2013 Fiscal Year Research-status Report
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24540226
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
花輪 知幸 千葉大学, 先進科学センター, 教授 (50172953)
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Keywords | 理論天文学 / 衝撃波 / 渦状銀河 / 数値シミュレーション |
Research Abstract |
銀河ガスの物理的な粘性は極めて小さいため、流れに大きな影響を与えることはないと考えられてきた。しかし速度や密度・圧力が急激に変化する衝撃波面近傍では、物理的な粘性が働いているはずである。このことに気づき、物理的な粘性の特性について再検討を行った。 物理的な粘性には剪断粘性と体積粘性の2種類があり、前者は剪断流れを平滑化する働きがあるのに対し、後者は圧縮流の実効的な圧力を増加させる。従って衝撃波で流れを減速させるのは、体積粘性である。しかしこれまでの数値計算に取り入れられてきた数値粘性は数剪断粘性を模したものである。特に多くの計算で採用されている方向分離(directional splitting)の考えでは、流束を計算する境界面に垂直な方向の空間変化しか考慮されない。このため、流れが x方向に強い圧縮され粘性による実効的な圧力が増加していても、それはy方向やz方向の運動量流束に反映されない。これは衝撃波面が数値格子に対して傾くと、物理粘性による減速が正しく取り入れられないことを意味する。これらは従来の数値解法では、物理的に安定な平面衝撃波でも、波面に対して傾いた座標軸を用いると不自然がな構造が現れたことと符合する。 このような分析に基づき、体積粘性および剪断粘性を陽に加え、衝撃波面の内部構造を滑らかに取り扱えるだけの分解能を達成させれば、衝撃波を正しく再現する数値シミュレーションが可能であることに気づいた。実際にこの考えに基づき平面衝撃波で数値実験し、適切な体積粘性率と空間分解能を与えれば、波面と座標軸のなす角度によらず十分に満足できる数値解が得られることを見いだした。体積粘性率を固定して空間分解能を上げると、分解能を上げれば、解析的に求められた厳密解に収束することも確認した。衝撃波が強いほど、許容できる誤差に収めるために必要な分解能は高くなる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まだ適切な数値シミュレーションの方法という技術的な問題に取り組んでいるという現状は、計画に比べて大幅に遅れている。しかし、体積粘性というこれまでの数値シミュレーションで全く見過ごされてきた課題を発見し、その回避策も見いだしたことは大きな進歩である。衝撃波のシミュレーションではカーバンクル不安定と呼ばれる数値不安定が知られているが、これも同じ原因である可能性がある。剪断粘性を模した数値粘性を増やすことにより、許容できる範囲に誤差を収めることはできているが、数値不安定が発生する本質的な理由は明らかにされていない。流れが定常であれば、運動量流束(応力テンソル)が空間的に一様になるはずであるが、体積粘性を無視すると衝撃波面の近傍ではこの関係が崩れる。衝撃波が弱い場合や定常性が破れている場合、この矛盾は目立たない。従って本年度の成果は、銀河だけでなく衝撃波を伴う様々な流れのシミュレーションに影響を与える可能性が十分にある。 またこれと平行して、空間5次精度空間3次精度を達成できる MP5法を実装した数値シミュレーションコードを開発した。衝撃波の近傍では粘性を陽に考慮する必要があるが、それ以外の領域ではできるだけ粘性を下げることが望ましい。MP5法は波動の数値減衰が少ないことでも知られており、要求される精度を実現するのに必要な空間分解能(計算量)を下げることができる。 問題として残っているのは、体積粘性の具体的な与え方である。体積粘性率は衝撃波の近傍だけで多くなるようにしないと、精度が高い計算を行うための計算コストが上がりすぎる。体積粘性率を密度変化率の2乗に比例する形を採用することにより、平面衝撃波の場合は良い結果が得られている。しかし銀河衝撃波のモデルでは、不自然な密度勾配が衝撃波後面に現れることがある。この原因と対策を考えることは課題として残っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度に開発した方法は原理的に正当なもので、予備的ではあるが等温平面衝撃波の場合は収束性も確認した。しかしこの考え方や方法が正当であることを示すためには、(1) 理想気体の平面衝撃波の場合、(2) 銀河衝撃波に応用する場合 でそれぞれ収束性や衝撃波の強さについて系統的なデータをとる必要がある。またそのデータをもとに国際会議で発表しなくてはならない。この分野の国際会議が6月に予定されているので、そこでの発表を準備する。 また銀河衝撃波がどこに発生するかについても、系統的な研究を進める。まだ不自然な密度勾配も残っているが、衝撃波の構造や位置が安定に求められるようになってきたので、星の密集により重力ポテンシャルが下がっている場所と高密度ガス雲が形成される場所との相対的な位置関係が求められるようになってきた。相対的な位置は、(1) 銀河渦状腕の巻き角度、(2) 渦状腕の回転角速度、(3) ガスの温度 により変化する。これらはパラメータとしてそれぞれ独立に仮定されているが、実際には流れが安定になるよう調整されている可能性が高い。流れを局所的に捉えると、衝撃波を通過したガスが重力によりさらに圧縮される時、流れが安定と成る。数値シミュレーションでは大局的な整合性を考慮したモデルが作成できる特徴を活かして、局所的な考え方が正しいのかどうかを考える。 さらに今回開発した衝撃波の取り扱いが、他の問題にも応用できるかどうかを探る。ガス降着が盛んな若い連星や惑星を伴う原始惑星円盤でも、類似した渦状衝撃波が発生する。この衝撃波は角運動量を輸送し、系の進化に重要な役割を果たす。これらの系では、数値シミュレーションと観測の結果が不一致を示しているので、衝撃波の取り扱いにより結果が変化するかどうかについて探る。また数値格子と衝撃波面が平行に近づくと発生するカーバンクル不安定も、今回の方法で本質的に回避できるかどうか検討する。
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Research Products
(5 results)