2014 Fiscal Year Research-status Report
非線型シュレーディンガー作用素のスペクトル解析に基づく超格子構造の解析
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24540208
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
小栗栖 修 金沢大学, 数物科学系, 准教授 (80301191)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | シュレーディンガー作用素 / スペクトル解析 / 負の固有値 / 共鳴 / 離散グラフ / 離散ラプラシアン |
Outline of Annual Research Achievements |
超格子構造とは、江崎玲於奈の提唱による異種半導体の薄膜を積層させて製造される人造の構造物で、量子効果を用いた半導体デバイスの一種である。特定のエネルギーを透過または遮断する特性を持つ電子デバイスであり、透過域には真の透過域と準透過域が生じることが知られているが、その生成の原因は不明で、その制御は難しい問題となっている。 本研究はこの超格子構造を数学的対象ととらえて、その特性を数学的に解析することにある。この問題は、数学的には一次元のシュレーディンガー方程式の逆散乱問題のひとつである。近年の代表者と共同研究者による計算から、超格子構造のスペクトル構造はそれを離散化したグラフ理論的モデルがより解析しやすいモデルになると分っている。 本年度はこのグラフ理論的モデルのさらなる一般化を行ない、そのモデルのスペクトル構造を解析し、さらには量子ウォークへの応用を行なった。 まず、このグラフ理論的モデルにおいて共鳴順位が数学的に厳密に計算できることを愛媛大学(現兵庫県立大学)の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との協力の下でみいだしていたが、その背景にあるリーマン面の構造について新規の知見を得た。 また、電子デバイスとしての透過域はもっとも単純なモデルでは一次元トンネル現象に対応していて、完全透過するエネルギー順位は入射波と透過波の位相と強く関係する(RT効果、完全透過する場合との位相差は円周率の整数倍になる)ことが知られている。このモデルの離散化した場合を調べることは自然な問題である。平成25年度には離散化しても位相差は円周率の整数倍になるという素朴な期待が裏ぎられることを見出していたが、実はその理由が離散化よりもむしろ点相互作用の効果であることがあらたにわかった。加えて量子ウォークの一般化の研究も、東北大学の瀬川悦生氏、統計数理研究所の松江要氏とすすめている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に述べた通り、複数の結果を得ており、これらの結果について、研究集会「量子系の数理と物質制御への展開」(東北大学)ならびに「多様体・格子・グラフ上のシュレーディンガー方程式のスペクトル・散乱理論」(数理解析研究所で研究会)やその他の研究集会で講演を行なった。 昨年度、RT効果、すなわち完全透過なエネルギー順位と入射波と透過波との関連について、入射波と反射波の確率振幅の比と完全透過なエネルギー順位の間にある種の特異性を見出したが、そのさらに詳しい解析として、離散版の解析を行い、従来のモデルは不可能だった共鳴順位の解析的な導出に成功した。さらに連続版で成立しているRT効果がそのままでは成立しないことも見付け、それが離散化の効果というよりも点相互作用そのものの効果と考えられることがわかった。 兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との研究である、グラフ理論的モデルにおける共鳴順位の研究は、通常はとても解析的に計算できるとは考えられない問題がこのモデルにおいては可能であることが見てとれ、そこに付随するリーマン面の構造について一歩ふみこんだ解析ができた。 さらには、グラフラプラシアンのスペクトルの各種平均から定まる量を最小化するグラフを最適なグラフと呼ぶが、その解析は難しい。過年度にこれをある意味で弱めた弱最適の概念を導入した。具体的には、次数の小さいPaleyグラフが弱最適であることを示し、 さらには任意の次数で同様のことを示す方針が得られた。 しかし一方ではこれらの研究成果を論文としてまとめて投稿する準備が非常に遅れている。特に、特に兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との研究は進展が大きくて論文の構成自体を変更して最終稿をチェックしているところである。上記の結果以外にも過年度の成果で論文執筆中のままのものあり、これらの執筆作業を効率的にすすめる必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まずはこの研究計画があと1年であることから、執筆の遅れている複数の論文を早急にしあげることを重点的に行いたい。 次に研究そのものの推進としては、昨年度来の方策を継承する。兵庫県立大学の野村祐司氏、昭和大学の樋口雄介氏との研究であるグラフ理論的モデルにおける共鳴順位の研究を集中的にすすめる。よく知られた共鳴順位の3つの定義があり、しかしそれらが数学的に同値であることは非常に限られた状況でしか証明されておらず、またその証明は容易なものではない。しかし、我々のモデルにおいては、グラフ理論的モデルの構造によってこの同値性を明瞭に提示できる可能性がたかく、今後のさまざまなモデルでの研究の土台となりうるものである。今後は、共鳴現象を議論するための土台となる積分核のリーマン面への拡張を確定し、複数の共鳴順位の定義の関連を議論していきたい。 研究実績の概要に述べたRT効果の問題は技術的には本年度に解決しているが、詳細な詰めが残っているので、それを整理して論文を執筆し公表する。量子ウォークとの関連があるので、東北大学の瀬川悦生氏と議論したいと思っている。さらには統計数理研究所の松江要氏とも量子ウォークの一般化とその性質の解析を展開していきたい。 共同研究者(Ulima Azalia)と導入した弱最適性に関する命題も、一般次数への拡張が見えてきているので年度内には少なくとも計算機支援の下では結果を得られる見込みである。 また、研究費の主な使途は研究会への出席(主に最終年度の成果発表)のための旅費ならびに研究打合せのための旅費になる予定である。参加を予定している研究会は、夏の作用素シンポジウム(9月)、スペクトル・散乱シンポジウム(RIMS、11月)、応用数学合同研究会(龍谷大学、12月)、スペクトル・散乱セミナー(金沢大学、1月)である。また、研究に必要な書籍(主に洋書)を購入する。
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Causes of Carryover |
2014年9月に参加した数理解析研究所と東北大学での研究会への旅費を当研究費から支払う心積もりでいたが開催者より招待講演者に旅費が支給されたことと、野村祐司氏と研究打合せを行なう予定だったが、氏の異動により時間がとれなく延期したことによる。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
5月に共同研究者である瀬川悦生氏と松江要氏に金沢に来ていただいて量子ウォークの一般化について研究打合せを実施することになってるのと、なるべく早く野村祐司氏を訪問ないしは金沢に来ていただいて研究打合せを行なう予定なので、その旅費にあてる。
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Research Products
(3 results)