2013 Fiscal Year Research-status Report
小学校音楽科における「音を聴き味わい楽しむ時間」の導入効果に関する研究
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24531155
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Research Institution | Meisei University |
Principal Investigator |
阪井 恵 明星大学, 教育学部, 教授 (00308082)
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Keywords | 小学校音楽科 / 音色 / 倍音 / 聴く |
Research Abstract |
研究期間2年目に当たる25年度は、東京都豊島区立南池袋小学校4年生(2クラス68名)を対象に、音楽授業に参与しながら「音を聴き味わい楽しむ時間」を設けた。同校の都合により研究実践の回数は当初の予定通りに取れず、11回に留まった。音楽担当教員(初任者)との連携には苦慮することが多く、現場との協力関係による実践研究の困難に直面した。 研究実践の内容は、1.様々な音色の聴取+その音を用いた「音楽づくり」活動の組織 2.「聴く」という行為への多角的な注意喚起 3.歌唱や器楽と関連づけた「音色」への関心喚起 4.長期休暇中の音探しとカードへの記入 5.周波数解析ソフトによる音の視覚化体験、である。4.については、共感的なコメントを入れ、すべて児童に返却した。3月初旬に、作曲家・尺八演奏家の中村明一氏の協力を仰ぎ、「音を楽しむ音楽会」を企画・実施した。内容は、音色を生み出す倍音が極めて豊富な楽器である、尺八、ハープギターを主としたソロと、ベースも加えたジャズ風セッションであった。事前学習のために2月に45分の授業を行った。弾性波としての音の性質、倍音の概念について、様々な楽器や児童の声を、周波数解析ソフトにより視覚化する活動を通して講義した。コンサート後、昨年度に引き続き児童への質問紙調査を実施・回収した。昨年度分と比較しながら、現在分析中である。概ね明らかになったことは、(1)倍音の概念は小学校中学年にも理解が可能であること (2)音の視覚化体験は、聴き方にプラスの影響を与えること、である。 他方、24年度の研究経過の発表を次の通り行った。①『季刊音楽鑑賞教育』誌上 ② 日本学校音楽教育実践学会第18回大会(口頭発表) ③ 日本音楽教育学会第44回大会(口頭発表) これらの発表に対して、学校現場と研究者諸氏から意見や今後の方向性に対する要望があり、一定の成果を収めることが出来た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2つの理由による。 (1) 研究協力校との連携の問題 25年度は東京都豊島区立池袋小学校4年生を研究実践の対象とした。同校では25年度から初任者の音楽専科教諭が着任し、音楽科の運営に関して必然的に余裕がなかった。研究者として、予定した研究の遂行以前に授業支援が大切だと考え、そのペースの中で研究の軌道修正を試みたが、首尾よく行うことは出来なかった。取る予定だったデータが充分に取れていない。 (2) 本務校における管理業務の著しい増加 明星大学教育学部の学部長補佐として、担当授業コマ数が減らないままに管理業務が著しく増加し、研究のために使える時間を取るのが非常に困難な1年間だった。教育活動においても、所属学部が初めての卒業生を出すに当たり、教員採用試験や就職試験へのサポートが必要で、業務が増加した。研究実践と、年間2回の学会口頭発表の準備に追われ、それ以上進展させることができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度~25年度の2年間にわたり、予定していた小学校現場における実践研究の部分の遂行を終了した。児童の時々の記述や映像データを含む実践記録の分析を、改めて進めている。 児童が、日本の伝統音楽に代表されるあまりなじみのない音楽に接するとき、音そのものの響きに対する感覚印象が、第一の判断材料となる。本研究では、音そのものの響きを、折々に「音」と表記したり、「広義の音色」と説明したりしてきた。この概念は、文献資料・音響学の専門家・プロの音楽家などから2年間に得た知識を通して、「倍音構造の経時変化」と言い換えて説明できることが明らかになった。したがって本研究のゴールは、倍音構造の経時変化に対する児童の感受性は、一定の指導により高められることを明らかにし、その方法を示すこと」と言える。この点に関して、記述的研究としての成果を上げることは出来たので、7月に国際音楽教育学会で発表を行う。 一方、音楽科教師が「倍音構造の経時変化」という音の捉え方を理解することは、ジャンルや様式を越えた近未来の音楽科教育のために、重要な鍵になる。しかし現状では、音楽の教員はこのような捉え方に慣れていない。音楽の検定教科書も、近年の音に関する研究成果を適切に反映していない。この点については、今後の啓蒙的な働きかけが重要である。音楽の実践を中心に学んできた現場の教員は、音響学や音声学の基礎をもたない。そこで、音楽の実践と教育活動の実際に即して理解することが出来、音楽授業に活用できるような小冊子『音の話』(仮題)を試作してみる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の遂行にかける時間が予定より大幅に減少し、研究遂行のための経費支出が少なかった。具体的には、25年度中に着手する予定であった教員向けの冊子や視聴覚資料の作成、そのために求めるべき専門知識保有者へのアプローチが叶わず、結果的に研究費の支出も減少した。 また研究経過を発表した「日本学校音楽教育実践学会」及び「日本音楽教育学会」の開催地への旅費が、予定より大幅に少額で済んだことも、次年度使用額が生じた理由の一端である。 7月に国際音楽教育会議(ブラジル、ポルトアレグレ市)で研究発表をするための渡航費用として、約70万円の支出を予定。これまでに小学校現場で取材したデータ(映像記録、児童の発言・記述記録)の整理と読み込みの補助者に掛かる人件費に約10万円を予定。その他、小冊子の作成に関連して、専門知識提供、編集、印刷等の費用が見込まれる。以上が主たる費目である。
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