2012 Fiscal Year Research-status Report
ニュートリノ質量・暗黒物質・バリオン数の起源から探る標準模型を越える理論構造
Project/Area Number |
24540263
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
末松 大二郎 金沢大学, 数物科学系, 教授 (90206384)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 暗黒物質 / ニュートリノ / バリオン数 / 標準模型の拡張 |
Research Abstract |
近年素粒子実験・宇宙観測を通して明らかになってきたニュートリノ質量とレプトン混合、暗黒物質の存在、宇宙のバリオン数非対称の同時説明を標準模型を越える模型構築における必要条件とし、この条件を満たす可能性を持つ模型として輻射ニュートリノ質量生成模型の考察を進めた。この模型におけるニュートリノ質量・レプトンフレーバー混合と暗黒物質残存量の定量的説明、レプトンフレーバーを破る過程の制限等を課し、ニュートリノ質量が正規階層と逆階層をとる両方の場合について、宇宙のバリオン数生成の定量的な検討を進め、以下の結果を得た。 (1)原子炉ニュートリノ実験等を通して明らかになったθ13の値を含め、すべてのニュートリノ振動実験結果を説明し得るパラメータの設定の具体例を与えた。 (2)(1)のパラメータ設定の下で、TeV 領域に質量を持つ最も軽い不活性ヒッグスの中性成分を暗黒物質候補とした場合には、レプトンフレーバーを破る過程と矛盾なく容易に暗黒物質残存量の説明が可能となることを示した。 (3)(2)の場合について、右巻きニュートリノが十分に重いか、TeV 領域での共鳴レプトジェネシスが起こる場合には、要求されるバリオン数の生成が可能となることを示した。前者の場合には、最も軽い右巻きニュートリノ質量は従来知られている下限値よりも一桁以上小さな値で十分であること、また、後者の場合には、右巻きニュートリノに要求される質量縮退の程度は大きく緩和されることを見出した。 (4)(2)の場合に、暗黒物質の直接検出について調べ、次世代の実験 Xenon1T において、この暗黒物質が観測される可能性の定量的な予想を与えた。さらに、模型を1重項ヒッグスによる模型の拡張の検討をしている。その中で暗黒物質の間接検出の可能性、模型のインフレーション模型としての可能性等についての解析も進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで、研究目的に挙げた具体的研究課題である「ニュートリノ質量と暗黒物質の起源を出発点とした素粒子模型の考察」に関して、輻射ニュートリノ質量模型を中心に研究を進めてきた。この模型について、宇宙のバリオン数の定量的評価にまで解析を広げることで、ニュートリノ質量、暗黒物質、バリオン数非対称の同時説明が可能であるときに要求される模型の性質の一端は明らかにされたと考えられる。この模型の研究は、暗黒物質の検出可能性の解析にまで発展してきており、当初の目的の達成度という点からは十分なものと思われる。現在検討を進めているこの模型をU(1)ゲージ対称性で拡張した非超対称模型の枠組みにおいて、インフレーションの可能性を検討していくことは、当初目的の具体的研究課題の2つ目に挙げた「新たなU(1)ゲージ対称性を持つ模型の宇宙論的性質の解明」につながっていく可能性を秘めており、今後も継続して研究を進めていく価値があると考えている。具体的検討課題の3番目に挙げた課題については、LHC 実験の結果は超対称模型に厳しいものとなっているように見えるため、現時点ではこの課題への取り組みを見合わせ、上の2つに集中している状況である。これらを総合的に評価し、現在の研究の進展状況は上述の区分にあると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
LHCの実験結果を踏まえ、今後しばらくはこれまでの研究の方向を継続し、輻射ニュートリノ質量模型の拡張とその現象論的性質の解明を中心に研究を展開していく。特に、この拡張模型における暗黒物質の検出可能性と宇宙論に関わる模型の特性の解明に力点をおいて研究を進めていく。その際、近い将来開始される各種実験と模型との関係に注目しながら、模型から予想される各種の現象とそれらに対する定量的予言に特に配慮しながら研究を推進することを心がける。超対称性を持つ模型の研究に割り当てる研究時間については、状況を見ながら慎重に判断したいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究費は、(1)研究成果の発表のための国際会議や国内学会、研究会出席のための旅費、(2)数値計算を中心とした指導大学院生の研究協力への謝金、(3)学外から招聘する講師によるセミナー等を通じた専門的知識の提供に対する謝金に使用する。これらを通して研究が最も効率的に推進できるように、研究費の使用については最大限の配慮をおこなう。
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