2014 Fiscal Year Research-status Report
国際移動する子ども・若者の音楽的アイデンティティ形成と学校音楽教育の国際比較
Project/Area Number |
24531117
|
Research Institution | Shiga University |
Principal Investigator |
杉江 淑子 滋賀大学, 教育学部, 教授 (30172828)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 国際移動 / 音楽的アイデンティティ / 若者音楽文化 / ニューカマー / ドイツのトルコ系移民 / 学校音楽教育 / 国際理解教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、外国人労働者受け入れに伴い多文化化しつつある日本社会における学校音楽教育の課題を、国際移動する子どもや若者の音楽的アイデンティティ形成という観点から検討し、国際理解教育の視点に立った教材・方法を提示することを目的としている。 平成26年度の研究実績は次のとおりである。 第1に、平成25年度に実施した日系ブラジル人保護者と子ども双方への聞き取り調査データを用いて、両親の国(文化)の組み合わせ、父方、母方のいずれが日系か、家庭の教育方針と言語環境、学校選択、国際移動の経験年齢、滞在期間等が子どもの音楽的アイデンティティの形成にいかに影響するかという観点から、個々のケースを分析した。その結果、家庭の言語環境及び学校選択(日本の学校か、ブラジル人学校か等)が子どもの音楽的アイデンティティの形成に影響すること、特に幼児期のそれらの環境がより大きく影響することが推察された。例えば、バイリンガルとして育った場合でも、幼児期の言語環境がその子どもの言語ベースとなり、それに音楽的アイデンティティのベースも対応すると推察される。ただし、成長の段階で、音楽的アイデンティティのベース部分は変容しないのか、あるいはどの部分が変容するのかといった観点からの分析・考察をさらに行う必要がある。第2に、ブラジルの子どもの歌に関わる資料(歌集、DVD、CD)を収集し、それぞれの歌の歌詞と音楽的な特徴を整理・分析して教材化の可能性を検討した。今後、これらの資料を活用した教材化と事例集の作成を行う計画である。第3に、平成25年度にまとめたドイツの1970年代から80年代初頭の多文化的な音楽教育研究の方向がその後どう展開されてきたかに関し検討を継続し、その過程で、参照すべき先行国の事例として他の多文化的状況にある国に対象を広げる必要性を認識した。 平成27年度は上記を踏まえ研究を継続し最終報告をまとめる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
以下、目的項目ごとに、これまでの達成状況について記す。 第1の、1960年代末以降、急激に外国人労働者を受入れたドイツの音楽教育の先行事例に関しては、関連論文や授業実践報告の収集・検討により、1970年代から80年代におけるトルコ系移民の子どものための音楽教育の理論面・実践面の進展の推移を整理し、研究報告として公表した (研究協力者:宮本2013)。また、1980年代以降のドイツの状況の変化や研究面の進展についても関連文献による考察を進め、ドイツの移民社会が以前より多文化化している状況を把握した。日本でも近年、南米系ニューカマーのみでなく、フィリピン、中国からの移住者による多文化化状況がある。このことから、ドイツに加え、より多文化的状況が進んでいる先行国の実践事例についても比較検討する必要がある。 第2の、日本のニューカマーの子ども・若者の音楽的アイデンティティの形成過程に関しては、滋賀県において質問紙調査を実施し、子どもの日常の音楽との関わりに関する一般的な状況を捉えるとともに、滋賀県と静岡県において保護者及び子どもの双方への聞き取り調査を実施し、祖父母世代→親世代→子世代への音楽文化の継承と分断という観点から、国際移動が音楽的アイデンティティ形成にどう影響するのかをケース・スタディとして分析し、公表した(杉江 2013)。しかし、国際移動の影響は、個々のケースの家庭環境、学校選択等の条件により異なってくることから、さらにケースを追加して調査データを集める必要がある。 第3の、日本の学校における多文化音楽教育の実施実態については、実践例が殆ど蓄積されていないことから、試行的な実践事例を示した上で、各学校の音楽科教員から意見を聴取する方向に調査計画を切り替えたい。 以上から、成果のまとめまでに幾つかの調査を追加する必要があると考え、(3)やや遅れていると評価した。
|
Strategy for Future Research Activity |
理由欄に記した事項を検討し、今後の研究を以下のように推進する。 第1に、先行国の実践事例については、多文化的状況が歴史的に早い時期から進んでいるカナダ及びオーストラリアに対象地域を広げて、資料収集・調査を実施し、ドイツの事例と併せて検討し、日本における具体的教材と実践方法の試行的提案の参考とする。 第2に、ケース・スタディの数を補完するために、滋賀県及び静岡県を中心のフィールドとして、保護者と子どもへの聞き取り調査を追加して実施する。とりわけ、家庭環境と学校選択の影響が大きいと考えられることから、日本の公立学校に通う子ども及びその保護者だけでなく、ブラジル人学校等に通う子ども及び保護者についても追加調査を実施する。 第3に、平成26年度末に新たなブラジルの子どもの歌の資料が入手できたので、この資料も含め、教材化の可能性のある子どもの遊び歌等について歌詞と音楽的側面の両面から検討し、試行的な教材化と実践事例の作成を行い、各学校の音楽科教員からの意見を聴取する。聴取した意見を踏まえ、再検討を行った上で実践事例集を作成し、研究成果として公表する。 上記を進めるために、平成27年度中に、実践事例集を作成するための検討会を2~3回開催する。また、これまでの研究成果を2015年7月に開催される国際学会(APSMER: 10thAsia Pacific Symposium on Music Education Research)、6月、10月に開催される国内学会において発表するし、研究成果報告書を作成するとともに、研究成果報告会を開催する。
|
Causes of Carryover |
平成26年度にケース・スタディを量・質ともに高めるために、学校関係者、地域社会、外国へと対象を広げて聞き取り調査を実施する準備を進めたが、日程が調整できず次年度実施とならざるを得なかった。また、日本の学校における多文化音楽教育の実施実態については実践例が殆ど蓄積されていないことから、試行的な教材化や実践例を研究者側から提案した上で、各学校の音楽科教員から意見を聴取する方向に調査計画を切り替える必要があると判断された。そこで、平成26年度末に新たなブラジルの子どもの歌の資料が入手できたことにより、この資料を検討した上で試行的な教材化と実践例の作成にかかることとしたため、意見聴取の調査の準備が整わず、次年度に実施することとした。 以上に加え、国内外での研究成果の発表や研究成果報告書の作成を次年度に行うこととしたことため、未使用額が生じた。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
先行国の実践事例について、対象地域を広げて資料収集・調査を実施する。ケース・スタディの質・量を補完するために、保護者と子どもへの聞き取り調査を追加して実施する。その際、日本の公立学校に通う子ども及びその保護者だけでなく、ブラジル人学校等に通う子ども及び保護者についても対象とする。平成26年度末に入手した新たなブラジルの子どもの歌の資料について教材化の観点から検討し、試行的に教材化と実践例を作成し、各学校の音楽科教員に提案して意見を聴取するための調査を実施する。聴取意見を踏まえ、実践事例集を作成し、研究成果として公表する。 上記のために、平成27年度中に、実践事例集を作成のための検討会を2~3回開催する。また、これまでの研究成果を2015年7月に開催される国際学会(APSMER)、6月、10月に開催される国内学会において発表し、研究成果報告書を作成するとともに、研究成果報告会を開催する。
|