2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540176
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
伊藤 宏 愛媛大学, 理工学研究科, 教授 (90243005)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 関数解析 / 数理物理 / 関数方程式論 |
Research Abstract |
遠方で発散する電場ポテンシャルと磁場をあらわすベクトルポテンシャルをもつディラック作用素のスペクトルと非相対論的極限について研究を行った。 ディラック作用素は,相対論的量子力学における重要なハミルトニアンであり,多くの物理的,数学的研究がなされてきた。ポテンシャルが遠方で減衰する場合には,対応するシュレーディンガー作用素に類似しているスペクトル構造をもち,光速を無限大にする非相対論的極限では,ディラック作用素はシュレーディンガー作用素に近づくことが知られている。一方,ポテンシャルが遠方で無限大に発散する場合には,ディラック作用素とシュレーディンガー作用素のスペクトル構造は全く異なる。伊藤(研究代表者)と山田(連携研究者)は,以前の科学研究費により研究で,電場ポテンシャルのみを持つ場合に,2種類の相対論的シュレーディンガー作用素を介在することで,そのスペクトル構造の劇的変化を解明し,さらにディラック作用素のレゾナンスとシュレーディンガー作用素の離散固有値の間の関係を非相対論的極限を用いて説明した。 今年度の研究においては,行列値ポテンシャルをもつディラック作用素を考えた。行列値ポテンシャルの主要部は遠方で発散するスカラーポテンシャルと仮定した。電場ポテンシャルとベクトルポテンシャルの両方が存在し,電場ポテンシャルがベクトルポテンシャルより影響が大きい場合はこの場合に含まれる。 このとき,(1) スペクトルは,埋め込まれた固有値を除いて,絶対連続である,(2)レゾナンスは,上反平面にあり,ある領域にはレゾナンスは存在しない,(3) 光速が十分大きいときには,ある2種類のシュレーディンガー作用素の固有値またはレゾナンスの近くに,ディラック作用素のレゾナンスが存在する,ことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究目的は,遠方で発散するポテンシャルをもつディラック作用素について(1)レゾナンスの存在と非存在領域を決定すること,(2)埋め込まれた固有値の非存在をポテンシャルの解析性を用いて証明すること,(3)磁場をもつ場合への拡張,である。 平成24年度の研究においては,ディラック作用素のポテンシャルを行列値ポテンシャルとすることで,電場と磁場のポテンシャルを両方もつ場合を含む一般的な場合に結果を導くことを試みた。ポテンシャルの主要部は,遠方で発散するスカラーポテンシャルであるとした。このとき次のことがわかった:(i) スペクトルは,埋め込まれた固有値を除いて,絶対連続である,(ii)レゾナンスは,上反平面にあり,ある領域にはレゾナンスは存在しない,(iii) 光速が十分大きいときには,ある2種類のシュレーディンガー作用素の固有値またはレゾナンスの近くに,ディラック作用素のレゾナンスが存在する。 これらの結果は,電場に加え磁場をもつディラック作用素を考察し,レゾナンスの分布についてある結果を得たことになる。すなわち,(1)と(3)の目的の一部は達成されたことになる。 したがって,レゾナンスの非存在領域を完全に決定すること,磁場をあらわすベクトルポテンシャルより電場ポテンシャルの方が大きいという仮定をはずすこと,さらに,ポテンシャルの解析性を用いて固有値の非存在を証明をすることが今後の課題となる。 しかし,これらの課題については,今後の研究でなんらかの結果が出せるのではないかということから,「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者は,連携研究者(山田修宣(立命館大学),田村英男(岡山大学),岩塚明(京都工芸繊維大学),野村祐司(愛媛大学))および研究協力者(井上友喜(愛媛大学))と研究連絡を行いながら研究を進めていく。「作用素論セミナー」(京都大学), 「解析セミナー」(愛媛大学),「実函数論函数解析学合同シンポジウム」(青山学院大学)などを中心に国内外の研究者と研究情報を交換しながら研究を進める。また,インターネットなどを利用して,研究者間の連絡および情報収集などを行う。 具体的な研究については,研究代表者が中心となり,行列値ポテンシャルをもつディラック作用素について,平成24年度で解決をすることができなかった問題および研究を進めていった中で見つかった問題の解決を目指す: (1)レゾナンスの非存在領域の確定。複素数平面でのある2つの錐以外にはレゾナンスはないと予想を立てている。この予想の解決を目指す。(2)磁場をあらわすベクトルポテンシャルと電場ポテンシャルの強さの大小によってスペクトル構造,レゾナンスがどのような影響を受けるかを研究する。平成24年度での研究では,電場ポテンシャルが磁場ポテンシャルより大きい場合に解析を行った。その他の場合に解析を行う。(3)埋め込まれた固有値の非存在を証明する。また,各連携研究者は,アハラノフ・ボーム効果,双曲空間上の作用素のスペクトル解析など,各自得意としている領域でこの課題研究と関係の深い内容を研究する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.情報収集や他の研究者との研究連絡のために平成24年度にパソコンを購入することにしていたが,パソコンのOSがwindows8 に変更になり,安定性を考えて平成25年度に購入する。また,研究遂行に必要な周辺機器やソフトを購入する。 2.新しい知識の獲得のために数理物理学および解析学等の書籍を購入する。 3.「作用素論セミナー」(京都大学),実函数論函数解析学合同シンポジウム」(青山学院大学)等国内外の研究集会に参加するために旅費を使用する。また,必要に応じて研究集会のための会議費を使用する。 4.他の研究者と研究連絡行うために旅費を使用する。
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Research Products
(2 results)