2013 Fiscal Year Research-status Report
障害児家族の生活・養育困難と学校教育の課題に関する実証的研究
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24531246
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
越野 和之 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (90252824)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
丸山 啓史 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (00452368)
窪田 知子 滋賀大学, 教育学部, 講師 (30599254)
河合 隆平 金沢大学, 学校教育系, 准教授 (40422654)
田中 智子 佛教大学, 社会福祉学部, 准教授 (60413415)
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Keywords | 障害児 / 貧困 / 生活・養育困難 / 特別支援学校 / 寄宿舎 / 離島 / インクルーシブ教育 |
Research Abstract |
本年度は、4回の研究会を開催して研究の進捗状況を確認しながら、以下の学会報告および調査研究を実施した。 日本教育学会第72回大会(2013年8月28-30日)では、「障害のある子どもの生活・養育困難に対する特別支援学校教員の認識と対応」とのタイトルで研究発表を行い、2012年7-9月に実施した特別支援学校教員へのインタビュー調査の内容について、特別支援学校に通う障害のある子どもとその家族の生活・養育困難の実態とその学校教育への影響、子どもと家族への対応などを中心に報告した。この報告内容を整理し、丸山・窪田・河合・越野・田中「障害児家族の生活・養育困難と特別支援学校教員の対応」(京都教育大学紀要第124号、2014年3月、29-44頁)、窪田・丸山・河合・田中・越野「障害児家族の生活・養育困難に対する教員の認識―特別支援学校教員へのインタビュー調査から―」(『滋賀大学教育学部紀要』第63号、2014年3月、31-38頁)にまとめた。 調査研究については、①「離島における障害児の養育困難に関する調査」を実施した。鹿児島県の離島地域を対象とし、屋久島町(屋久島)、和泊町・知名町(沖永良部島)、徳之島町・伊仙町・天城町(徳之島)、奄美市(奄美大島)において、療育機関、保育所、学校、就労・生活支援施設の各関係者と保護者へのインタビューを行った(2013年10月28日-11月2日)。 ②「寄宿舎指導員からみた障害児の養育困難に関する調査」では、特別支援学校寄宿舎指導員を対象にグループインタビューを行い、「貧困」ないし「養育困難」と判断される子どもの実態、そうした困難な実態が子どもの発達や教育実践に与える影響、これらの状況に対して寄宿舎および学校としていかなる対応を行っているかについて調査した(2013年12月7日)。以上の調査結果は、全国障害者問題研究会第22回発達保障研究集会(2014年3月23日)において報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、学校教育を主軸に生活・養育困難を抱える障害児へのライフサイクルを通じた支援課題を明らかにすることを目的として、離島の実態調査および寄宿舎指導員へのインタビュー調査を実施した。 調査研究からは、障害児家族の困難としては、経済的困難、食事・衣服に関わる困難、保護者の障害・困難などがあり、その背景として特別支援学校において一人親家庭率が高いこと、保護者に障害がある(疑われる)家庭数が少なくないことが、生活・養育困難の背景にあることがうかがえた。特別支援学校教員は、障害のある子どもと家族が生活・養育上の困難をさまざまに経験していることを把握しており、費用の立て替え、物品の貸与・提供、保護者の障害・困難への配慮、子どもの生活技能向上のための援助などを行っていた。こうした実態は寄宿舎指導員においていっそう認識されており、こうしたことが、子どもの貧困・養育困難に対する寄宿舎の教育的および福祉的な役割を強く意識させていることが示唆された。 また、障害がある場合を含め、子どもの養育は、地域社会における諸資源を活用して行われることから、当該地域の社会資源の整備状況等の制約を受ける。今回、社会資源が十分整備されていないとみられる地域として、鹿児島県の離島地域を対象に実態調査を行った。離島地域には特別支援学校がほとんど設置されていないため、特別な教育を受けようとすると、子どもと家族に大きな負担が生じる。今回の調査でも「この島で暮らしたい、学びたい」という離島に住む障害のある子どもと家族の要求が、インクルーシブな社会と学校を実現していくうえで共通かつ不可欠の課題であることがあらためて明らかになった。 これらの研究成果の整理と発表については上記に述べた通りであり、本年度の研究計画をおおむね達成することができたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究計画の最終年度にあたる平成26年度は、3年間の成果を総括し、最終報告書にまとめる作業が中心となる。 2年間の研究を通じて明らかにしてきたように、障害のある子どもの家族・家庭の困難は、学校教育にも深く関わる問題であり、学校・教師の対応のあり方が問われる。また、子どもの学齢期にはほとんどの子ども・家庭が学校に関与することからも、家族・家庭の生活・養育の困難に関わって、学校が果たすべき役割や果たし得る役割、そして学校教育等の現場での実践的課題を明らかにすることが最終的な到達目標となる。具体的な検討課題としては、①障害児家族が抱える困難の独自性をふまえて、障害児家族の生活・養育の困難を軽減していく支援の基本的な方向性を明らかにする、②子どもの貧困をめぐって障害のある場合の固有のあらわれと発達期に共通する問題を整理し、学校教育の実践課題を明らかにする、③障害のある子どもの家族の社会的な位置づけと社会的支援のあり方をめぐって、障害児者の家族の当事者性をふまえて子育てやケアの私的/公的な境界をどう考えるのか、などが考えられる。 以上の内容を最終報告書としてまとめていくために、研究会を定期的に開催し、総括的な議論を継続して行う。これらの作業経過および成果の一部については、日本特別ニーズ教育学会第20回研究大会(2014年10月18-19日、茨城大学)において報告し、全国障害者問題会『障害者問題研究』第42巻4号(2015年2月発行予定)における特集論文「障害児家族の生活・養育困難と学校教育」として複数発表の予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究の進展および障害児者・家族をめぐる社会情勢の変動に伴い、次項で述べる放課後等デイサービスを対象とした質問紙調査の実施が必要であることが明らかになった。次年度に上記調査を実施するために、所要の経費を捻出するため、旅費および謝金等を節約した。 児童福祉法改正(2012年4月施行)によって新設された制度である放課後等デイサービスは、制度実施後の2年間で急増しており、障害のある子どもの養育等に大きな役割を果たすようになっているが、その実態は必ずしも明らかではなく、当該制度を利用して障害のある子どもの養育支援を行っている事業所等を対象とした調査が求められている。前掲のようにして捻出した研究費を用いてこの実態調査を実施する予定である。
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Research Products
(6 results)