2014 Fiscal Year Research-status Report
小中連携、一貫の実践における教師の学習過程の分析と支援システムの開発
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24530994
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤江 康彦 東京大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (90359696)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 小中一貫教育 / 教師の学習 / 学校組織 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究協力校を平均月1回程度訪問した。授業を中心とした教育実践を観察し小中一貫教育校における教師や子どもの活動の様相を理解し、可能性や課題を整理した。とりわけ、①7年生(中学1年生)4月当初の授業、②1年生から6年生が研究教科として取り組んでいる「算数」の授業、を中心とした。①においては、6年生時の専科担当教諭がそのまま継続して7年生の授業を担当するシステムの利点が示唆された。学習内容の高度化や求められる学習スタイルの変更が子どもにとっては小中接続期を危機的移行としうる。同一の教諭が継続して授業をすることにより授業スタイルの一貫性が保障され、子どもの心的負荷が低減されうる点で示唆的であった。②においては、校内授業研究体制の小学校的なありかたと中学校的なあり方の違いが小中一貫校における校内授業研究体制づくりの課題となっていた前年度のふりかえりを受けておこなった調査である。教科を限定して行うことで協働的かつ継続的に取り組みが進められていたが、小中一貫教育校における学習指導体制の構築にどのように反映させるかが課題として見出された。 また、2013年度に実施された面接調査の結果を日本教育心理学会第56回総会にて発表した。開校2年目の教師の語りには、〔組織の安定〕〔異校種の教師や子どもへの理解深化〕〔発達的視点〕〔具体的な実践のアイデア〕〔成員性の獲得〕がみられた。組織の安定が異校種の教師や生徒の理解をより精緻なものにしていった。その一つとして発達的視点からの理解があり、発達的視点に立った具体的な実践のアイデアが創出された。自身のアイデアの実践化が小中一貫教育校の教師としての経験をキャリアに肯定的に位置づけ、成員性の獲得を促したことが示唆された。面接調査は2014年度も実施しており、これらの結果は2015年度中に学会発表を行うとともに教師にフィードバックする計画である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2年目に引き続き、小中の教師それぞれへの面接調査を実施し、語りの変容をとらえた。開校3年目にあたる本年度は、これまでの2年間に比べて、組織や実践の安定が語られる一方で、小中一貫教育の意義への問い直しが語られるなど、3年間の継続によって実践への没入よりも対象化が起こっている点に、教師の学習の契機となりうることが示唆された。また、1年目から縦断的に教師の声を再検討することで、ポジショニングの変容(教師一般-当該校の教師-小中一貫教育校の教師)、組織としての変容(戸惑い-安定-再検討)の存在が仮説的にではあるが示唆された。 しかし、上記の仮説についてはさらなる精緻化が必要である。研究計画においては、教師の側の変容という観点は十分に考慮していなかったが、縦断的に調査を進めるにあたり、学校のありかたと教師の短期的変容との連動性の検討という新たな課題が生じ、実践から3年経過した4年目にもさらなる調査を進めてデータを得て探究することが必要となった。 また、管理職やミドルリーダーの語りからは、学校組織として、開校当初の段階から次の段階へ進展させることの必要性が語られた。実践の進展という組織的な変化を研究としてとらえ支援していくためには、他方で個々の教師にとっての学習環境として学校が再構築される必要がある。個々の教師の語りに安定と省察が輻輳している状況は、教師の側も小中一貫教育校としての新たな展開を意識していることが示唆される。このことからも、個々の教師の学習と変容が組織の改革とどのように関連しつつ進行するのか、コンサルテーションシステムの構築も視野に入れながら検討する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
1.調査データの整理と理論構築:面接によって得られた教師の語りを、小中一貫教育校において教師がどのような経験をし、それをどのように省察し評価しているのかという観点から質的に分析することで、教師の学習の契機が小中一貫教育校の教育活動にどのように埋め込まれているのかを明らかにする。その際に、一つには、短期的変容という観点を導入するとともに、数名の教師を抽出して事例的に検討していく。二つには、その変容を支える学習環境として学校組織のありかたとその教師の実践活動のありようの関連を談話の質的分析から把握し、活動システムと教師の学習との関連を明らかにしつつ理論を構築する。 2.調査対象の見直し:本対象校における実践の対象化を図るとともに小中一貫教育校の多様なありかたを探る。小中一貫教育校自体がまだ国内に多くは存在しない点から、大規模な調査は困難であり少数事例の検討となる。すでに申請者が有する当該の自治体の教育委員会との連携体制をより緊密なものとすることで実現の可能性を高めることとする。 3.コンサルテーションの計画的実施と支援システムの開発:調査データに基づくコンサルテーションを計画的かつ継続的に実施する。定期的なコンサルテーションの契機を設けることや、特定の課題についてのプロジェクトを立ち上げそれに参加を促すことを通して、教師自身が子どもの発達や小中一貫教育校における教育実践のありかた、個々の教師の課題について構造的にとらえ、改善案を考えていくことを支援する。ただし、学校の抱える課題において、小中一貫教育校であることはその背景となっている場合が多い。学校経営や教育実践上生じる個々の課題解決の支援をもって小中一貫校の教師を支援するコンサルテーションとしボトムアップでシステムを検討する。さらにこの過程自体の記録を採取し、コンサルテーションシステムの評価をおこないモデル構築に反映させる。
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Causes of Carryover |
2014年度に2012年度、2013年度同様、対象校において観察調査と面接調査を実施し、得られたデータを分析し、学会大会にて発表する計画であった。ところが、大学における授業時間増と授業時間割の編成の関係で、調査日が十分に確保できなかった。加えて、申請者の訪問可能日と対象校側の受け入れ可能日程との日程調整がうまくいかず、調査機会が限定されてしまった。そのため、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
2014年度中に実施予定であった観察調査と面接調査の不足分、ならびにデータ分析を2015年度に実施する。また、その結果を分析して2015年度中に開催される学会大会にて発表するとともに、2012年度からの4年間の変化を縦断的にとらえてさらに学会大会での発表ならびに論文執筆等を行う。次年度使用額はそのための経費として使用する。
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Research Products
(2 results)