2012 Fiscal Year Research-status Report
感染者が急増している白血病ウイルスの数理疫学モデルの構築
Project/Area Number |
24540137
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
田畑 稔 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (70207215)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
江島 伸興 大分大学, 医学部, 教授 (20203630)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | Core-periphery model / integral equations / master equation / replicator equation |
Research Abstract |
本年度の研究目的は,非線形Fokker-Planck方程式とmaster方程式で,性・年齢特性的感染拡大効果と人口集中効果を表し,数値実験結果を日本赤十字データベースと照合して,高い実証性を持つHTLV-Iの数理疫学モデルを構築することであった.これに対して以下の3つの結果を得ることができた. 1.空間一様モデルの精度の向上.HTLV-Iの感染経路は性感染と母子感染である.前者は特定の年齢区間(性交渉開始年齢から同終了年齢まで)で働き夫婦間感染が多い.後者は妊娠・出産・授乳によって起きる.このようにHTLV-Iは女性固有のライフサイクルの節目で女性を中心に世代を超えて感染拡大する(性・年齢特性的感染拡大効果).我々はこの効果を年齢変数についての非線形拡散過程で表し,モデルを空間非一様化することに成功した. 2.空間非一様化と人口集中効果の組み込みによるプロトタイプモデルの構築.HTLV-Iは女性のライフサイクルの節目で感染拡大するので,生活基盤が地理的な拡大範囲を決める.従って人口移動は感染動態に大きな影響を与えるが,旧来のモデルではこの効果は無視されていた.そこで我々は都市部への人口集中効果をモデルに組み込むため,P. Krugmanのノーベル経済学賞受賞研究(P. Krugman et al.:The Spatial Economy, MIT Press, 2001)に従い,連続モデルの方程式の導出を試み,それに成功した. 3.人口集中のmaster方程式は非線形偏微分積分方程式であり,非線形Fokker-Planck方程式は非線形放物型偏微分方程式であり,全く異質な関数方程式同士である.この方程式について数値実験を進め,数値実験を多く行い,医療統計データと照合し,プロトタイプ・モデルを構築することに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目的は,非線形Fokker-Planck方程式とmaster方程式で,性・年齢特性的感染拡大効果と人口集中効果を表し,数値実験結果を日本赤十字データベースと照合して,高い実証性を持つHTLV-Iの数理疫学モデルを構築することであった.すなわち以下の3つの目的を達成することであった. 1.空間一様モデルの精度の向上. 2.空間非一様化と人口集中効果の組み込みによるプロトタイプモデルの構築. 3.非線形偏微分積分方程式である人口集中のmaster方程式についての数値計算. これらについては満足できる成果が得られている.また得られた結果は既に定評ある海外のジャーナルに掲載が決定しており,その価値の高さは十分に保障されていると考えられる.特に向上を目指した数値計算の精度は,1/1000000程度の誤差を持つだけであり,社会シミュレーションにおける数値計算としては十分に高い精度であると言える.旧来の数理疫学モデルは,大きな2つの欠点のため,わが国が現在直面している都市部でのHTLV-I感染者の急増を捉えることができなかった.効果的な防疫体制構築には正確な感染拡大予測が不可欠であるから,数理疫学モデルはWHOをはじめ世界の多くの公衆衛生機関で利用される必須ツールになっている.しかし従来の数理疫学モデルは,同ウイルスの特異な感染特性(性・年齢特性的感染拡大効果と人口集中効果)に十分に対応していなかったが,本年度に得られた結果により,この欠点を克服することができた.このようなことから本計画は概ね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度はHTLV-Iモデルの漸近挙動評価と予想命題の証明を行う.予想命題の証明に現れる困難は以下の通りである.性・年齢特性的感染拡大効果は感染摂動項を持つ年齢変数についての非線形Fokker-Planck方程式で表現される.我々は既に『master方程式は,Kramers-Moyal展開により,非線形Fokker-Planck方程式と高次剰余項に分解される』を証明している.これを人口集中のmaster方程式に適用すると,同方程式は空間変数についての非線形Fokker-Planck方程式と高次剰余項に分解される.従ってモデル方程式系は年齢変数の非線形Fokker-Planck方程式と空間変数の非線形Fokker-Planck方程式に感染摂動項と高次剰余項を付けた形に変形できると予想される.しかしこれら2つの項は次の1と2のような強い特異性を持っており,単純な摂動として処理しようとすると発散の困難が起きる.1.感染摂動項は,女性の妊娠・出産・授乳に対応する特異点を持っている.このため年齢変数について強い特異性を持っている.2.高次剰余項は,人口集中のmaster方程式の空間特異性を受け継ぐため,空間変数について強い特異性を持っている. そこで,感染者密度関数を直接評価せず,それらの数理統計学的汎関数を計算する.その結果を用いて元の感染者密度関数を数理統計学的に評価するという,数理統計学的情報通信理論で成功した次の3,4,5,のような手法を試みる.3.感染者密度関数の数理統計学的汎関数(感染拡大のcapacity,感染係数のentropy,感染者密度関数の地理的bias指数)を計算する.4.数理統計学的情報通信理論を3で求めた数理統計学的汎関数に適用し,元の感染者密度関数を数理統計学的に評価する.5.3で求めた数理統計学的評価を用いて予想命題を証明する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
以下のような1~5の研究費の使途を考えている. 1.今後の研究の推進方策を実行するために計算機実験を行う予定であり,そのために高速のメモリー容量の高性能の計算機を購入する予定である.2.得られた数値実験結果が医学的エビデンスに合致するかどうか医療統計データとの照合を行うために,医療統計資料の収集のため国内医療機関への出張を計画している.3.英国 Reading University とドイツの Max-Planck Institute への研究調査旅行を計画している.4.数値実験結果について医学関係者との意見を聞くために本年フロリダで開催が予定されている Nonlinear Analysis の研究集会への参加を計画している.5.分担者が在籍している大分大学と代表者がいる大阪府立大学で協賛で研究集会の開催を計画している.
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Research Products
(1 results)