2012 Fiscal Year Research-status Report
障害物の運動効果による非圧縮粘性流の減衰構造の数学解析
Project/Area Number |
24540169
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
菱田 俊明 名古屋大学, 多元数理科学研究科, 教授 (60257243)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 非圧縮粘性流 / 減衰構造 / 外部問題 / Stokes流 / Oseen流 / Navier-Stokes流 |
Research Abstract |
空間2次元の場合に、剛体の障害物の運動がそのまわりの非圧縮粘性流の時空変数についての減衰構造にどのように影響するのかを明らかにした。数学的には外部領域における境界値問題として定式化されるが、以下で述べるいくつかの理由により、空間3次元よりも2次元のほうが難しいことが知られている。 まず、障害物が一定な速度で並進するときの線型化方程式の初期値境界値問題の解であるOseen 半群について、その長時間挙動を求めた。この問題の困難はラプラス変換を通して対応するresolvent 問題の解の resolvent パラメ一タについての対数特異性であり、これは3次元にはない2次元特有の現象である。本研究では、全平面での Oseen resolvent の基本解の表示の導出とその漸近挙動の詳細な解析、外部問題の解作用素のパラメトリクスの構成とその漸近挙動によって、Oseen半群の局所energy 減衰評価と L_p-L_q型の減衰評価を得た。 次に、障害物が一定な角速度で回転するときの線型化方程式の境界値問題の定常解について、その空間無限遠での漸近挙動を求めた。定常問題の困難はStokes 方程式の基本解の無限遠での対数増大が引き起こすいわゆる Stokesの paradoxであり、これも3次元にはない2次元特有の現象である。本研究では、回転の振動効果による基本解の減衰構造の変化を明らかにし、それによって線形定常流の空間無限遠での漸近展開を求め、その主要項の形と係数を決定した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は障害物の運動とそのまわりの非圧縮粘性流の減衰構造との関係、またその応用として運動する物体とそのまわりの流れの相互作用を数学的に精密に明らかにしようとするものである。剛体の運動は並進と回転に分解されるが、それぞれの運動に対して、空間3次元よりも研究が進んでいない2次元の場合に、線型化問題の解の時空両変数についての減衰構造を明らかにできた。 並進するときの Oseen半群については、空間3次元の場合は知られていたが、2次元の場合は未解決問題として残されていた。その理由はすでに述べたように resolvent の対数特異性による。回転するときの定常流についても、空間3次元の場合は研究代表者たちの研究により調べられていたが、2次元問題はStokes のparadox が依然として残るのかあるいは解消されるのかが明らかにされていなかった。 得られた減衰評価の並進速度、回転角速度に関する依存の仕方について改良の余地があるように思われるが、Navier-Stokes 非線型問題の解の減衰構造や定常流の安定性/不安定性の解析へ向けた第一歩になりうると考えている。特に、鍵となった基本解の表示の導出とその漸近挙動の解析自体が、この方面の今後の研究の基礎を与えていると考えられる。流体と物体の運動の相互作用の研究に対しても、単に解の存在を主張するにとどまらず解の漸近解析も行う際には、本年度の成果が寄与すると期待される。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後の研究について、まず本年度得られた2次元外部領域における流れの減衰評価の定数の運動パラメ一タに関する依存を改良する。特に、物体が並進する場合の長時間挙動については、並進速度パラメ一タが小さいときに並進速度ゼロの Stokes 半群の場合と連続につながる評価の導出を目指す。すでに述べた局所energy減衰評価のレベルでは、並進するほうが速く減衰することを明らかにしたが、減衰の速さが同じである L_p-L_q評価のレベルでは Stokes半群と Oseen半群の評価は連続につながるべきものであるからである。その上で、非線型問題に対する Finn-Smith の定常解の安定性/不安定性の解析を行う。 この Finn-Smith の解析においては、Oseen基本解の減衰構造と併せて、並進速度をゼロに近づけるときの解の挙動を制御できることが要点であった。障害物が回転する場合にも、回転による Stokes のparadoxが解消されるだけでなく、回転角速度をゼロに近づけるときの解の挙動を明らかにし、非線型問題の解の構成の基盤を与える。また、回転する場合の初期値問題の解の長時間挙動の研究も重要である。 流体と物体の相互作用の問題にも着手し、特に流体が2次元全平面、3次元全空間にひろがる場合に、これまでの外部問題の研究成果をふまえて、時間局所解と時間大域解、また物体に固定した座標系から見て定常的な解の存在を示し、それらの漸近挙動を調べる。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究遂行のために最も必要なことは、当分野の世界中の研究者との討論であるので、次年度も研究費の使用計画の中心は国内出張旅費、海外渡航費、海外の研究者の招聘費である。 半群の長時間挙動については、わが国の研究が世界の最前線であり、特に東京の専門家と討論するために幾度か出張する。2次元Oseen 半群について、2次元Stokes半群を包括する理論をつくるためには、並進速度パラメ一タと resolventパラメ一タを両方ともゼロに近づけたときに、物体近くの有界領域においては、物体にかかる力(net force)が消えている Stokes流へ近づくことを正当化できる議論を行うことが重要と考えている。このことを念頭においた討論を、Stokes 半群の長時間挙動について経験のある研究者と行うことは極めて有益であろう。 一方、流体と物体の運動の相互作用の問題については、国内には研究者がほとんど見当たらないが、フランスの Nancy に Tucsnak教授を中心とした強いグル一プがいる。しかし、彼らのこれまでの解析も解の漸近挙動までには至っていない。その Nancyのグル一プから、2013年9月に4週間招聘されることとなったが、渡航費と滞在費は当科研費で行くことにした。私は彼らに外部問題の解の漸近挙動について連続講義を行うと思われるが、双方のもつ知見を併せてこの相互作用の数学解析についての共同研究を行い、成果をあげたいと考えている。
|
Research Products
(8 results)