2012 Fiscal Year Research-status Report
実解析的側面からのウェーブレットと変動指数解析の研究
Project/Area Number |
24540185
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
出来 光夫 東京電機大学, 工学部, 助教 (80507179)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 変動指数解析 |
Research Abstract |
研究成果の1つは、変動指数関数空間の基礎理論のまとめです。私はここ約20年間で急速に研究が進んでいる変動指数解析の理論について1冊の本にまとめる事を目的として掲げておりました。平成24年7月にその基礎理論について茨城大学にて集中講義を行ないました。その講義ノートをもとに、中井英一氏(茨城大学)と澤野嘉宏氏(首都大学東京)とともに一冊の冊子「Function spaces with variable exponents--an introduction--」を調和解析セミナー別冊として作成しました。また、同じ3名による変動指数関数空間に関する共著論文2本を投稿し、RIMS Kokyuroku Bessatsuへの掲載も決まりました。 2つ目の研究成果は、変動指数解析へのウェーブレット理論の応用です。実解析において重要な役割を果たしているMuckenhouptのAp理論の変動指数による一般化の研究が近年活発になってきています。私はその一般化されたクラスApの特徴づけを、ウェーブレットと関連の深い特別な性質を持った直交射影の族を用いて与えました。 3つ目の研究成果は、BMOノルムの変動指数による一般化についてです。これまでの多くの研究によってHardy-Littlewoodの最大作用素Mの有界性が保証されている変動指数関数空間においては通常の定数指数の関数空間と同様に多くの解析が可能となる事が判明しています。その有界性よりも弱い条件のもとでの解析を目指して、澤野嘉宏氏(首都大学東京)と筒井容平氏(早稲田大学)との共同研究により、Mの弱有界性のもとでこの一般化が可能である事を示しました。BMOノルムの一般化は、このノルムを手がかりとした様々な関数空間の特徴づけへの応用が期待できる話題です。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
変動指数関数空間の基礎理論のまとめについては、当初1冊の書籍にしたいという目標を立てておりました。平成24年度、中井英一氏と澤野嘉宏氏との共同研究で解析学を専門とする人たち向けの冊子をまとめる事ができました。書籍にはまだ遠いかもしれませんが、1つの形としてまとめる事ができた点は有意義であると思います。 また、ウェーブレット理論の変動指数解析への応用について1つの研究結果を得る事もできました。その結果は変動指数型Muckenhoupt条件の特徴付けです。特徴付けに用いた作用素は、ウェーブレット理論に現れる適当な滑らかさと減少度を持ったスケーリング関数によって構成される直交射影です。この直交射影は特別な性質の積分核を持ち、Hardy--Littlewoodの最大作用素Mと同じような役割を果たせる事がわかりました。この直交射影は今後様々な解析で応用ができます。 一方、変動指数解析の研究については、強い条件が仮定されていない一般的な変動指数に対する研究を目標の1つとしていました。そして、BMOノルムの一般化についての結果を得ました。これまで最大作用素Mの有界性、あるいはもっと強いlog-ヘルダー条件と呼ばれる条件が仮定されたもとで成立していた結果を、仮定をMの弱有界性まで緩める事ができました。我々が行なった議論は、今後BMOノルムの一般化に限らず、変動指数に関連した様々な問題についての条件緩和に役立てる事も可能です。
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Strategy for Future Research Activity |
変動指数解析の基礎理論のまとめについては、今後も共同研究者と議論を重ねていき、学部生レベルからでも学ぶ事ができるわかり易さと現在進行中の最新の研究結果を取り入れつつ、より完成度の高い一冊を目指して進めて行きます。 変動指数解析へのウェーブレット理論の応用について、平成24年度に得た結果は純粋数学として意味があるものの、応用には直結しない結果でした。ウェーブレット理論は、本来数学理論を様々な分野へ応用させる役割を果たすものです。今後、数値解析や画像解析など種々の方向への応用も意識しつつ、変動指数関数空間にウェーブレット理論を取り入れていきたいと考えています。 変動指数関数空間そのものの研究については、Hardy-Littlewoodの最大作用素Mの有界性を保証する変動指数の条件の研究、および有界性が保証されていない指数を持つ関数空間の解析の2つの課題を中心に取り組んでいく方針です。前者については、近年変動指数に対するMuckenhoupt条件と呼ばれる有界性の必要十分条件に近いものが考えられています。しかしながら、完全に必要十分性が確立されているわけではなく、様々な観点から変動指数を調べていく必要があります。Mの有界性が保証された空間では、従来の定数指数の空間と同様に様々な議論が可能となります。その一方、後者の課題は従来の空間ではなく、変動指数関数空間で議論をする事の意義を示します。変動指数によるBMOノルムの一般化はその一例であり、BMOノルムを用いた一般的な関数空間の特徴付けに繋げていきたいと考えています。また、変動指数を用いた数学モデル化がされた異質性を伴う自然現象に関する偏微分方程式の解の評価などにも取り組みたいと思います。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1つ目の計画は、毎年開催されている調和解析セミナーや実解析学シンポジウムなどの解析学関連の研究集会への参加旅費です。こういった場所で自らの研究結果を発表したり、他の研究者の講演を聴き、研究討論なども行ないます。研究協力者の出張旅費も必要です。また、共通の研究課題がある場合は研究分野の近い研究者の方々と研究打ち合わせを随時行なう必要があります。研究集会以外の機会でも、必要に応じて共同研究者の所属する他大学への出張旅費に研究費を使用します。 2つ目の計画は、学術論文の掲載です。近年、掲載が有料である海外のジャーナルも増えています。自身の研究結果を論文にまとめて、その結果を少しでも早く世界中に発信する為にも掲載料への科研費使用が必要となります。 3つ目の計画は、書籍の購入です。自分自身が専門とする解析学関連だけでも毎年多数の洋書が出版されています。適切なものを随時購入し、解析学における最新の研究についての情報を得る必要があります。それと平行して、代数学、幾何学、応用数学など数学の様々な分野の書籍についても自分自身の研究の視野を広げていく為に基礎的なものから専門書まで幅広く購入を考えています。
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Research Products
(8 results)