2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540322
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
服部 公則 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (80228486)
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Keywords | 量子スピンホール効果 / 量子異常ホール効果 / トポロジカル絶縁体 |
Research Abstract |
時間反転対称性が保持されている場合、3次元トポロジカル絶縁体の表面には金属的な2次元状態が現れる。この表面状態はマスレス2次元ディラック電子系と見なせる。磁気ドープあるいは強磁性体との接触により時間反転対称性を破ると、ディラック分散には質量ギャップが開く。このとき、トポロジカル絶縁体は、それが有する最も顕著な特質として、無磁場の量子ホール効果、すなわち量子異常ホール効果を発現する。時間反転対称性が破れた量子異常ホール状態は時間反転対称な量子スピンホール状態の部分系が顕在化したものであり、両者の包括的理解は必須である。本研究では、表面磁化が創発性U(1)ゲージ場を誘起することに着目した。磁化とゲージ場の対応はバルクでは非自明であり、低エネルギーの有効表面ハミルトニアンにおいてのみ見られる特異な現象である。ゲージ場は量子異常ホール効果を介してトポロジカルな電荷応答をもたらす。平成25年度では、トポロジカル絶縁体表面のゲージ場による電荷誘導と電気分極をコンパクトに定式化するとともに数値計算を用いて定量的に実証した。これらの現象は、量子ホール効果を説明するラフリンの思考実験と本質的に等価である。ただし、表面ホール系に作用するベクトルポテンシャルは磁束挿入ではなく表面磁化により局所的に生成される。すなわち、本研究で見いだされた電荷誘導・電気分極は、トポロジカル絶縁体表面の量子異常ホール効果を、試料の電気伝導等の巨視的測定によらず、局所的に観測する術を提供するものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子スピンホール状態は量子ホール状態の時間反転対称性な合成である。一方、量子異常ホール状態は無磁場で発現する特異な量子ホール状態であり、時間反転対称性の破れた量子スピンホール状態あるいは量子スピンホール状態の部分系と見なせる。両者を包括的に調査することは、現象の根本にあるトポロジカル量子化現象を理解する上で必須である。平成25年度においては、研究対象を3次元トポロジカル絶縁体に形成される量子異常ホール状態にまで普遍化し、表面磁化が誘起する電荷誘導や電気分極など新たな知見が得られた。トポロジカル絶縁体は量子スピンホール相と量子異常ホール相が共存する興味深い物理系であり、その物性解明を目指す本研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
時間反転対称性が保持されている場合、トポロジカル絶縁体の表面にはギャップレスな2次元ディラック状態が存在する。この系を薄膜化すると表面状態と裏面状態はトンネル結合し、ディラック分散にはギャップが開く。興味深いことに、このようなトポロジカル絶縁体薄膜は、膜厚に応じてトリビアルなバンド絶縁体と2次元トポロジカル絶縁体の間で移り変わる。トポロジカル領域では、系は量子スピンホール効果を発現する。さらに、磁気ドープあるいは強磁性体との接触などによって時間反転対称性を破れば、系は量子異常ホール状態に転移する。このように、トポロジカル絶縁体薄膜は量子スピンホール相と量子異常ホール相がともに実現可能な興味深い物理系である。平成26年度においては、量子スピンホール状態と量子異常ホール状態における電気伝導を中心にトポロジカル絶縁体薄膜の諸物性の解明を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主な理由は計画していた設備品(ワークステーション)の発売が当初の予想より遅れ、平成25年度内の納品が不可能であったためである。 設備品の発注手続きはすでに開始している。使用開始は、納品時期にもよるが、平成26年5月以降を見込んでいる。これに合わせて数値計算環境を整え今後の推進方策に則って年度内に研究を完結する予定である。
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