2013 Fiscal Year Research-status Report
学習を基盤とする持続可能で価値多元的な社会モデルの構築
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24530993
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
牧野 篤 東京大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (20252207)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
李 正連 東京大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (60447810)
白石 さや 岡崎女子大学, その他部局等, 教授 (70288679)
新藤 浩伸 東京大学, 教育学研究科(研究院), 講師 (70460269)
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Keywords | 価値多元性 / 持続可能性 / 地域コミュニティ / 相互承認 / つながり / 当事者性 |
Research Abstract |
第一年度の研究では、学習を基盤とした価値多元的な社会モデルを考える上での基礎となる人々の主体化の構造を検討した。そこでは、〈コトバ〉は発話においては個体主義的ではあっても、言語としては集合的なものであり、この両者を媒介するのが〈カラダ〉の普遍性でありながら、それそのものが個体であることによって、自己の中に普遍を実現する〈わたし〉をつくりだし、それが価値多元的な生活の主体へと立ち上がる構造がとらえられた。第二年度の研究では、この主体化の構造を基礎に、長野県飯田市、石川県内灘町、千葉県柏市、愛知県豊田市、そして韓国のまちづくり、バリ島の日本人妻コミュニティに対する調査を進め、この主体化の構造がまちづくりの実践で何を生み出しているのかを検討した。 研究の結果、以下のことが明らかとなった。たとえば公民館は、住民が、親密な相互承認の関係の中で、自分を仲間とともにある自分として立たせ、仲間を認めながら、ともにこの地域で具体的な役割を果たす存在として自分を認める場として機能していること。それはまた、仲間や地域住民との間で、自分がきちんと位置づき、認められ、役割を果たすことで、生きている実感を得られる身体性を持った存在としてあることを自分で自分を認めることとつながっていること。彼らの前の世代が、日常生活における身体性を公民館という場に組織化したのだとすれば、彼らは公民館という場で、自らの身体性を獲得し、日常生活へと自立的に足を踏み出していくきっかけをつかんでいること。 この公民館の持つ特徴は、その他のまちづくりの実践についてもいえることであり、そこでは相互承認とつながりがコミュニティに生きる人々に普遍と個別をともに生きる〈カラダ〉を付与し、それが〈コトバ〉を介して、他者とのつながりを生成し、組み換えていくことで、人々がまちの当事者になっていく過程がとらえられた。この過程が〈学習〉である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第二年度の研究は、第一年度に引き続いて、長野県飯田市の住民主体の公民館実践、石川県内灘町の公民館を核としたまちづくり、千葉県柏市の多世代交流型コミュニティ構築のための実践、愛知県豊田市の中山間村活性化とコミュニティ形成の取り組み、そして韓国の教育福祉事業を核としたまちづくりの実践、さらにバリ島における日本人妻コミュニティのネットワーク構築などに対する調査研究を進めた。そこでは、互いに異なる実践でありながら、〈コトバ〉のもつ発話される言語としての特徴、つまり個別でありながら集合的であることと、その基礎にある〈カラダ〉の普遍性と固有性とが相互に媒介しつつ、〈わたし〉という主体をつくりだすが、それはまた、〈カラダ〉の普遍性がつながりを形成し、それが固有性への承認関係として展開する過程に、〈コトバ〉が介在することで、人々を〈コトバ〉で結びつけながら、当事者として形成していくこと、それそのものが〈学び〉であることがとらえられることとなった。 それぞれに異なる実践であり、その持つ表象の文化は多元だが、その多元性の基礎には、人々が固有であり普遍でもあるという存在そのものの多重性が息づいているという共通項が存在し、その共通項があることによって、コミュニティを持続可能なものへと組み換えていることが、明らかになった。 それはまた、表象と深層との間の往還関係の中で、人それぞれが常に〈わたし〉という当事者を立ち上げ続けること、つまり〈カラダ〉に定礎された〈コトバ〉を発話する主体として、普遍的な〈わたし〉をつくりだすことで、そのコミュニティが価値多元的で、持続可能なものへと構成されていることを意味している。この論理がとらえられることとなった。 このことは、昨年度の研究に続いて、ある程度予測されていながらも、明確にとらえられていたものではなく、研究の進展にともなって明らかとなったことである。
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Strategy for Future Research Activity |
第三年度は、第一年度・第二年度でとらえられた価値多元社会が持続可能であるための基本的なメカニズム、つまりそこに生きる人々が自らを普遍でありながら固有な存在として構成しながら、そのまちの当事者として生きようとすることの構造をさらに明らかにしつつ、この構造が、どのようにして表象の文化的・価値的な多元性とかかわっているのかを検討する。 また、最終年度であるため、とくに第一年度・第二年度の研究内容を基本に、報告書をとりまとめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度、旅費などで赤字となったため、今年度は抑制的な使用を心がけ、また会計システムにおける使用状況確認と手元にある経費計算とに時間的な差があったため、結果的に5万6000円ほどの残金が生じることとなった。研究の遂行上、とくに問題があったわけではない。 第3年度は、当初の研究計画通り基本的に報告書づくりであり、資料の整理に人件費がかかり、さらに印刷・製本代で支出が確実なため、問題なく使用できるものと思われる。
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Research Products
(22 results)