2013 Fiscal Year Research-status Report
国の学校制度基準の規制緩和と地方公共団体の自律的自己規制力の成立条件に関する研究
Project/Area Number |
24531000
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
中嶋 哲彦 名古屋大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (40221444)
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Keywords | 規制緩和 / 地方分権 / 就学援助 / 教育条件整備 / 首長主導型教育行政 |
Research Abstract |
国の規制改革と地方分権改革によって、学校制度基準の規制緩和が徐々に進んでいる。本研究は、地方公共団体が教育の機会均等と教育水準の維持向上のため、いかなる条件の下で自律的自己規制力を発揮しうるのかを解明しようとするものである。しかし、地方公共団体は、地方分権的政治・行政状況を自己規制を働かせるよりも、学校制度基準の規制緩和の流れに乗って、あるいはさらなる規制緩和を求めて、教育条件を引き下げる方向に向かっている。 そこで、大阪府・市の教育・教育行政状況に着目して、教育の機会均等と教育水準の維持向上にかかわる施策(高校の授業料無償制、学校評価システム、教員配置など)とその展開過程を分析した。その際、教育予算の編成過程における教育委員会の予算要求と首長部局による予算づけとの緊張関係を分析し、地方教育行政に対する首長の関与が強まるなかで、教育条件整備基準が引き下げられていることが確認された。また、規制緩和の下での主として財政的理由からの教育条件水準の引き下げは首長によって担われる一方、教育委員会は教育条件の水準維持を図ろうとする傾向が認められた。 また、2013年度における生活保護の引き下げが就学援助の給付基準・水準の引き下げに連動していることについて、就学援助制度及び生活保護制度(教育扶助)の成立過程を歴史的に分析した。その結果、両制度は統一的視点で制度設計されたものではなく、両制度はパッチワーク的に形成されたものであり、生活と教育の統一的保障という観点の不在が確認された。この視点の欠落が教育・生活保障の引き下げを容易にしていると考えられる。 なお、フィンランドとミャンマーを比較分析し、教育条件整備における公(政府)と私(ボランタリズム)の関係を検討しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
地方公共団体内部における教育行政と一般行政の対立矛盾に着目して、そこには教育条件整備の達成目標や達成方法をめぐる教育委員会と首長との紛争があることが確認された。これにより、規制緩和・財政削減という条件の下にあっては、教育条件整備のための自律的自己規制力の源泉は学校及び教育委員会内部に存在するとの見通しが得られた。 なお、2013年度中には、下記のとおり学会誌及び著名な一般誌において、研究成果の一部を公表した。「自治体の教育改革と民主主義」『人間と教育』 第78号、62-71頁、2013年。「 大阪府・市における教育行政と政治 : 新自由主義的・権威主義的教育政策の展開」『法の科学』第44号、86-92頁、2013年。「大阪府・市における新自由主義的・権威主義的教育政策」『日本教育政策学会年報』第20号、112-120頁、2013年。「新自由主義的国家戦略と教育政策の展開」『日本教育行政学会年報』第39号、53-67頁、 2013年。「 貧困を理由に誰ひとり排除しない教育制度を目指して」『貧困研究』第11号、10-18頁、2013年。「 教育委員会廃止論を問う : 首長主導型の教育改革がもたらすもの 」『世界』第854)号、192-200頁、2014年。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度である2014年度は次のように研究を推進する。 ① 首長主導型教育行政制度への転換を内容とする地方教育行政法改正の物質的基盤について検討する。この点については「教育の政治的中立」の観点からの先行研究が多く存在するが、本研究は教育条件整備の視点から検討し、学校制度基準の緩和下での自己規制力の源泉を検討する。 ② 教育振興基本計画(教育基本法第17条)と「教育大綱」(地方教育行政の組織及び運営に関する法律改正案)に記載される教育条件整備の目標・水準を分析対象として、首長主導型教育行政がそれらにいかなる影響をもたらすか、またそこにいかなる自己規制力が働くかを検討する。 ③ ヘルシンキとヤンゴンの学校・民間教育施設を訪問し、教育条件整備への社会的合意形成または民間のボランタリズムの成立条件を分析する。とりわけ、(a)社会民主義的社会諸制度が発展しているフィンランドにおける市民社会内部における合意形成の状況とその成立条件、(b)公教育制度が未整備な社会状況の下でのアジア的ボランタリズムの成立及び今後における近代化進展の影響について検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外調査の補助のため同行させた大学院生に使用させるための小型のパーソナル・コンピュータを購入することを予定していたが、名古屋大学の海外教育開発事業のために校費で購入し研究室で管理しているパーソナル・コンピュータを使用することができたため、科研費補助金による購入の必要がなくなったため。 本年度は本研究課題の最終年度であり、この研究成果を取りまとめるために、地方自治体に対する追加調査(岐阜県白川町、沖縄県竹富町、佐賀県武雄市)を予定している。このための国内出張旅費として使用する計画である。
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