2012 Fiscal Year Research-status Report
アトラスミューオンシステムのための超高分解能ハードウエアトリガー
Project/Area Number |
24540299
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
坂本 宏 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 教授 (80178574)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川本 辰男 東京大学, 素粒子物理国際研究センター, 准教授 (80153021)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 陽子陽子衝突実験 / エネルギーフロンティア / ハードウエアトリガー / 高速シリアル通信 / FPGA / イーサネットIP |
Research Abstract |
LHC加速器ATLAS実験前後方ミューオントリガーシステムのアップグレードについて準備研究を行った。特に更新後のトリガーシステムが必要とする性能の検討を、ATLAS実験で取得されたデータによるシミュレーションを用いて行った。この更新では精密測定用検出器のデータを25ナノ秒単位にディジタル化した情報をハードウエアトリガーで使用する。それにより、2020年以降の高ルミノシティLHC運転に必要なトリガー性能を満たすことが確認された。同時にトリガーシステムの入出力データ読み出しに関する要請も確認した。これにおりギガビットイーサネットでのデータ収集が可能であることを確認した。 続いて上記の要請を満たす読み出しシステムのプロトタイプ作成の準備を行った。そのためにFPGAを搭載した既存のVMEモジュールを用いて基本性能の確認を行った。このモジュールではトリガー信号の入出力、読み出し経路の実装のため、2Gbpsの帯域を持つ高速シリアル通信接続を4回路採用している。複数のモジュールをこれらの高速リンクで接続することにより、プロトタイプデザインのFPGAへの実装と、トリガー信号入出力のエミュレーションなどを行うことが出来る。また、制御のためにはFPGA上にIPデザインとしてイーサネットプロトコルを実装したSiTCPを導入した。これにより、制御用計算機とそれぞれのモジュールを1Gbpsの速度で接続し、読み出し経路のエミュレーションやモジュールの制御が行えるようになった。 これらの成果を元に、より大容量のFPGAを搭載し、5Gbpsの帯域を持つリンクを4レーン搭載した次世代プロトタイプモジュールを開発しており、現在試作機のデバッグを進めている。このモジュールはSiTCPも搭載するほか、ATLAS実験のトリガー制御系であるTTCシステム端末も搭載し、実験に組み込むことも可能なように設計されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
トリガーシミュレーションに関しては実データを用いたものに関しては枠組みが完成し順調に作業が進行している。高ルミノシティ運転でのシミュレーションはATLAS実験データ全体でプロダクションを行うため、今後データができ次第取り込んでいく。枠組みとしては実データのものと同じ枠組みを使用するので大きな問題にはならない。 技術評価を含むプロトタイピングではまず既存のFPGAモジュールを用いて概念的な検証を行った。中でもまずギガビット帯域の高速シリアル通信の性能を確認した。使用するケーブル長を変化させ減衰の程度を調査し、10m程度の距離の接続では全く問題ないことを確認した。また、SiTCPと呼ばれるIPデザインを採用しそれが制御や読み出しに使用できるかどうか確認しよい結果を得た。このモジュールによる徹底的な検証により、次のステップとしてプロトタイプ用の新しいモジュールの設計仕様を策定した。年内に設計を完了し最初の試作機が納入された。若干の設計ミス・実装不良などが発見され、現在修正作業が進められている。次年度にはモジュールの量産とそれを用いたプロトタイピングが可能になる。このとことから全体としておおむね順調に進展していると判断出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続きアップグレード後のトリガーアルゴリズムの検討をシミュレーションを元に進める。高ルミノシティ時には一ビーム交差あたりの衝突数が数十に及ぶため、事象のパイルアップからトリガー性能の低下が懸念される。それらをどうやって抑えるかが問題であるがそのためにはそのルミノシティに対応したシミュレーションが必要である。それに基づいてトリガー情報の位置分解能ひいてはディジタル化時間間隔などを決定することになる。現在ナノ秒クロックによるディジタル化を前提にしているが、必要に応じてディジタル化クロックを倍の周波数に上げる。それにより倍の時間分解能を得ることが出来る。それによりハードウエア実装に必要な回路資源が増加するが、どのようなケースでこの分解能倍加が必要かを確認する。 新しいプロトタイプ用モジュールのデバッグが進行している。早い時期にデバッグを完了し一定数のモジュールを作成する。それらを用いてプロトタイプシステムを構築する。トリガー信号を提供する高精度検出器をエミュレートするモジュール、実際にトリガー判定を行うトリガーモジュール、そのトリガー出力を記録解析するモジュールなどのデザインを作成し性能評価を行う。読み出し部分では、発生した障害の記録と解析が重要になる。通常の転送に加えて、障害発生を検出した時点でのデータや環境などを記録し解析できるようにする必要がある。そのためのCPUコアの実装などの検討を進める。 シミュレーションとモジュールによる実証評価などを経て、アップグレードシステムの仕様を策定する。実際に必要となるトリガー信号入力数をつなぎ込むに十分なレーン数や、トリガー出力、読み出し出力、タイミング入力、制御入出力を備えたモジュールを設計し、提案書を提出する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
新プロトタイプモジュールを一定数作成する。そのための印刷配線板や電子部品などが必要である。主要な部品としてはFPGAやCPLD、イーサネット物理層、VMEインターフェース用半導体素子、VME及び高速シリアル通信用コネクター、DC-DCコンバーターなど電源部品等が必要である。印刷配線板については現在でバッグ中で、それが終わり次第プロトタイプシステム構成に必要な台数を製作する。 シミュレーションやプロトタイプ作成の打ち合わせのための旅費を計上する。ATLAS実験トリガーグループとの打ち合わせのため外国旅費が必要である。トリガーアップグレードはATLAS全体で取り組んでいる課題であり、我々の設計がATLAS実験全体の計画と整合することを現地で詳細に話し合う予定である。 開発にあたってはモジュール回路図確認や実装部品とシルクの対応など人の目で確認する必要がある。この部分を丁寧に行うことで、開発の期間を短縮し、より信頼性の高い装置を実現することが出来る。また、シミュレーションにおいては大量の入力パターンを与えてトリガー性能を評価する必要がある。そのような作業を行うための謝金を計上する。
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Research Products
(3 results)