2012 Fiscal Year Research-status Report
視覚障害者教育のための言語化困難な映像情報提示・教育・学習方法に関する基礎研究
Project/Area Number |
24531231
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tsukuba University of Technology |
Principal Investigator |
大西 淳児 筑波技術大学, 保健科学部, 教授 (30396238)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 視覚障がい / 画像提示方法 / 画像処理 / 点字 / 触覚 / 情報補償 |
Research Abstract |
本研究は、映像情報を視覚障がい者に提供する際に、従来の輪郭情報を主とした形状情報の他、映像情報の大半を担っている「見た目」と言われる言葉に表現しがたい情報を提供・共有するための方法について検討を行うものである。 24年度の研究では、自然画像を対象として、ベクトル量子化の考え方に基づいた方法により、画像情報をテキスト表現化する方法を検討した。この方法の基本原理は、インターネットの文字掲示板などにおいて散見される「アスキーアート」の方法を取り入れたものである。自然画像をアスキーアートで表現する場合、画像の特徴を示すのにもっとも適する記号・文字を選択することになる。この考え方は、画像をベクトル量子化で符号化する考え方に近い。そこで、この研究では、まず、自然画像の特徴をベクトル量子化の考え方に基づいて、クラス分類し、点字(テキスト情報)で表現するコードブックの作成と提示のソフトウェアを作成し、点字ベース画像を用いた映像情報の提示実験を行った。まず、点字ベースの画像の作成では、自然画像の見た目の特徴を維持しつつ、ガウス分布に基づく適応バイナリー変換を行う。この画像を横32文字、縦24行の、一般的にA4サイズの点字印刷をする際のマス数に合わせて、バイナリー画像を領域分割する。各領域を更に、点字のドットパターンに合わせて、横2マス、縦3マスの合計6領域にサブ分割を行う。それぞれの領域において、白ピクセルの密度が半分を超える場合に点を打ち、それ以下の場合は打たないという法則に従って、点字ベース画像ができあがる。この点字ベース画像は、アスキーアートと同様に見た目の印象を損なうことがなく、健常者が観察しても、画像の見た目の内容を概ね把握できる特徴がある。この画像を用いて、視覚障がい者と画像の見た目の特徴の情報共有実験を行ったところ、互いに画像の特徴部位を共通認識できるなどの成果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、主として、自然画像の「見た目」を提示するための方法として、アスキーアート作成の技術に基づく、点字ベース画像の自動生成ソフトウェアの開発を行ってきた。このソフトウェアの開発では、画像の局所的な特徴量をガウス分布に基づく適応バイナリー化方法を巧みに利用して、点字パターン生成のルールを作成した。この方法で作成された点字ベース画像を実際に読み取り、画像の「見た目」に関する情報を詳細にやりとりする実験を通じて、従来では、一方的に画像の内容を説明するだけで、視覚障がい者がその言葉からどのように理解したのかを確認する方法がなかったが、規則性のある点字パターンを利用することで、説明した内容と画像の局所的な位置をお互いに確認しながら、映像情報を共有することが可能であることが分かった。 一方、視覚障がい者が局所的な部位を指し示して、画像の詳細内容を求めることは可能となったものの、映像の大半は、言葉による適切な表現がないものが多く、どうしても、言葉によるインデックスキーワードの提示になってしまう問題が残された。IBMは、今後5カ年で人々の生活を一変させる5つのイノベーションがあり、情報技術の発達によって、コンピュータが独自の方法で見たり、匂いを感じたり、触れたり、味わったり、聞いたりするようになるコグニティブ・システムの時代が到来すると予想している。すなわち、人間の五感を独特の方法で模倣する能力をコンピュータが持つようになるという予想である。これは、映像1ピクセルが1000語に値し、今後の映像理解においては、ピクセルから意味を見いだす技術開発の可能性を指摘しているものである。本研究でも、このような考え方に基づいて、ピクセル単位の情報提示を考えていくことが課題となる。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度半ばより、スマートフォンやタブレット端末などのタッチディスプレイに新たな触覚フィードバックを備えたデバイスが登場してきた。今後の情報技術は、人間の五感をコンピュータ処理するための技術開発が一層進むとみられ、映像の分野では、「見た目」の解析を従来の言葉単位から、ピクセル単位の分析へと進むと言われている。また、触覚においても、手触り感や材質感を遠隔地において直に感じることができるようになると見られている。そこで、この研究においても、このような最先端の技術を取り入れ、タッチディスプレイの触覚フィードバック機能を利用し、映像のテクスチャー情報や見た目に関する情報を触感を通じて提供するなどの課題の検討を進める予定である。 この研究成果は、視覚障がい者がタッチスクリーン上に映し出されたオブジェクトへアクセスするための技術を開発する際の、触覚感覚の判別精度の指標にもなり、数多くの分野での応用も期待できる。触覚も見た目も共に、言葉にならない情報を含む点で共通しており、触覚を活用することが、本研究の課題を解決する上で今後大きな意味を持つと考える。 そのため、当初は、従来の点字パターンなどの決まった規則に基づくもので「見た目」情報を提供する方法に着目していたが、今後は、このような触覚フィードバックの最新技術を踏まえた柔軟な発想に基づく方法を通じて、本研究課題の解決方法を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
近年、触覚フィードバック機能をもったタッチスクリーンが注目を浴びてきた。本研究では、主に、点字プリンターを活用した点字ベースの画像提示方法についての検討を中心に予定していたが、人間の五感に活用する情報技術が発達し、人工触覚を作り出すポータブルデバイスも登場してきている。これらのデバイスでは、多彩な触感を人工的に作り出す機能がある一方で、その活用の方法については、未だ、未発達なところが多い。そこで、本研究においても、これらの最新の情報技術を踏まえて、従来の凹凸をベースとした触感だけに着目することなく、多彩な触感覚を活用する視点をもって課題解決を行うことが重要であるという認識に至った。そのため、25年度は、触覚フィードバックディスプレイ機能を備えた最新端末を数台利用して、映像のテクスチャーや領域区別などの方法について検討を行うことを予定している。これにより、人工触感を人間がどの程度の精度で判別できるかなどの指標を得ることが期待でき、また、触感が一様で視覚障がい者にとってアクセスが容易ではないタッチスクリーンへのバリアフリー化方法を検討する上での資料となると期待できる。 一方、24年度の残予算が生じた主な理由は、まず、触覚フィードバックタッチパネルの実用化への期待が高まり、本研究課題の解決をするために、従来の触覚技術に限定する必要性がなくなり、実装端末の登場が期待できることから、点字作成関連の予算の使用を限定したこと、および、また、この研究方向の変更により、当初予定していた国際会議へ参加しなかったことが挙げられる。25年度では、触覚フィードバックタッチパネル機能を実装した端末を実験用に購入すると伴に、それらの端末を使った実験協力の費用を必要とする。また、25年度計画に予定した対外発表件数が、当初より増える見込みであり、24年度の残予算をこれらの経費へ充当する計画である。
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