2012 Fiscal Year Research-status Report
小学校音楽科における「音を聴き味わい楽しむ時間」の導入効果に関する研究
Project/Area Number |
24531155
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
阪井 恵 明星大学, 教育学部, 教授 (00308082)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 音楽科教育 / 音色 / 周波数解析 |
Research Abstract |
2012年4月~2013年3月にわたって、東京都品川区立立会小学校において、「音を聴き味わい楽しむ時間」の研究実践を行った。3年生3クラス(計108名)を対象とした音楽授業で、各回20分程度の実践を、隔週1回ペース、合計16回行った。 実践内容の概要は、以下のようなものである。1.しんと静まる練習。 2.持参した音源から発する音について響き具合や音色をよく聴く練習。これは出来るだけ多様な経時的変化を含む、比較的音量の小さい音を選ぶ。 3.1つのもの(例:新聞紙、紙箱、カサ袋、雨花石)から多様な音色を出す工夫と聴き合う練習。4.「音の立ち上がり」「音色(おんしょく又はねいろ)」「音のすがた」という言葉を使用して、音のイメージを持つ練習。5.音を聴いて動きで表現する練習。6.音を聴いてオノマトペで表現する練習。(プリント記入など)7.長期休暇期間の課題としての音探し→「音見つけカード」への記入。提出物には、共感的なコメントを入れてすべて返却。8.その他。 以上については、映像及びメモによる記録、児童の提出物コピーが資料として蓄積された。 2月半ば、作曲家・尺八奏者の中村明一氏の協力を仰ぎ、「音をみる・きく音楽会」を企画・開催した。「音のおはなし」として、これまで身体を通してのみ味わっていた音の姿を、周波数解析ソフトの画像によって見せる試みを行った。言語音、環境音には多くの周波数成分が含まれ、それによって多様な情報が伝えられていること、音楽の表現力はそれを人間が工夫し作ったり使ったりしていることを伝えた。尺八音楽を中心とする音楽会ながら、児童は集中して聴けた。質問紙調査を行い、資料として整理中である。 予定外だが、3月に立会小学校で行われたオーケストラコンサートでも、本研究の対象児童がどのような聴きかたをしたか、質問紙調査を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
小学校現場に入って行う実践研究であるため、受け入れ先の確保やその人的・物的環境、信頼関係などが非常に大きな実施条件となる。その点において24年度はきわめて順調であり、25年度についても新しい協力校との関係をスムーズに構築して研究を進めている。 他方、本務校の業務が非常に多忙化したことが原因で、授業実践後の整理および本研究に必須の質的・量的分析のための時間が、24年度は十分に得られなかった。また、実践の補助にアルバイトを使ったが、かなり洗練された作業を含むデータ整理部分については、適当なアルバイト人材を見つけられなかった。そのため24年度に得た貴重なデータの分析が進捗していない。また学会における口頭発表や、少なくとも経過を報告した研究ノートの発表をすることが出来なかった。 しかしながら、協力者の中村明一氏をはじめ、録音技術者の専門家(以上は音の現象についての音楽的・音響学的助言)、音楽教育学会員の研究者諸氏(以上は、データの質的・量的分析の技術的方法に関する助言)などとの交流により、研究の進め方について多くの示唆を得た。その結果、音楽授業において、音の様態をある程度視覚的に確認することが有効ではないか、などの新しい発想を持ち、試してみるに至ったのは収穫だった。 尚、申請時の計画書には、「音を聴き味わい楽しむ時間の導入効果」の1つとして、「児童が落ち着きを得る」ことを予想し、実証したいということを含めていた。しかしこの点は「音色をよりよく聴き取る」ことの中に収束させることが出来ると考えるに至った。したがって、特に別建てでは扱わないことにした。 以上を総合すると、1年目としてはおおむね順調な進捗状況と認められる。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り、東京都豊島区立南池袋小学校において、4年生67名を対象に、隔週1回ペースの研究実践を開始した。昨年度実施の品川区立立会小学校とは、地域性や取り組みの特色が異なること、昨年は3年生を対象としたのに対し今年は4年生対象であること等に配慮し、昨年のプログラムに修正を加えた計画を立てている。3月にプロの演奏家の協力を得て学年コンサートを開催し、音色を手掛かりに親しみの少ない音楽にも興味をもってアプローチできるかどうか、実践の効果を見る。 以上の実践と並行して、24年度立会小学校でのデータを含め、児童の言説の質的分析を進める。昨年度は時間の制約で、生のデータを確認しKJ法によって分類する程度のことしか出来なかった。一方、他の研究者から示唆を得て統計解析ソフトの可能性も学んだ。25年度はこれを使いこなし、児童への質問紙調査を洗練し、音色への関心が音楽へのアプローチ法としてどれだけ有効か、検証を進めたい。 24年度に周波数解析ソフトを使い、児童に対して音を視覚化して示した試みは、かなり有効と思われる。24年度に行ったのは単純な周波数成分の提示であったが、25年度は声紋分析ソフト等も使用し、音楽のより多くの側面(日本の伝統的な声楽、諸民族の音楽)にアプローチできるようにする。そのためには、音響学・音声学についての専門知識提供を受け、自ら理解を深める必要がある。専門家の指導を受ける予定である。 経過について日本学校音楽教育実践学会、音楽教育学会で口頭発表し、批判や今後の進め方についての助言を仰ぐ。また「音色を聴く」活動の意義と理論、試行錯誤中の実践経過に関して、国際音楽教育学会2014年度大会に向け論文投稿を行う。最終年度には、現場にとって理論的にわかりやすく、また実際に使用可能な教材を提示した小冊子等を作成する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、平成24年2月に申請したカワイサウンド技術・音楽振興財団の研究助成費(音楽振興部門)も獲得することができたため、科研費から少し余剰が出る結果となった。 平成25年度の使用計画としては、旅費・交通費(10月日本音楽教育学会発表=弘前大学、研究協力校=東京都内)、人件費(研究授業実践の機材運搬・ビデオ撮影、データ整理・打ち込み)、謝礼金(演奏家へ=学校コンサートの開催、音響解析等の専門知識提供者へ)、音声・音響解析ソフト購入費、専門書籍購入費、以上が予定している主たる費目である。
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