2013 Fiscal Year Research-status Report
人材活用型若者支援の構築に向けて―デンマークと日本の比較研究―
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24530986
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
谷 雅泰 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (80261717)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
青木 真理 福島大学, 学内共同利用施設等, 教授 (50263877)
三浦 浩喜 福島大学, 人間発達文化学類, 教授 (90282251)
杉田 政夫 福島大学, 人間発達文化学類, 准教授 (70320934)
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Keywords | AspIt / 若者支援 / デンマーク |
Research Abstract |
2013年9月にデンマークの現地調査を行った。アスペルガー症候群の若者に対するIT教育の機関であるAspItの調査、および現在教育改革の最中であることから、国民学校に対する調査が中心となった。AspItについては、前年も訪問したTEC(コペンハーゲンにある技術学校)内のコースにつき、HKI(ハンディのある人への再教育施設)で行われている社会生活訓練のコースを訪問調査するとともに、卒業生の職場(飲食店向けのシステムの開発)を訪問し、その教育成果について雇用主と本人に対してインタビューを行った。その卒業生については十分な技能を持ち会社でも満足されていることが確認できた。 次に、AspItのオリジナルを開発したバイレのコースについて、オーフスの学校を訪ね、その理念やコースの内容のインタビューを行うとともに、卒業生の職場(国民学校でコンピュータの管理)で担当教員と本人のインタビューを行った。卒業生について雇用側も満足している様子がわかった。学校のインタビューでは、次のことが明らかとなった。全国で12のコースが開設され共通のロゴなどを使っていることなどはこれまでの調査で明らかとなっていたが、オリジナルの学校をバイレ・オーフスで運営する学校の代表者は、コペンハーゲンの学校はもはやAspItには値しないとして関係を絶つこと、代わりに自前でコペンハーゲンの学校を立ち上げることを表明した。その背景には、AspItの「教育的」あるいは「職業教育的」側面と「福祉的」側面のどちらを重視するかという違いがあり、コペンハーゲンは後者を重視し前者を軽んじる傾向があるとみたのであろう。ここにはAspItの性格をめぐる重要な論点があると思われ、今後両者の方向性を見極めていくこととした。国民学校の調査では教育改革がすでに現場に大きな影響を与えていることが明らかとなった。これについても今後の推移を見守りたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デンマークの若者支援について日本と異なる点を、被支援者の側に立ち困っている人を社会に包摂するという観点よりも、社会の側からたとえ障がいを抱えているにしても人材活用を行うという観点を重視する点にあると考え、実態調査を行ってきた。その際、対象としてAspItを取り上げてその理念や実態を調査することを中心にしてきたが、当初調査を行ってきたコペンハーゲンの学校から、カリキュラムのオリジナルを開発した学校に調査範囲を拡張した結果、その両者の間に方向性の違いが出てきていること、それがまさに若者支援の考え方をめぐる論点と重なっていることを明らかにすることができた。背景には大都市であるコペンハーゲンとデンマーク第2の都市とはいえ規模に違いがあるオーフスで社会福祉的な教育機関である受け入れ先が前者では不足していること、そのため、やや自立という点では不安のある学生も当局の要請により受け入れざるを得ないこと、という事情があるのではないかとも考えられるが、その点を割り引いても、ITの十分な知識や技能を身につけた人材を企業に向けて送り出すことを目標にしているAspItからすれば、卒業後の成功を考えずにともかく受け入れることは理念に関わる問題であったに違いない。そのどちらに与するという訳ではなく、その両者の聞き取りと訪問調査を行えたことは研究の目的からみて重要な達成であったと考える。また、デンマークの教育改革については、本研究の計画を行う時点ではまだその内容が明らかになっていなかった。その後、12年年末から13年にかけて改革の内容が明らかとなり、法改正を待たずに国民学校では新しい実践が始まっている。これも、国民学校でどのような人材を養成するのかということと関わっていて、本研究課題と密接に関連する。今後の法改正の内容など帰趨を見守りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
AspItの方向性をめぐって議論があることを踏まえ、今年度もデンマークの現地調査を行い、特にコペンハーゲンでの訪問調査を行う。まず、昨年度に聞いた通りに動いているならばオーフスの学校がコペンハーゲンにコースを開設しているはずなので、訪問調査を行う。TECのコースとの違いを把握するとともに、条件(随一の都市で人口も多く、したがって対象となる若者の数も多いこと)が同じなかでどのようにその違いを担保しようとしているのかに焦点を当てる。また、TECについても調査を行う。同様のコースが同じ地域にできたことをどのように受け止めているのか、また今後の方向性について、インタビュー調査を行う。昨年度の調査ではコペンハーゲンを先に訪問し、オーフスでその事情を聞いたために、この点については初めて確かめることとなる。 次に、デンマークの教育改革について、昨年度はまず国民学校を訪問したが改革の構想が非常に大きいこと、したがってその影響も国民学校内部にとどまらないことに気がつかされた。授業時間増がその主眼だが、それは子どもたちが国民学校で過ごす時間の増大につながり、ひいてはその機能を拡大することとなる。これまでの社会教育施設(社会体育クラブや学童保育クラブなど)の機能も学校に吸収されることとなりそうである。また、特別支援教育についても国民学校の機能拡大・充実により国民学校での普通教育にインテグレートするとしており、これも大きな影響を受けると考えられる。これら、社会教育施設や特別支援教育関係者が今回の改革をどのように受け止めているのかを調査する。 最後に研究成果の公表について、AspItについて最新の研究成果をまだ公表していないので、これについては速やかにまとめて報告する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究分担者の1名が公務のため研究の進捗に遅れが生じた。その分は研究代表者とたの分担者でカバーしたが、予算の執行については当該研究者への配分額のほとんどが残額となる結果となった。なお、当該研究者は2014年度大学の理事となったためさらに研究遂行上の困難が増したと判断し、本人の申し出もあり、このたび研究分担者から外すこととし、その手続きも完了したところである。 残りの3名で、主に9月に予定している現地調査の予算として執行の予定。
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Research Products
(5 results)