2012 Fiscal Year Research-status Report
保型形式の整数論、具体的構成の観点からの研究領域の拡張
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24540025
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
成田 宏秋 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (70433315)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 例外型リー群 / 一般化ホウィッタカー関数 / 5次元双曲空間 / マースカスプ形式 / テータリフト / 保型L関数の中心値 / 超幾何関数 |
Research Abstract |
1.例外型リー群G_2の保型形式に関する研究については、ハイゼンベルグ放物型部分群に関する一般化ホウィッタカー関数の明示公式の研究を四元数離散系列表現の場合で行ったが、すべてのハイゼンベルグ群の指標の場合で0になるという結果が出た。しかしこれはノーラン・ワラック氏が与えた四元数離散系列表現の一般化ホウィッタカー関数の一般論と矛盾するものである。これについては、もっと一般の離散系列表現の場合に研究対象を広げることで、この矛盾の原因を突き止めることを考えている。 2.楕円マースカスプ形式から5次元双曲空間上のマースカスプ形式へのリフティングの研究であるが、その構成ができたように思われる。楕円マースカスプ形式のフーリエ係数からリフティングのフーリエ係数を適切に定義し、それにより構成した5次元双曲空間上の関数によりリフティングを与え、マースの逆定理を使ってこれがマースカスプ形式であることを証明した。 3.整数論に限定しない方向の研究については、定符号四元数環上の保型形式と2次のシンプレクティック群の非分裂で非コンパクトな内部形式へのテータリフトという2つの保型形式に対する、ランキン保型L関数の中心値の正値性を超幾何関数の特殊値で統制する研究を進めていた。当初は-1での特殊値について調べていたが-3での特殊値についてもこれらの保型L関数の中心値の正値性と関係することが分かった。具体的には今述べた超幾何関数の特殊値がある特定の値にならなければ、上記の保型L関数の中心値が正となる定符号四元数環上の保型形式ないしは上記のテータリフトの存在が言えるということである。これについては九州大学の蛭子彰仁氏が、この2つの超幾何関数の特殊値の問題を多くの場合について解決し、これによりこのランキンL関数の中心値が実際に正になる上述の保型形式が無限に存在することを証明できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1.1つ目の例外型リー群G_2の四元数離散系列表現に対するホウィッタカー関数の研究については予定よりも遅れていると言わざるを得ない。この関数を特徴づける微分方程式を書き下すところまでは進んだが、その解の計算を何度も試みたものの、解がゼロになるという既存の一般論とは矛盾する結果が出てしまった。現在はこの矛盾の理由が十分はっきりしておらず、引き続き研究する必要があると考えている。 2.リフティングの研究については、ほぼ予定通り進展が得られたと言えると思う。実際、24年度のこのテーマについての目標はリフティングの構成であった。 3.3つ目の保型L関数の中心値と超幾何関数の特殊値の研究については、-1での特殊値だけでなく-3の特殊値との関係も分かり、且つそれにより保型L関数の中心値の正値性に関する結果を得たことは予定以上の進展と言える。また更に、最近この保型L関数の中心値の正値性については、国立台湾大学のミンルン・シェ氏と京都大学の千田雅隆氏による四元数環の保型L関数の中心値の素数pを法とした非消滅に関する結果を応用すると、かなり一般的な状況で私の関心の保型L関数の中心値の正値性が言えることが分かった。またこの方針の研究は研究実績の概要で述べたテータリフトの非消滅の必要十分条件が、持ち上げられる2つの四元数環上の保型形式のアトキン・レーナー対合の符号の一致のみで十分であるという強い結果を与えるものであることも分かった。 以上を総合すると、3つの項目について進展に違いはあるものの全体的にはおおむね順調であると自己評価したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
1.例外型リー群G_2の保型形式の研究については、一般化ホウィッタカー関数の明示公式の研究を引き続き行う。ワラック氏が与えた一般論との矛盾を明らかにするために、これまで扱っていた四元数離散系列表現の場合に限定せず、一般の離散系列表現の場合に対象を広げ研究を続ける方針である。 2.5次元双曲空間のマースカスプ形式へのリフティングについては、構成したリフティングへのヘッケ作用素の作用を考え、このリフティングに付随するL関数について研究をしたいと考えている。またこの研究は定符号四元数環上の次数2の一般線形群上のカスプ形式でラマヌジャン予想を満たさない例を与えることにつながることを期待しつつ研究を進めるべきであると考えている。 3.整数論に限定しない方向の研究については、超幾何関数の特殊値という整数論とは異分野にあるものを保型L関数の中心値と関連させる研究を続けてきたが、24年度の研究を通して大きく進展したと認識している。しかし超幾何関数の特殊値の問題については厳密には蛭子氏が完全に解決したわけではない。今後の研究の方向性の一つとして、蛭子氏が扱わなかった場合で超幾何関数の特殊値と保型L関数の中心値の研究を進めることがあると思う。更にこの方面の研究については、可能であればもう一つのテーマとして考えている実数値保型関数の幾何学的応用について研究成果を上げたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度も引き続き、研究を推進するための文献の購入や研究打ち合わせ及び研究成果報告のための出張旅費が主な使用目的となるであろう。そして来年度までに熊本大学内で研究集会を行いたいと考えているが、可能であれば今年度中の開催も検討したいと考えている。
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Research Products
(5 results)