2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540136
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
三澤 哲也 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 教授 (10190620)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮原 孝夫 名古屋市立大学, 経済学研究科(研究院), 名誉教授 (20106256)
宮内 肇 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (20181977)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 確率力学系 / ランダムNPV / 期待効用無差別理論 / 選択統計モデル / 発電事業プロジェクト / リスク鋭敏的価値尺度 / 規模のリスク / モンテカルロシミュレーション |
Research Abstract |
本研究は、研究代表者がこれまで展開してきた確率力学系理論の観点から不確実性リスクを含む投資対象の価値評価や投資決定問題にアプローチすることを主題に、関連する実務的話題として不確実性を含む電力システムにおける設備投資事業問題、数理的話題としてリスクの価値評価問題を取り上げ、それらとの有機的な結びつきを模索することを目的としている。平成24年度は課題初年度であり、そのパイロット研究を代表者と分担者の共同ないしは個別研究の形で実施し、以下の成果を得た。 代表者・三澤哲也は、上記主題に沿って不確実性リスクを伴うプロジェクト事業のランダムなキャッシュフローの現在価値(RNPV)から当該事業の投資判断を行う統計モデルである「多値型RNPV選択モデル」を定式化した。つづいて分担者・宮内肇とともに、事業者の新事業の「採・否・保留」に対応する三値型RNPV選択モデルを取り上げ、それにより事業価値を正しく評価しうるかどうか、火力発電事業のモンテカルロシミュレーション・データをもとに検証し、望ましい結果を得た。 分担者・宮内肇は、上記シミュレーションモデルの精密化のために、我が国の電力卸市場であるJEPXのシステムプライスや電力需要量の時系列分析を行い、その結果、2005ー2011年度の年度レベルでは半数でしか無作為性が認められないこと、2008―2011年度の夏季では曜日による価格差が拡大傾向にあること、需要量の地域属性による統計的有意差が判明した。 分担者・宮原孝夫は、宮原自身が定式化した「リスク鋭感的価値尺度」について、その重要例が期待効用無差別価格概念を通じて与えられること、また事業投資における「規模のリスク」の評価に当該尺度が有効なことを示した。 以上の成果はすでに論文ないしは学会・研究会等の口頭発表にて全体あるいは一部を公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代表者・三澤哲也の今年度の成果の中心である、ランダムキャッシュフロー(RNPV)事業投資選択モデルは、RNPVの期待効用無差別価格を実データに合うように近似することで導出される統計モデルであり、RNPVを確率系、無差別価格概念を不変量概念と捉えれば、まさしく研究の主目的に沿って導出された1つの成果である。これについては分担者・宮内肇との共同研究による火力発電設備投資シミュレーションを通じてその有用性が確認されつつあり、すでに数回の関連口頭発表を実施し、現在さらに発展させた成果を査読付き国際会議発表論文として準備中である。これは初年度としては順調な経過と考える。なお今年度は、シミュレーションに関わる確率数値解析については、特に新展開はなかったが、その一方で、上記のキャッシュフローの確率系と期待効用無差別価格概念のフレームワークにより、投資判断の1つの重要な指標として知られる内部利益率(IRR)に不確実性リスクの価値評価を組み込めることが判明するなど、今後の大きな進展が期待される新たな主題を見出している。 分担者・宮内肇は電力事業の設備投資問題研究の一環として、上記シミュレーションモデルのより現実的な設定をめざし、電力の市場価格や需要の時系列分析をすすめ、その成果を査読雑誌や口頭発表により公表するなど、着実に研究が展開している。 分担者・宮原孝夫は、三澤の成果とも深く関係している「リスク鋭敏的価値尺度」において、数理ファイナンスの観点から「事業規模のリスク価値」という重要、かつ今後の展開が興味深いリスク評価視点が導入できることを示し、すでに国際会議や論文で成果を公表している、 以上のことから、課題初年度のパイロット研究段階としては、全体としてほぼ目標通りの成果が得られ、順調に研究が進んでいると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
基本的には、24年度に代表者、分担者それぞれが設定したテーマならびに得られた各成果をさらに深化させるとともに、それらを互いに関連付け、発展させることにも力を注ぐ。具体的には以下の事柄に取り組む予定である。 代表者・三澤哲也は、確率力学系理論による不確実性リスクを考慮した投資決定問題研究に関連して、2つの課題に取り組む予定である。1つはこれまで定式化してきたRNPV事業投資選択モデルに関する課題であり、モデル式の一般化による事業採否判断の精度の向上と現実的な設定のもとでの発電設備投資問題におけるモデルの有用性の検証である。後者は分担者・宮内肇との共同研究が中心となる。2つ目の課題は、確率力学系とその不変量概念に相当する「ランダムキャッシュフローと期待効用無差別価格概念」のフレームワークに基づいて、投資判断の重要な指標として知られる内部利益率(IRR)に不確実性リスクに対する投資家の価値評価を組み込むことで拡張定式化し、その特性や有用性を検証することである。これは24年度の研究から新たに設定された課題であり、宮原のリスク鋭敏的価値尺度を密接な関係にあることが判明しつつあるので、共同研究を通じて「規模のリスク」を組み込んだIRRアプローチなど、今後様々な展開が期待できる。なお当初考えていた確率数値解析の問題については、上記課題の進展状況や関連するモンテカルロシミュレーションで生じた技術的課題を鑑みながら検討を進める予定である。 分担者・宮内肇は上記共同研究と共に、不確実性を含んだ電力事業設備投資にかかわるシミュレーションモデルの精密化に関連して、引き続き電力価格や需要供給の時系列データ分析を実施する。 分担者・宮原孝夫は引き続き、自身が定式化したリスク鋭敏的価値尺度の数理的解析を行うとともに、上述の三澤や宮内の諸研究成果との関連性の解明にかかわる共同研究を推進する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以上の研究を遂行するため、次年度は、代表者・分担者は個々に各自のテーマにかかわる研究発表を数回程度(うち、予定では国外が2回程度)行う予定である。学会発表の場としては、数理ファイナンス関係、金融工学関係、電気学会関係(電力部門大会、系統運用技術研究会、全国大会)のエネルギー経済部門などを想定している。またこの他にも関連研究情報の収集の場として日本数学会、応用数理学会、統計学会、ファイナンス学会等への出張も検討している。 また三澤は「ファイナンス分析研究会」、宮原は「数理ファイナンスセミナー」、宮内は三澤と共に「競争的環境下での電力問題研究会」を主宰しており、それぞれが年に数回程度開催されている。そのようなセミナー等への相互訪問も数回程度予定しており、情報の共有と各自のテーマ研究を互いに連関させるための機会とする。最終的には年度末に代表者・分担者を含めた何名かの関係研究者による研究会を開催し、各自の成果の公表とそれらの有機的結合の可能性をさぐる機会を設ける予定である。 なお平成24年度に引き続き、代表者・分担者の必要に応じて関連文献や図書、計算機ならびに関係する数式処理や計量ソフトの購入・保守を実施し、研究情報環境の整備を行う。
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