2012 Fiscal Year Research-status Report
微小ジョセフソン接合デバイスにおける量子状態の操作と量子コヒーレンスに関する研究
Project/Area Number |
24540317
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
島津 佳弘 横浜国立大学, 工学研究院, 准教授 (70235612)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ジョセフソン接合 / 量子ビット / 超伝導デバイス / 量子コンピュータ |
Research Abstract |
Sideband遷移に伴うラビ振動が明瞭に観測された磁束量子ビット試料に関して、Sideband遷移を誘起する低エネルギーの振動子モードの起源を明らかにするために、このモードの周波数が、マイクロ波パルス印加時のDC-SQUIDループ内の磁束およびバイアス電流に対してどのように依存するかを調べた。これらの依存性の実験結果が、このモードの起源がDC-SQUIDに付随するLC共鳴であると仮定したときの計算結果とよく一致していることから、モードの起源がこのようなLC共鳴であることが判明した。ここで、インダクタンスはDC-SQUIDのジョセフソン接合のもつジョセフソンインダクタンス、Cは、DC-SQUIDに並列に作製したシャントキャパシタンスである。以上の理論解析により、シャントキャパシタンス等のパラメータを定量的に評価することができた。 次に、通常のラビ振動とBlue-sidebandおよびRed-sideband遷移に伴うラビ振動の振動数の比について理論解析を行った。これらの振動数の比は、DC-SQUIDに付随するLC共鳴モードと量子ビットの間の結合定数などによって理論的に与えられる。解析の結果、LC共鳴モードのわずかな励起を仮定することで、実験結果を説明できることがわかった。この励起の主たる原因は熱励起であると考えられる。 振動子(DC-SQUIDに付随するLC共鳴)の2以上の量子数変化を伴う、高次のBlue-sideband遷移およびRed-sideband遷移を初めて観測した。これは、実験に用いた試料において、量子ビットと振動子の結合が極めて大きいことを意味する。この原因が、従来の研究例とは異なり、量子ビットをSQUIDループの外側に位置する構造にしたことにあることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題の目的のひとつは、量子ビットと他の調和振動子モードとの結合系の物理的機構を解明することであるが、今回解析した試料に関しては、DC-SQUIDに付随するLC共鳴モードが振動子モードとして顕著に観測されていることが実験的に明らかとなり、さらに、試料構造がこれらの結合度に大きく影響を及ぼすことも明らかとなったことにより、この目的が達成されたといえる。しかし、DC-SQUIDのバイアス電流に対する励起エネルギースペクトルの依存性に、予期しなかった現象がみられており、これについては今後の研究課題である。コヒーレント量子振動(ラビ振動)の測定と理論解析に関しても、大いに進展した。LC共鳴モードと量子ビットの間の結合定数を正確に推定し、実験結果を定量的に再現するためには、熱励起を抑えるために振動子モードの周波数が更に大きい試料を作り実験することが必要であることがわかった。 量子コヒーレンス時間の向上に関しては、DC-SQUIDのバイアス電流の最適化が重要であることが実験的に確かめられた。試料パラメータ、特に量子ビットのエネルギーギャップの最小値が大きすぎると量子コヒーレンス時間があまり長くならないと予想される。サイドバンド遷移を観測した試料では、この値が目標とする値より非常に大きかったために、量子コヒーレンス時間があまり長くなかったと考えられる。 申請者が過去に発見した新しいレベル分裂現象により生成した量子状態の解明と制御も、研究目的のひとつであるが、平成24年度に測定した試料では、この現象が観測できなかった。試料パラメータが原因である可能性もあるものの、現在のところ、この現象の出現には量子状態の測定方法(DC-SQUIDの臨界電流測定か、スイッチング確率測定か)が影響するものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
磁束量子ビットと振動子モードが強く結合し、コヒーレントにふるまう系に関する研究を更に推進する。量子ビットのコヒーレンス時間を延ばすためには、エネルギーギャップの最小値を、平成24年度に主に測定した試料における値よりさらに小さくする必要があると考えられるので、接合のパラメータを修正した試料を作製する。また、振動子モードと量子ビットの間の結合定数を正確に推定し、実験結果を定量的に再現するためには、振動子モードの熱励起が無視できる程度に、振動子モードの周波数を大きくする必要があるので、それをめざして試料を作製する。一方で、振動子モードの周波数が比較的小さく、振動子モードの熱励起が顕著な試料に関して、sideband cooling の実現をめざして実験を行う。 DC-SQUIDに付随するLC共鳴モードの場合、振動子の緩和時間が十分に長くないため、サイドバンド遷移を伴う量子操作においては不利であると考えられる。これに対して、伝送線共振子では、比較的長い緩和時間が実現できると予想されるので、伝送線共振子の作製条件を調べ、共振周波数などの基礎的特性を測定する。コヒーレンス時間を向上するために、基板上に、微小リード抵抗やマイクロ波印加用のアンテナを付加した試料の作製条件を調べ、量子コヒーレンス時間を測定し、従来の試料の場合と比較する。 DC-SQUIDのバイアス電流に対する励起エネルギースペクトルの依存性に、予期しなかった現象がみられた。この原因を明らかにするために、理論的および実験的に研究を進める。過去に観測された新しいレベル分裂現象を再現し、物理的機構等について調べるためには、DC-SQUIDの臨界電流測定法による量子ビット特性の測定が必要であると考えられるので、これを確かめるための実験を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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Research Products
(9 results)