2014 Fiscal Year Annual Research Report
スピン・層・軌道の自由度が織りなすグラフェンの多彩な量子特性とその素粒子論的側面
Project/Area Number |
24540270
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
静谷 謙一 京都大学, 基礎物理学研究所, 名誉教授 (50154216)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | グラフェン / ラム・シフト / 低次元電子系 / ゲージ理論 / 物性理論 / 素粒子論 |
Outline of Annual Research Achievements |
理想的な2次元電子系であるグラフェンには質量ゼロのディラック粒子のように振る舞う電子が現れ、その独特な量子特性は基礎と応用の両面から多くの研究者を魅了している。グラフェンを二層、三層と積層するとスピン・軌道・層の自由度が連携し、グラフェンの物理と応用は格段に豊かになる。特に、磁場中のグラフェンにはスピンと谷(valley)自由度について4重に縮退する特徴的なゼロ・エネルギー準位が現れるが、二層 (そして多層) グラフェンでは新たに軌道についても縮退が生じる。この軌道縮退はカイラル量子異常に起源をもつ位相的現象である。研究代表者はこの軌道縮退するゼロ・モード準位が価電子帯の量子揺らぎにより有意に分離することに気づくとともに、この現象が水素原子のLamb shiftと類似した多体効果であることを指摘した。過去2年度にわたっては二層系と三層系について、この新種の現象「軌道ラムシフト」の機構の解明とその帰結を追求してきた。平成26年度にはこれらの研究から派生した課題として集団励起の効率的な計算法の開発に焦点を当てた。磁場中では電子間のクーロン(直接)相互作用を交換相互作用が明白な形に書き直すことができる。この相互作用の直接/交換双対性に着目して、(代表的な非摂動的計算法である)単一モード近似の枠内で集団励起を記述する実効作用を簡潔な表式にまとめ上げた。その結果、実際の計算が従来に比べ著しく容易となる。目下、応用例として二層グラフェンにおけるサイクロトロン共鳴や集団励起について(実験で見られる電子・ホール非対称性を考慮に入れた)再吟味・精密化を進めている。実のところ、新計算法の開発に伴う試行錯誤や各種検証に手間取り、また一時期健康上の問題を抱えたこともあって論文の執筆が大幅に遅れているが、確実に新しい結果が得られているで、今後なるべく早期に論文として発表するべく努めたい。
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