2012 Fiscal Year Research-status Report
学習を基盤とする持続可能で価値多元的な社会モデルの構築
Project/Area Number |
24530993
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牧野 篤 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (20252207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
李 正連 東京大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (60447810)
白石 さや 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70288679)
新藤 浩伸 東京大学, 教育学研究科(研究院), 講師 (70460269)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 持続可能性 / 価値多元的 / 地域社会 / 事後性 / 動的平衡 |
Research Abstract |
今年度の研究によって、以下のことが明らかとなった。 社会の持続可能性を考える場合、問われなければならないのは、経済的な量的拡大ではなく、価値多元的な文化資源を人々の生活と結びつけ、新たな価値をいかに創造するのかということである。そこでは、人々が実践にアプローチする身体的な構えが問われる必要がある。 私たちはものを見、対象をとらえ、意味づけし、価値づけするときに、すでにそのものを見、とらえ、意味づけし、価値づけするように、身体技法を獲得している。知覚は知覚主体に先行して、知覚主体をつくりだし、しかも知覚される客体そのものが、知覚によって決められている事後的なものでしかない。私たちはつねに平衡的に「ある」ように、関係を組み換え続けようとする。私たちの主体と客体は、常に動的に組み換えられつつ、私たちの知覚によって知覚し直されている過剰な存在論的不均衡なのである。 この事後性と動的平衡という過剰性は、〈コトバ〉の持つ性質と重なる。〈コトバ〉は身体にもとづく「発話」においては、個体的であっても、その持つ意味を基本とする「言語」としては集合的なものであり、私自身を私が属する集団のシンボル的な生環境に閉じ込めないではいない。〈コトバ〉は過去の表現行為の残渣を破壊して、新しい表現行為を獲得することで、私を〈わたし〉へと、集団を〈わたしたち〉へと立ち上げながら、新しい平衡状態をつくりだしていく。この相互承認の闘争においてこそ、主体が社会として立ち上がる。これが〈学習〉である。 それはまた、地域社会に生きる人々の生活が多重なレイヤーを持ち、人々がその間を融通無碍に行き交うことで、地域社会の目に見えないダイナミズムを生み出しており、しかもそのダイナミズムが多重のレイヤーをネットワークすることで立体的な地域社会の構造を生成していること、それが地域社会固有の文化を産出していることと結びついている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者および分担者による日本各地の持続可能な社会構築のための様々な試み、とくに長野県飯田市の公民館実践、小布施町のまちづくり、石川県内灘町の公民館を基礎としたまちづくり、さらに千葉県柏市の多世代交流型コミュニティの形成実践、愛知県豊田市の中山間村活性化事業など、そして海外の実践事例、たとえば韓国社会における「地域」経営主体の構成分析、バリ島の日本人妻コミュニティなどへの調査研究を通して、それらに共通する、〈学習〉をとおした〈わたし〉が〈わたしたち〉として立ち上がりつつ、それが再び〈わたし〉へと還り、それが社会のダイナミズムを生み出している構造がとらえられた。それは、従来のような経済的な規模の拡大を求める活性化・持続可能性の議論ではなく、むしろその社会に生きる人々の自己形成というきわめて個人的な学習の営みの課題が、集団的に組織し直され、集団的な主体へと構成されることでこそ、その地域が新たな価値を多元的に構成しながら、各個人のあり方を常に変容させることで、自らが持続可能な社会として変容し続けることを可能にしていることを示している。これは、地域社会が存続するための新たな自存のメカニズムとでも呼ぶべきものであり、今後、実践分析を重ねることにより、より精緻にとらえられる必要がある。 これは、研究開始時において、ある程度予測されていながらも、十分に明確にとらえられていたものではなく、研究を進める過程である種の共通項または普遍的な性格として析出されたものである。その意味で、研究は計画通り進められながら、新しい知見を得ることへとつながっているといえる。 次年度以降は、この〈わたし〉と〈わたしたち〉のダイナミズムをめぐる地域社会固有の論理を析出するとともに、それがより具体的な人々の日常生活の営みとどのような関係を結んでいるのかを明らかにする必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
第二年度は、初年度にとらえられた地域社会自存のメカニズムを基本として、いくつかの地域を選んで、介入的な調査を行い、そのメカニズムがどのように機能しているのかを明らかにするとともに、実際のまちづくり実践を研究者と住民とがともに進めることの意味を問い返すこととしたい。そこから、人々が日常の生活実践において対象へと接近する場合の技術論の前にある方法論を抽出し、それを再び住民へと還流させることで、地域社会がどのような変容を来すのかを検討する。 そこではまた、今年度の研究によって析出された地域社会における〈わたし〉と〈わたしたち〉のダイナミズムがどのように住民の日常生活において機能しているのかを検討することが、一つの基本的な視点となる。単なる経済的な持続可能性ではなく、むしろその経済を持続可能たらしめる人々のつながりがつくりだす日常の関係性が、どのような形で人々の生活の営みを構成し、また新たな価値の生成を導き、それが生活基盤である地域社会の経済へと結びついているのか、この点の解明を進めたい。 また、上記の研究の過程で、実際に介入的な調査を行い、地域住民の日常生活におけるダイナミズムのメカニズムを住民に意識化させつつ、持続可能な地域社会のあり方を住民自身が考え、相互に学び、自らの力で地域社会の構成を組み替えていく実験的な取り組みを行う。それはまた、住民自身が持続可能な地域社会をつくりだす主体として、自律的に地域社会を経営することにつながる。 介入的調査実施地域は、石川県内灘町、愛知県豊田市、長野県飯田市、千葉県柏市さらに都市部の新たなコミュニティづくりとして東京都文京区を予定している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(9 results)
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[Presentation] "KIDZUNA": Re-creating Society through Lifelong Learning
Author(s)
MAKINO, Atsushi
Organizer
Europe and Asia Forum on Active Ageing and Interngenerational Solidarity: In Commemoration of 2012 Europe Year of Active Ageing and Solidarity between Generations
Place of Presentation
University Hall Auditorium, National University of Singapore
Invited
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