2013 Fiscal Year Research-status Report
「組織文化」としての保育目標・内容観の転換に関する実践史的研究
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24531034
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
渡邉 保博 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (50141552)
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Keywords | 組織文化 / 保育目標と内容 / 実践史 / スキーマ / 組織的研修 / 養護と教育 / ケア |
Research Abstract |
1.「組織文化」における『中心/周辺』論の検討を行うに当たって、①社会的排除と包摂、格差と平等をテーマにした国内外の福祉制度・実践研究に関する著作・論文の収集を継続し検討を行った。特に、近年の福祉哲学の研究の蓄積、たとえば本田哲郎・阿部志郎らの周縁的存在への視座(「小さくされた者」等)の意味、保育実践史研究にとっての方法論的な有効性について検討を深めた。②「組織文化」の発展と保育者の省察、協働性、同僚性等の観点から保育者の専門性に関する文献・論文を収集し検討した。③関連学会・研究会に参加し情報収集を行った。 2.わが国の1970年代以降の「気になる子」の保育に焦点をあてて行った。つまり、「気になる子ども」とは、保育実践から「はみ出す」周辺的存在であり、その子ども理解の深まりが中心的な「保育」のあり方に変更を迫ったこと。それを可能にしたのは、自治体レベルの継続的な組織的研修であったことを明らかにした。その成果を学会誌に投稿し、掲載されることとなった。 3.この研究の過程で、「周辺」化される子どもが抱える養護問題の解決が、1970年代以降のきわめて重要な「保育」問題となっていることに注目するに至った。このことは、教育と養護の相克(一体性ではなく)、教育的価値と「存在のケア」との葛藤、「条件なしに・・亨ける世話」と、年齢にふさわしい発達等の「目的や必要があって,といった条件つき」の教育との溝といった、保育の根底に関わる一連の問題群を提起したとも言える。これらの問題にアプローチするため、近年のアタッチメント研究、養護教諭の専門性に関する研究、ケアに関する哲学的人間学の探究などに学ぶ必要を感じ、関連文献等を収集し検討を行うとともに、その成果の一端を論稿にまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
この研究の主たる目的は、「組織文化」の枠組みからはみ出す「周辺」の子どもを保育に引き入れ、その「中心」的な保育目標・内容の問題性を照射し作り変えていくことによって可能であったのではないかということを歴史的に検討することであった。その際、周辺はなぜ作られるか、周辺は中心といかなる関係にあるか、といった分析視点の原理的検討を行う必要があった。本年度の研究を通して、近年の福祉哲学の研究の蓄積が示している周辺的存在 (「小さくされた者」)は「世の光」であるという認識をうることができたことは貴重な成果であった。なぜなら、保育の「周辺」部におかれ「小さくされた」子どもは、その「中心」の意味を問い「保育」らしい保育のあり方を指し示す「光」であり、福祉としての保育実践史研究にとって、有効な視座を提供することが明らかになったからである。また、この視座に依拠して行った研究とその成果の公表を通して、保育の「周辺」におかれた子どもを保育の「光」とし、保育の目標・内容をくみかえていく実践的な試みは、保育者個人や園独自の努力だけでは難しく、自分(の園)の実践を相対化する組織的な研修体制(「組織の原理と価値に対する継続的な批判的検討とその再構成を支える学習組織」)が必要であるという仮説を検証することができた。また、この「学習組織」によって生み出された保育の目標・内容(スキーマ)は、実践を押さえ込み、硬直性をもたらす「保守的」な枠組みとして機能するが、「周辺」化する子どもの提起する問題にたいして開かれていることによって、保育を新たな「光」で照射することを可能にすることも明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
1.前半期は、「組織文化」論に関する内外の文献・論文の検討を一層深めるとともに、主として福祉哲学における『中心/周辺』という分析視点の有効性についてさらに検討を深めたい。特に、この分野の研究に新たな水脈を拓いた『福祉哲学の継承と再生-社会福祉の経験をいま問い直す』(中村剛(2014). ミネルヴァ書房)を初めとして、「小さくされた者」は「世の光」であるという福祉観・人間観の意味を掘り下げてみたい。 2.前年度の研究を通して注目するに至った、「気になる」子ども(「周辺」化される子)が抱える「養護」問題の解決と「教育」との関連、「教育」と「ケア」、「条件なしに・・亨ける世話」と「条件つき」の教育との相克といった保育の根底に関わる一連の問題群への探求をすすめるために、近年のケア論と実践の展開、養護教諭の専門性に関する研究、ケアに関する哲学的人間学の探究(鷲田清一、レヴィナス、ハンナ・アレント等)に関する文献的な検討を行う。 3.組織的な保育研修体制(「組織の原理と価値に対する継続的な批判的検討とその再構成を支える学習組織」)によって「周辺」化される子どもの保育に取り組んできた園・自治体の実践史料の比較検討によって、掲載が決まった研究成果の一般化を試みる。 4.3年間の研究成果をまとめ、報告書を作成する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
消耗品費の購入予定の見通しがやや甘かったために、次年度使用額301円が発生した。 1.「中心/周辺」論という分析視点の有効性に関する福祉哲学関連文献の購入。2.ケア」論に関する文献の購入。3.「組織文化」論に関する文献、社会的排除と包摂及び格差と平等に関する関連文献、保育者の専門性とその向上及び研修の意義・体制・方法などに関する文献、保育課程・指導計画の作成・実施・省察・再構成に関する文献などの購入。 4.保育課程の組織的検討を積み上げている園・自治体の史料収集(現地での写真記録・複写も含む)、聞き取り調査などを進めるための旅費が必要である。京都⇔静岡(1泊2日×2回)京都⇔その他(1泊2日×2回)などを予定している。5.聞き取りのテープ起こしに関する専門的作業を依頼するための費用。文房具類購入。6.なお、平成25年度の研究費(消耗品)の残額分301円は、次年度の消耗品費に加えて支出する。
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