2012 Fiscal Year Research-status Report
リーマン多様体とポアソン核・熱核のフィッシャー情報幾何学
Project/Area Number |
24540065
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
伊藤 光弘 筑波大学, 名誉教授 (40015912)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 情報幾何学 / ホロ球 / ブーゼマン関数 / 双曲空間 / ダメック-リッチ空間 |
Research Abstract |
研究課題であるアダマール多様体のホロ球の微分幾何学としての研究を遂行した。典型的アダマール多様体である実、複素、四元数双曲空間の体積エントロピーに関する特徴づけを行うことができた。特に複素双曲ならびに四元数双曲空間のケースでは、次の剛性定理を証明できた:定理(複素双曲剛性定理)(X,g,J) を n 次元近似ケーラー的アダマール多様体でリッチ曲率 Ric ≧ -(n+2)とする。任意の測地線 v(t) に沿って構造ベクトル w(t) = J v(t) がとる、測地線に直交するホロ球の第二基本形式の値が h(w(t),w(t)) ≦ -2 ならば、(X,g,J) の体積エントロピー t ≦ n 以下であり、等号 t = n 成立は (X,g,J) が正則断面曲率 -4 一定の複素双曲空間であるときかつそのときにかぎる。定理(四元数双曲剛性定理)(X,g,J_1,J_2,J_3) を n 次元四元数ケーラー的アダマール多様体でスカラー曲率 s ≧ - n(n+8)とする。任意の測地線 v(t) に沿って構造ベクトル w_i(t) = J_i v(t), i=1,2,3 がとる、測地線に直交するホロ球の第二基本形式の値の和 h(w_1(t),w_1(t)) + h(w_2(t),w_2(t)) + h(w_3(t),w_3(t)) ≦ - 6 ならば,(X,g,J_1,J_2,J_3) の体積エントロピー t ≦ n+2 であり、等号 t = n+2 成立は (X,g,J_1,J_2,J_3) が正則断面曲率 -4 一定の四元数双曲空間であるときかつそのときにかぎる。 研究の意義は、数多くのコンパクト版剛性定理に対し、非コンパクト版剛性定理を示すことに成功したことにある。漸近調和アダマール多様体のホロ球平均曲率と体積エントロピーの関係を導出したことが大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
階数1の非コンパクト型対称空間である実、複素、四元数双曲空間に、ホロ球的視点から特徴づけを与えることができたことは研究の大きな前進である。これらの空間はアインスタイン的漸近調和(ないしは調和)多様体の一員であるが、その一員として大きな部分を占める非対称的ダメック・リッチ空間のホロ球的研究には肉薄していない。非対称的ダメック・リッチ空間のホロ球的微分幾何学が今後の研究課題である。 また 漸近調和アダマール多様体の体積エントロピーとホロ球の平均曲率一定値 との直接的関係式を与える定理を証明することができたは大きな成果である。Knieper, Yue らの先行研究とは異なる直截的証明を附すことができた。彼らの設定はコンパクト版であり、なおかつPatterson-Suillivan 測度が必要とされている点がわれわれの研究と異なる。非常に基本的で広く適用される定理がえられたことに大いに満足している。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の研究を継続しさらに発展させること。フィッシャー情報計量幾何学の観点から、今後の研究課題としてあげた非対称的ダメック・リッチ空間のホロ球的微分幾何学を展開する。 ① 一つの方向として 重心写像と擬測地線、擬等長変換を取り扱う。ダメック・リッチ空間に擬等長的なアダマール多様体は実はダメック・リッチ空間そのもの以外に存在しないだろうという剛性定理予想を立て研究する。そこでの研究推進道具が重心写像とフィッシャー情報計量幾何学である。剛性定理予想が実証されている実双曲空間での理論展開を詳細に調査する。 また ② もう一つの方向として 調和アダマール多様体の上のHelgason-Fourier 変換論を展開する。 Helgasonによって非コンパクト型対称空間の上にFourier 変換論が確立された。またダメック・リッチ空間上のFourier 変換論についても Anker らの研究, Astengo et alによる仕事が知られている。これら先行研究の特徴はいづれの研究も群構造をフルに用いて論を展開していることであるので参考にならない。ここで考えている今後の方向性はアダマール多様体の調和性(測地球の平均曲率が距離のみの関数となる)のみを仮定して論を展開することである。Szaboの研究(コンパクト単連結調和多様体は2点等質空間である、Lichnerowicz予想の部分解決)がヒントになる。勿論 Helgason、Astengo et alらの先行研究結果を大いに参考にしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に予定していた出張(Italy、France)が25年度に延期になったため発生した残額を次年度に使用する。そのため24年度の次年度使用額・25年度経費ともに下記国際会議や欧州の専門家との研究討議および国内学会・研究討議のため旅費に重点的に使用する。 1.国際会議(DGA2013conference Brno,Czech)、国際会議 (Paris,France)に参加し 研究発表し、専門家と研究討議する。1.1 DGA2013conference Brno では調和アダマール多様体の上のHelgason-フーリエ変換論の研究の途中経過報告をする。1.2 GSI'13 conference on Geometric Science of Information at Ecole des Mines in Paris,France では重心写像のフィッシャー情報計量幾何学を発表する。1.3 Helgason-フーリエ変換論の一人者Italy の Astengo氏、France の Anker 氏と連絡を緊密にとって研究討議のため訪問する。 2. 国内の学会に積極的に参加し研究発表する。 3. これらの発表とは別に、国内一線研究者と個別に研究討議を行うことを立案中である。 4. この間 密度の濃い研究討議を行ってきた共同研究者とはさらに継続して研究討論を行う。
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