2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540220
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
山田 義雄 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (20111825)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 反応拡散方程式 / 自由境界問題 / 数理生態学 / ロジスティック方程式 / 非局所問題 |
Research Abstract |
反応拡散方程式に関連する研究として本年度に取り組んだテーマは (i) 生物の侵入をモデルとする自由境界問題の解析、(ii) 非局所項(nonlocal term)と拡散項を伴う人口モデルの解析の二つである。(i) のテーマは、固定境界と自由境界に囲まれる領域において生息する生物の個体数密度の時間空間的変化を扱う問題である。自由境界の駆動力が境界における個体数による圧力で与えられ、境界条件は Stefan 型の条件で記述される。このような自由問題は2010年に Du-Lin により提起されて以来、生態学的にも数学的にも興味深いテーマとして注目されている。本研究では1次元領域において、 u_t=du_{xx}+uf(u), ( t>0, 0< x <h(t)), h’(t)=-\mu u_x(t,h(t) ) の形の問題として考える。このとき生物種について「展開の成功 (spreading)」と「絶滅(vanishing)」を数学的に定義し、それぞれの現象が起こるメカニズムの解明を目指した。この方針の下、方程式の反応項がロジスティック型、および双安定型の場合には自由境界問題の解は「展開に成功」と「絶滅」のどちらか一方のみが成り立つ、という二者択一定理の証明に成功した。また、絶滅することと自由境界は時間が経過しても有限の範囲にとどまることが同値であるという知見も得られた。これらの結果の証明では、比較関数を適切に構成することが大切である。 次に、非局所項を伴う拡散方程式については、積分項を含む、反応項や拡散項を伴うロジスティック方程式を考える。これらの問題について、有界な時間大域解を構成することに成功した。次の課題は、大域解の時間無限大での漸近挙動を調べることであり、対応する定常問題の正値定常解を初等的に構成する方法を開発することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究について年度当初に考えていた達成目標を優先順位を付けて述べると、(1)侵入モデルに対する自由境界問題の解が、いかなる条件下で「展開に成功」するか、「絶滅」するか、を明らかにすること、及び自由境界問題の円環領域での解析、(2)交差拡散を伴う数理生態学モデルに関する新しい解析手法の開発、(3)反応拡散方程式に関わる新しい問題の提起とその研究、であった。これらの目標について達成度順に並べると(1) 80%, (3) 70%, (2) 50% であり、おおむね順調に進展していると評価できる。 まず(1)については個体数密度と自由境界が未知関数であり、これらが時間の経過とともにどのように振舞うかに着目する。生物種が「展開に成功」するとは、自由境界が無限に拡がり、個体数密度の最大値が一定値以上にとどまることと定義する。他方、絶滅するとは個体数密度が零に収束することと定義する。この定義のもと、幅広いクラスの問題について、「展開に成功」と「絶滅」の二者択一定理が成立することを明らかにした。また、この結果の一部は円環領域でも正しいことも示すことができた点は大きな収穫であった。ただ、展開に成功する場合、自由境界はほぼ一定の速度で拡がると推測されるが、まだ証明できていいないことがマイナスポイントである。 (3)については、非局所項(nonlocal term) を伴う拡散方程式の研究に新しく取り組み、正値定常解を構成する初等的な方法を発見した。この方法は解の個数を数える際にも有効である。これらの結果は予期せぬ成果であった。今後は、解の安定性を判別する有用な方法を見出すことである。 (2)については大きな進展は得られなかった。しかし、交差拡散を伴うprey-predator モデルを新しく提起し、従来の解析手法が適用できることがわかった点は評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
反応拡散方程式に関する今後の研究目標は、(1) 自由境界問題に対する解の挙動の精密化と高次元領域での解析、(2) 非局所項を伴うロジスティック方程式の解の漸近挙動の解析と定常解の安定性判定法の確立、(3) 交差拡散を伴う数理生態学モデルの解集合の構造研究、の三つである。 このなかでも、特に(1)の問題については、魅力的な問題が未解決のままである。例えば、自由境界問解の解が展開に成功する場合、自由境界は時間とともに無限に拡がるが、固定境界の条件が同時ノイマン条件以外のケースでは、自由境界の拡がる速度が未解明のままである。また、この場合の個体数密度の変化についても、正値定常解に収束することのほかに、パルスが移動するような進行波解に類似の現象が起こることも考えられる。このように、解の挙動をさらに精密に調べることが当面の具体的なテーマである。このためには、Yihong Du教授(オーストラリア、ニューイングランド大学)、Bendong Lou博士(中国、同済大学(上海))らの自由境界問題に関する第一線研究者との情報交換や共同研究は欠かすことができない。 研究代表者は、本年5月上海の華東師範大学で開催される``Workshop on Nonlinear Equations on Population Biology" および 10月北京大学で開催される ``New Mathematical Developments Arising from Ecology" のワークショップに招待されており、この機会に研究集会に参加予定のDu教授、Lou博士らと研究交流を行う予定である。これにより、研究の進展を図ることができると期待している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究においては、反応拡散方程式研究の最前線で活躍する内外の研究者との交流が非常に重要である。その研究交流の場が、国際会議、学会、研究集会など多くの研究者が集まる場であったり、じっくり研究討論するために大学・研究所を訪れたり、研究者を本大学に招待し、ディスカッションすることである。したがって、研究費のうち6~7割はこれらの旅費に使用する予定である。このなかには、研究代表者の中国出張旅費も含まれている。また、研究室の博士課程学生の兼子裕大君(D1)は自由境界問題の共同研究者であり、彼をはじめとする大学院生たちにも研究集会などに参加する機会を持たせ、情報収集・研究発表をするための旅費に使用することも考えている。残る研究費はノートPC,図書資料の購入、学生のアルバイト謝金などに使用する予定である。
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Research Products
(11 results)