2012 Fiscal Year Research-status Report
スピン・層・軌道の自由度が織りなすグラフェンの多彩な量子特性とその素粒子論的側面
Project/Area Number |
24540270
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
静谷 謙一 京都大学, 基礎物理学研究所, 名誉教授 (50154216)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | グラフェン / 低次元電子系 / ゲージ理論 / 物性理論 / 素粒子論 |
Research Abstract |
グラフェンは質量ゼロのディラック粒子のように振る舞う電子を伝導帯と価電子帯にもつ“相対論的な”2次元電子系であり、その独特な量子特性は基礎物理と応用の両面から多くの研究者を魅了している。近年研究の焦点はグラフェンの二層(そして多層)系に移行してきている。多層化グラフェンに伴う層・スピン・軌道などの自由度がゲージ相互作用を介して多様な力学をもたらし、グラフェンの物理と応用をより豊かにするからである。研究代表者もこの視点に立って平成24年度には、磁場中でグラフェンの二層化、三層化に伴って出現する軌道縮退・混合という新種の現象の解明と、その帰結を追求した。その内容は以下の通りである。 1. 磁場中でグラフェンの二層系にはスピン・層・軌道について最大8重に縮退するゼロ・エネルギー準位が現れる。特にこの軌道に係わる縮退は(カイラル量子異常に由来する)位相的起源をもつ現象であり、グラフェン二層(そして多層)系に固有な現象である。研究代表者は、この軌道縮退するゼロ・モード準位が価電子帯(Diracの海)の量子揺らぎにより有意に分離することに気づいた。これは水素原子のラム・シフト(Lamb shift)と類似した多体量子効果であり、二層系グラフェンではスピンと層の自由度を伴って“多成分ラム・シフト”として現れることを意味している。このラム・シフトとともに、クーロン相互作用による軌道混合を考慮に入れて、擬ゼロ・モード8重項の構造を考察した論文を発表した。 2. 引き続き、上述の考察を三層系に拡張した。三層系でも“軌道ラム・シフト”が起こり、特に、ABC積層型三層グラフェンについては二層系と同様の特性と制御性能が素直に引き継がれることを指摘した。積層形式が異なると三層系の軌道ラム・シフトの様子が大きく変わる兆候を得ており、目下その詳細をABA型三層について調べている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究代表者の研究の基調には、素粒子論研究者の観点から,グラフェンに特有な“相対論的”な真空構造(Diracの海=価電子帯)に由来するグラフェンの量子特性を探究するという問題意識があり、今年度の研究で明らかにした“軌道ラム・シフト”は正にその線に沿った成果と考えています。先行する研究ではこの量子効果の存在は見落とされてきましたが、この効果の寄与を正しく取り込むことなしには、実験的にも関心の高い、多層グラフェンの最低ランダウ準位の微細構造を理解することはできません。この効果の帰結については更に幅と深さを広げて研究する必要があると考えています。
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Strategy for Future Research Activity |
1. 研究テーマ (1) グラフェン多層系の量子特性:今年度の研究を引き継ぎ,拡張する形で,グラフェン多層系の特性の考察を(特に、擬ゼロ・モード準位上のサイクロトロン励起と集団励起、さらに外場による準位交差現象などに焦点を当てて)進める。 (2) 上記テーマの他にも、グラフェンと同様にディラック電子が現れる素材として最近注目を浴びている位相的絶縁体など興味深いテーマは豊富にある。研究の進展とともにこれらのテーマにも取り組みたい。 2.研究交流 各年度に電子系の国際会議に参加して情報収集・研究成果の発表に努めるとともに、各国の研究者との研究交流を図りたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
パーソナルコンピュータ作業効率化のためにOSとグラフィックソフトの最新版へのグレード・アップを予定していましたが、購入者の評価が高くないので、差し当たっては様子を見ることに致しました。収支状況欄に記載の次年度使用額84,388円は主にそのような事情で生じました。平成25年度には もし可能なら二つの国際研究集会に参加したいと考えています。上述の次年度使用額はその経費に含めたいと思います。
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