2013 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラムにおける前頭葉機能の本態解明と実態に即した支援の効果の研究
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24531261
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Research Institution | Bunkyo University |
Principal Investigator |
成田 奈緒子 文教大学, 教育学部, 教授 (40306189)
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Keywords | 自閉症スペクトラム / 高次脳機能 / ワーキングメモリ / 前頭葉 |
Research Abstract |
本研究では、自閉症スペクトラム(ASD)児者の高次脳機能について、低下と捉えるのではなく、神経ネットワークの異所性変化、もしくはdefault mode networking(DMN)システムの差異がその本態であると考えた。昨年度は、ASD児者における外部入力刺激に応じたDMNの抑制機構が、申請者の作成した既存の実験系においてはどのように関わっているかについて検証できるタスクを新規に作成して近赤外線酸素モニター(NIRS)により解析し検証する実験系を作成し、ASD者とボランティア被験者で比較した。その結果、酸素化ヘモグロビン(oxy-Hb)濃度の平均値において、ボランティア被験者ではDMNからベースラインに切り替わる際のoxy-Hb濃度の速やかな上昇が見られ、逆にベースラインからDMNに切り替わる際のoxy-Hb濃度の反応性の減少が見られたが、ASD者においてはこの傾向が観察されず、不規則なoxy-Hb濃度変化がタスク遂行中に認められた。 今年度は、この結果をもとにした独自の前頭葉機能賦活を目的とした、リズム遊びと旗揚げ遊びを取り入れたプログラムを、小学校特別支援学級の児童18名に6か月間にわたり定期的に行い、前頭葉の機能を推測する各種のテストと、一部の児童に行ったNIRS解析の結果を分析した。リズム遊びのみを行った回に比較して、リズム遊びと旗揚げを両方行った回では、認知機能テストの正答率が有意に上昇した。また、6か月間のプログラム終了時に旗揚げ遊びを行っている際のNIRSを、同意・参加が得られた6名の児童で測定したところ、右側有意の賦活が遊びと一致して認められ、タスクに呼応した前頭葉の活性変化が獲得できたと考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、これまで申請者が段階的に蓄積をした基礎的・臨床的研究成果を基にして、自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder, 以下ASDと略す)児者における前頭葉高次機能が、より効率的に発現するための刺激入力の工夫を実験的・実践的両側面から検証することを目的とする。刺激入力のない状態で大脳皮質に起こるdefault mode networking(DMN)に着目した脳機能実験によって、ASD児者が健常群と異なる前頭葉血流変化を持つことが確認できた。さらに、実践的にはこれまで得られた結果を基に、実際に教育現場での一定期間実践を行い、前後に種々のパラメーターで検証を行った。その結果、児童の前頭葉機能の改善をうかがわせる所見、および脳機能のタスクに一致した賦活が認められ、これまでの実験結果から得られた推論が、実践的に証明された。 これまでの研究成果は、今年度も学術論文や著書、講演会や雑誌等メディアでも広く発信しているが、今後はさらに広く社会への提言を行っていきたいと考えている 以上より、研究の目的とした内容については、概ね順調に遂行していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、研究期間の最終年度であり、これまでの成果から得られた結果を統括し、より確固たるエビデンスとしてまとめた上で、社会に発信していくことを主眼に置く。具体的には、論文執筆、学会発表やシンポジウム、一般誌寄稿、そして講演会活動などである。 また、これまでに集積された種々のタスクにおける脳活動実験において測定された、ASD者と健常コントロールとのタスクに伴うoxy-Hb濃度の変化の差異についても、今後再度データを見直し、単なるoxy-Hb値の平均値の差異で表すのではなく、oxy-Hbの上昇速度、すなわち微分値を解析することにより、さらに正確に把握できるよう再検討を行っていくことを考えている。これにより、さらにASD者における前頭葉機能賦活の特徴をより詳細に知ることができると考える。そして、この課題については、これまでも多くの共同実験を行い、協力を得ている日大生産工学部綱島均教授・柳澤一機助教の協力を得て、行っていく予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該年度において前年度未使用額が生じたため、物品費、人件費、その他経費に分割して充当した。それに加え、旅費、及び人件費・謝金が当初予算より低額で抑えられたことにより、次年度使用額が生じた。 次年度は研究統括の年に当たり、これまでに蓄積されたデータの入力、統計処理などのアルバイト料、及びさらに被験者数を増やすための追加実験が行われる予定であり、人件費・謝金への出費が増大する予定である。また、成果について検討するため、日大生産工学部を初めとする実験協力者との打ち合わせ・会議のための旅費も必要になる予定である。さらに、成果発表のための学会参加に伴う旅費も必要になる予定である。
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Research Products
(10 results)