2013 Fiscal Year Research-status Report
有機薄膜中の閉じ込め励起子と光とのコヒーレント結合による超高速輻射緩和
Project/Area Number |
24540321
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊藤 正 大阪大学, ナノサイエンスデザイン教育研究センター, 特任教授 (60004503)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
一宮 正義 大阪歯科大学, 歯学部, 講師 (00397621)
芦田 昌明 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (60240818)
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Keywords | 光物性 / 量子閉じ込め / 光学非線形性 / 分子性結晶 / 超高速輻射緩和 |
Research Abstract |
第2年度は、アントラセンの100nmオーダーの良質の分子性単結晶薄膜の作製を継続し、併せてその線形・非線形光学測定を試み、光と励起子のコヒーレント結合によるサイズ共鳴増大現象(超高速輻射緩和と超高速光学非線形性)の確認のための実験を行った。 1.石英基板上に気相成長法で作製した試料は、昇華によって膜厚が変化すると共にクライオスタット内を汚染するため、安定な測定に適さないことが分かった。前年度から試みていた2枚の石英板を貼り合わせ、その隙間にアントラセンの融液を毛管現象で浸み込ませて結晶薄膜を作製する毛管法成長法が、昇華を防ぎ安定した試料を提供するのに適していることが分かった。また、甲南大学の青木珠緒氏との共同研究により、一方の石英板の内側となる面にストライプ状に金薄膜を厚さを変えて蒸着しておくことで、膜厚の制御が容易となることを示した。 2.気相成長法による良質試料と毛管法による試料の線形光学スペクトルを比較し、後者において自由励起子とその分子内振動を伴う励起子発光が良好に観測されることを確認した。しかし、励起子の共鳴領域で期待される励起子閉じ込め効果による振動構造については、スペクトル分解能の範囲内ではまだ明確には観測されていない。 3.サイズ共鳴増大現象を直接観測可能な四光波混合信号スペクトルの測定に着手したが、レーザーの2光束を同時に照射すると信号強度が減少する現象(誘起吸収)が観測されたために、現在その解析と原因究明を行っている。 4.比較のために、CuCl薄膜における励起子のサイズ共鳴増大現象を論文に纏めた。 次年度は、発光・吸収スペクトルにおいて励起子閉じ込めの存在を確かめると共に、四光波混合信号の時間応答から超高速輻射緩和がアントラセン薄膜結晶で起こることを確認する。これらを総合して分子性結晶薄膜における励起子輻射緩和のサイズ共鳴増大現象の存在を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この研究の要となるのは、100nm台の膜厚を持った光学的に良質なアントラセン分子性単結晶薄膜の作製と膜厚制御。さらに励起子の量子閉じ込め効果の確認であるが、試料作製については手法がほぼ確立したが、励起子の量子閉じ込め効果については発光スペクトルにおいてまだ確認に至っていない。その理由としては、100nmオーダーの膜厚の試料では、ミクロンサイズの薄膜で観測される干渉縞に相当する振動構造が見られず、励起子共鳴領域で期待される励起子閉じ込め効果を示す振動構造への遷移については、膜面成長方向の励起子の有効質量が大きいこともあって、励起子共鳴近傍の極めて狭い光子エネルギー領域に現れることが予想されるため、現在のところ明確には観測されていない。励起子発光の均質幅を可能な限り狭くする良質試料を選択ことと、観測装置のスペクトル分解能を向上させる必要がある。現在は、サイズ共鳴増大現象を直接証明できる四光波混合信号の観測の方に注力している。
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Strategy for Future Research Activity |
種々の厚さを持ったアントラセン薄線試料における線形発光スペクトルを比較し、サイズ共鳴増大現象を観測するのに適した試料の膜厚と光波長を選び出して、狙いを定めた条件下での四光波混合信号の時間応答を測定し、その結果から超高速応答を示す成分を抜き出すことを試みる。 同時にペリレン薄膜結晶において、サイズ共鳴増大現象による励起子輻射緩和の増大の観測を試みると共に、膜厚減少で自己束縛から自由励起子発光への遷移が実際に誘起されるかどうかの観測を試みる。これらを通じてペリレン微結晶で観測された励起子発光の特異なサイズ依存性の解釈を試みる。 これらを総合して分子性結晶薄膜における励起子輻射緩和のサイズ共鳴増大現象の存在と、励起子の自己束縛化に対する影響を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は、海外における国際会議、および研究打ち合わせのために当初海外渡航旅費を想定していたが、招待講演による旅費支援があったことと、もう1件が国内開催であったために、小額支出となった。代わりに、一部を線形・非線形光学測定系を改良するための各種消耗品の購入に当てた。 試料作製に目処が付き、非線形光学測定を開始しているが、主要な測定は次年度(最終年度)当初から始まり、超高速応答測定のための光学部品、非線形光学素子などが今後新に必要となるため、次年度使用額と次年度当初予算額を合わせて、試料作製のための原料試料、石英ガラス基板、金蒸着原料、光学部品、試料を低温に冷やすための寒剤等の物品費に110万円、研究成果発表のための国内外旅費に50万円、謝金に10万円、出版費に10万円、合計180万円を直接経費として予定している。
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Research Products
(7 results)