作。研究のデータを示して複数の業者と相談し見積もりを取った上で、予算内で可能な、できるだけ見やすく・親しまれやすいものを製作してもらう。
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