2012 Fiscal Year Research-status Report
国際移動する子ども・若者の音楽的アイデンティティ形成と学校音楽教育の国際比較
Project/Area Number |
24531117
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
杉江 淑子 滋賀大学, 教育学部, 教授 (30172828)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 国際移動 / 音楽的アイデンティティ / 若者音楽文化 / ニューカマー / ドイツのトルコ系移民 |
Research Abstract |
本研究は、外国人労働者受け入れ等に伴い多文化化しつつある日本社会における学校音楽教育の課題を国際理解教育の観点から明らかにし、ドイツの先行事例を検討しながら、日本の学校音楽教育に向けて具体的な教材・方法を提示することを目的とする。 平成24年度の研究実績は次のとおりである。 第1に1960年代末以降トルコ系移民を中心に外国人労働者を受け入れてきたドイツの状況を先行事例として検討するために、関連文献を収集し、調査研究の方法も含めて、内容を検討した。文献で取り上げられていた個別の事例からは、ドイツにおけるトルコ系若者の音楽文化にみられる外面的なドイツ文化への同化と内面でのトルコ文化への接近・葛藤・変容等の事例、トルコ系若者にとってのトルコのポピュラー音楽と伝統的音楽との関係など、日本の状況と比較可能な視点を引き出すことができた。また、ドイツにおけるトルコ系若者の音楽的アイデンティティの形成において、トルコ系ディスコの存在が大きな影響力を持っていることが紹介されており、「若者が集う場」と、その「場における音楽」という視点を本研究に加える必要性が示唆された。(ドイツの文献の検討に関しては、研究協力者の協力を得た。) 第2に、日本に移住してきたニューカマーの子ども・若者の音楽的アイデンティティ形成の過程を文化の継承・変容・複合化の観点から追究するために、日系ブラジル人の保護者の世代に聞き取り調査を実施した。聞き取り調査からは、移民等による長期的な国際移動に伴い、日系ニューカマーの子どもの保護者世代とさらにその前の世代との間、そして保護者世代と子どもの世代との間の両方において、音楽文化の継承が行われにくいという状況が起きていることが推定される。この点に関して、より明確に状況をとらえるために、今後、対象者を増やしてさらに聞き取り調査を継続して実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下、具体的目的項目ごとに、平成24年度の計画に対して、達成状況と達成が遅れた部分に関してはその理由を記す。 1960年代末以降急激に外国人労働者を受け入れたドイツの音楽教育を先行事例として検討し、成果と課題を明らかにすること(目的1)に関し、ドイツにおける異文化間音楽教育、多文化音楽教育の理論的進展については、研究協力者の協力のもとに基本的な整理と課題の検討が行われ、また、トルコ系移民の若者音楽文化の実態についてもかなりの程度把握することができた。しかし、ドイツの音楽教科書、教育参考書、教材集の収集が十分に行えず、教材の内容と方法に関する年代別整理と比較検討は今後に残された。 日本に移住してきたニューカマーの子ども・若者の音楽的アイデンティティ形成の過程を文化の継承・変容・複合化の観点から追究すること(目的2)に関しては、保護者世代への聞き取り調査を一部実施したが、主要な部分は、調査対象地域の選定、及び調査者と調査対象者の日程調整の都合上、調査時期を平成25年度夏に延期することにした。 日本の学校における多文化音楽教育の実態についての基礎的データを収集と分析(目的3)については、当初計画から、平成25年度以降に実施することとしている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、24年度に一部しか実施できなかった聞き取り調査を本格的に実施する。聞き取り調査は、滋賀県湖南市および長浜市、静岡県浜松市に居住する日系ブラジル人を中心に、10代前半~20代前半の子ども・若者とその親の世代である30代前半~50代前半までの年齢層を対象とする。 さらに平成25年度においては、当初計画通り、日本の学校音楽教育における実践プランの作成と検討を行い、プランについて学校教員からの意見を収集し、これまでの調査結果のワーキングペーパーを作成したうえで、関係者(学校教員、協力者等参加)による研究会を開催し、ワーキングペーパーを基に課題を再検討する。 音楽教育にかかわる関連学会 APSMER(the 9th Asia-Pacific Symposium on Music Education Research)が平成25年7月にシンガポールで開催されるので、そこで、これまでの研究成果を発表し、今後の研究方向について示唆を得る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度収支状況報告書の次年度使用額は、平成24年度に一部しか実施できなかった聞き取り調査の調査費用、及びドイツの音楽教科書、教育参考書、教材集等の収集のために、平成25年度助成金と合わせて使用する。 そのほかに平成25年度助成金は、平成25年度計画を遂行するために、及び、APSMERでの発表のための旅費等に使用する。
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Research Products
(2 results)