2013 Fiscal Year Research-status Report
低温強磁場下での時間分解顕微カー回転計測による光誘起スピン偏極電子輸送の研究
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24540315
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
三野 弘文 千葉大学, 普遍教育センター, 准教授 (40323430)
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Keywords | スピン偏極 / スピンイメージング / 光誘起カー回転 |
Research Abstract |
光誘起したスピン偏極電子の時間・空間応答を高感度に観測できる顕微ポンプ・プローブKerr回転測定システムを構築した。ポンプ・プローブ同一波長・光弱励起下での計測をヘテロダイン検波によって可能とし、ZnSe/BeTeタイプII量子井戸の光生成二次元電子ガスを対象としたスピンイメージング計測から、4K~室温における温度領域でスピン輸送を捉えた。また、二次元電子のスピンドリフトの観測のために、Kerr回転計測と光電流を同時に計る機構を装備した。光電流計測においては、室温において20μm以上の拡散を示す有機モット絶縁体β‘(BEDT-TTF)(TCNQ)結晶を試料として選択し、金蒸着や、銀ペーストによる電極作製を行い、サンプルフォルダーにも光電流計測に必要な加工をして、空間分解能1μm、面内走査領域100μm四方での光電流の同時イメージング計測が可能であることを実証した。β‘(BEDT-TTF)(TCNQ)結晶は低温において反強磁性転移を示すが、相転移近傍において光電流が抑制されることを明らかにした。g因子等の物理パラメータの違いがスピン輸送に及ぼす影響について調べることに関しては、g因子の大きな希薄磁性半導体量子井戸CdMnTeの二次元電子ガスを対象とした研究を進めている。CdMnTe量子井戸を用いた光誘起Kerr回転測定によって、スピンの歳差運動を捉え、磁場・温度に対する応答の詳細を明らかにしており、スピン輸送計測への準備は概ね完了している。その他の試料として、GaAs量子井戸や有機系の物質を対象とした光誘起スピンダイナミクスとスピン輸送の研究の準備も始めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
顕微・時間分解カー回転システムを顕微鏡用連続流式クライオスタットと作動距離の短い顕微レンズ光学系を用いて構築し、4K~室温の温度領域で光誘起電子スピンの輸送が観測できることをZnSe/BeTeタイプII量子井戸を用いた実験で明らかにした。また、二次元電子のスピンドリフトの観測のために、カー回転計測と光電流を同時に計る機構を装備することを平成25年度の目標としていたので、これを実行した。光電流計測においては、電極を取り付けた試料が必要になる。そこで、室温において20μm以上の拡散を示す有機モット絶縁体β‘(BEDT-TTF)(TCNQ)結晶を試料として選択し、金蒸着や、銀ペーストによる電極作製を行い、サンプルフォルダーにも光電流計測に必要な加工をして、空間分解能1μm、面内走査領域100μm四方での光電流同時計測を可能とした。また面内電場を印加することで光生成キャリアのドリフト現象も捉えることに成功した。β‘(BEDT-TTF)(TCNQ)結晶では低温において反強磁性転移を示すが、相転移近傍において光電流が抑制されることを明らかにした。g因子等の物理パラメータの違いがスピン輸送に及ぼす影響について調べることに関しては、g因子の大きなCdMnTe量子井戸の二次元電子ガスを対象とした光誘起カー回転測定を行い、スピンの歳差運動を捉え、磁場・温度に対する応答などの詳細を明らかにし、スピン輸送計測への準備を概ね完了した。
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Strategy for Future Research Activity |
構築したスピン輸送計測システムを用いて、ZnSe/BeTeタイプII量子井戸における光生成二次元電子のスピン輸送だけでなく、GaAs、CdMnTe量子井戸の二次元電子ガスにも拡張し、g因子等の物理パラメータの違いがスピン輸送に及ぼす影響について調べる。また、有機モット絶縁体β‘(BEDT-TTF)(TCNQ)を用いて、同システムにおいて光電流のイメージング計測ができることを実証したので、無機系の試料においてもスピン輸送に加え、光電流計測を行い、光生成キャリアのスピンと電荷の輸送を調べ、スピンと電荷の輸送特性について明らかにし、スピンドリフト現象についても知見を得る。更に、有機系の試料でもスピン輸送計測の観測を対象とした研究を進める。β‘(BEDT-TTF)(TCNQ)では、低温において反強磁性転移を示すが、相転移近傍で大きな光学応答の変化が得られることが分かっており、その要因について光誘起Kerr回転によるスピンダイナミクス測定から調べるとともに、スピンや電荷輸送計測についても試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額(B-A)が生じた状況としては、論文投稿に関わる予算の執行が平成26年度にずれたためである。 翌年度分の助成金と合わせた使用計画としては、各種半導体を対象とした測定に必要な光学機器(部品)の購入費、低温寒剤費、研究会・打ち合わせ等の旅費、論文投稿費を予定している。
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