2012 Fiscal Year Research-status Report
ポスト東日本大震災期の新たな留学生支援施策と大学の国際化第3フェイズへの転換
Project/Area Number |
24531053
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
末松 和子 東北大学, 国際交流センター, 教授 (20374887)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 留学生支援 / 危機管理 / 大学の国際化 / 国際情報交換(オーストラリア、アメリカ) |
Research Abstract |
東日本大震災が留学生および高等教育機関における留学生支援に与えた影響を検証することを目的とし、被災地の三大学(東北大学、福島大学、岩手大学)にて留学生を対象とした調査を実施した。調査ではアンケートと聞き取りを行い、留学生が震災時に取った行動と行動に影響を与えた要因、震災時に留学生が必要とする支援等を明らかにした。行動については、留学生の移動が激しい発災時から24時間以内、1日~3日、4日~7日間の3期において、留学生のデモグラフィー(学年、所属、出身国、使用言語など)が留学生の取った行動にどのように影響するのかを検証した。日本語に堪能な学部留学生や文系の学部研究生は幅広く情報収集を行い比較的冷静な判断をする傾向がある一方で、大学や生活で主に英語を使用する学生、日本人との接触が少ない学生は、同国者同士もしくは海外のメディアなどの限られた、または必ずしも正しいとは言えない情報に翻弄され的確な判断が出来ないケースが散見された。また大学により留学生が直面した問題や必要とする支援や、出身国により母国政府から得られる情報・支援が大きく異なることも明らかになった。 これらの調査結果は、豪州の三大学(シドニー大学、メルボルン大学、クイーンズ大学)での共同セミナー、ドイツ・ボン大学でのシンポジウム、東北大学でのシンポジウムなどで報告し高く評価された。国内外で同様の研究を行っている研究者や留学生の災害時の支援に取り組む地方自治体とも交流が生まれ、今後、研究・支援の両面で活動の幅を広げていく基盤を構築した。2013年6月には再度シドニー大学主催のセミナーで研究結果を報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
震災発生時に被災地の大学に在籍していた留学生を対象とした調査(アンケートおよび聞き取り)を実施し、調査結果の一部を国際シンポジウムで報告できたことは大きな成果であった。調査は当初予定していた日・英語の二か国語対応から、中国語を加えた三か国語対応に変更したり、回収率を上げるために大学の事務組織を巻き込んだ大掛かりな調査に発展させたため、準備や分析に予想以上の時間がかかったが、結果的に調査対象をより広げ信憑性・信頼性の高いデータを収集することが出来た。アンケート調査(東北大学のみ)については報告書を三か国語で作成し、学内外に配布するなどの情報発信も行った。聞き取り調査の分析と予定していた大学関係者等への調査はまだ実施できていないが、ネットワーク基盤を構築するなど準備は着々と進めている。また、国際シンポジウム等での情報発信が、共同研究や地方自治体における地震対策、防災マニュアルの作成に役立ったことも本研究の成果の一つといえる。本研究では主に被災した学生や大学を対象とした調査を実施しているが、日本国内の被災地以外の大学に在籍する留学生や教職員の震災への対応をテーマとした研究や、ニュージーランドの地震やオーストラリアでの水害などの自然災害にかかる大学の危機管理をテーマとした研究、またヒューマンセキュリティなど視点を変えた研究に携わる研究者との交流より得られた知見は大きかった。本調査の成果物となる外国人留学生・研究者受け入れにおける「災害発生時の緊急対応ガイドライン」の作成に向けた基盤づくりが出来た。なお、ボン大学主催のシンポジウムで報告した内容を「災害とメディア(仮)」の一章として寄稿するために、現在執筆活動を行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の留学生を対象とした調査の分析をさらに進める。留学生の震災時の経験、経験を左右する行動およびその要因、震災時に必要とする支援、震災後の進路選択等を基礎情報及び項目内でさらにクロス分析する。また、教職員をはじめとする留学生支援者への聞き取り調査を実施し研究連携者および各分野の専門家と幅広くディブリーフィングを行い、多角的な視点で調査結果を検証する。検証結果は震災時の危機管理と留学生への対応、震災がもたらした留学生支援への影響等の項目別に整理し、震災と留学生支援、ポスト震災機の留学生支援施策についての考察を深める。「災害発生時の緊急対応ガイドライン」を作成し、研究報告としてまた大学ホームページなどの媒体を通して国内外に情報発信する。6月にシドニー大学で開催されるセミナーや9月に開催されるEuropean Association of International Educators(EAIE)の年次総会で、研究成果を報告する予定である。このように、分析を進めながらも最新の結果はタイムリーに情報発信し、国内外の研究者および実務者との情報共有を意識しながら研究を推進する。 研究開始から2年間は調査・分析・考察に時間を費やし、論文や学会発表などの研究活動にも積極的に取り組む。最終的にはポスト震災時の留学生支援、次世代の国際化戦略について整理し、第3フェイズの国際化への議論を深める。調査をもとに組み立てた理論について国内外の研究者と議論を重ね、複眼的な検証を行う。さらに、理論をもとに、国家の危機にも適応できるサステイナブルな留学生教育・支援の具体的な施策を提案する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
国内外の国際学会で研究成果を報告するための旅費、研究連携者とのディブリーフィングや情報交換を実施するための研究会費用(旅費、会議費)分析を進めるにあたってのソフトフェア、人件費、「災害発生時の緊急対応ガイドライン」印刷費、研究に必要な書籍等の購入のための支出を予定している。
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