2013 Fiscal Year Research-status Report
nm空間分解能でのフォノン解析を可能にする広帯域赤外近接場分光装置の開発
Project/Area Number |
24540340
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
池本 夕佳 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 利用研究促進部門, 副主幹研究員 (70344398)
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Keywords | 近接場分光 / 赤外放射光 |
Research Abstract |
本研究課題は、ナノメートルオーダーの空間分解能を持つ赤外近接場分光装置を開発し、積層セラミックコンデンサの強誘電体層1層の内部状態を調べることを目的としている。赤外近接場分光装置の光源としては、大型放射光施設SPring-8の高輝度赤外放射光(BL43IR)を利用する。計画実施前は、市販のAFM装置とFTIR装置を組み合わせて構築した装置で、プローブ振動を利用した変調分光を行うことにより、900-1030cm-1における近接場スペクトル測定を達成していた。空間分解能は300nmであった。しかし、スペクトルのS/N比が悪く、空間分解能評価のためのテスト試料(シリコン基板上の金薄膜)以外の試料を測定することができなかった。スペクトルのS/N比向上のための装置開発として、平成24年度においては非対称FTIR配置への装置改造を行った。当該25年度研究においては、まず、非対称FTIR干渉計の干渉効率を上げるための方策を実行した。前年度までは平行平板ZnSeをビームスプリッターとして利用していたが、裏面と表面両方からの反射光が異なる光路を通るため、干渉強度をロスする。市販のFTIR装置で利用されているビームスプリッター(KBr基盤Geビームスプリッター)を利用することにより、干渉効率を2倍程度改善した。その他、光学系の安定性として、ミラー等を設置している課題の剛性をあげる方策をとった。また、放射光の安定性向上としては、ステーションに至るまでのミラーの振動対策を行った。本研究目的であるセラミックコンデンサを測定する為には、近接場スペクトルのS/N比向上が不可欠で、本年度の成果は重要である。積層セラミックコンデンサについては、試料を入手し、表面研磨を行い、通常の顕微分光でスペクトルの確認を行った。更に、くみ上げた近接場装置でトポ像の取得を行い、試料形態・散乱強度の確認を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の到達点である積層セラミックスコンデンサの近接場スペクトル測定のためには、近接場スペクトルのS/N比の改善が必要である。S/N比改善の為の方策として、これまでの研究期間を通じて、1)非対称FTIR配置への装置改造、2)干渉計の干渉効率の向上、3)赤外放射光の空間安定化、4)光学系の安定化、5)放射光のフィリングパターンと信号強度の関係調査及び対策を行った。我々の装置は、プローブとして散乱型プローブを利用しており、強い散乱光を除去する為にプローブ振動を利用した変調分光を行っている。プローブ振動は32kHzで、散乱光のうちこの2倍の周期で振動する成分をロックインアンプで抽出する。一方、放射光はパルス光源で、SPring-8では様々な時間構造を持つパターン(フィリングパターン)での運転を行っている。電子の周回周波数は208kHzで、変調周波数と近い。蓄積リングに均等に電子が分布している場合にはパルス間隔は十分小さく周波数は高いが、偏って分布した運転パターンでは、208kHzの時間構造が支配的となる。このような運転モードでは、ロックインアンプによる信号の抽出が困難となり、信号が検出されない、もしくは、スペクトル形状が変形するなどの影響があることがわかった。均等な電子配置の運転モードの際に実験を行い、早い周期構造の信号を除去する電気フィルターを使用するなどの対策を施した。このように、赤外放射光光源は、他の赤外光源(レーザーや熱輻射光源)と比較して、高輝度かつ広帯域の優れた特性を持っているが、一方で他の光源では見られない様々な困難な点がある。我々は、これらの問題に対して、一つずつ詳細に検討を行い着実に克服して、近接場スペクトルのS/N比を向上させている。積層セラミックコンデンサ材料自体の準備も進めており、研究は順調に進行していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
我々の近接場分光装置で利用しているプローブの先端局率半径は100nmである。プローブ先端への赤外光の集光はファーフィールドの集光で、理想的な集光を行っても波長の半分程度のサイズにしかならない。現状は、光の振動や、放射光スポット内の波面の乱れなどにより、回折限界には到達しておらず、これらは、近接場信号のロスにつながる。近接場信号は、入射光に対して3桁程度低く、あらゆる手だてを講じてロスを防がなくてはならない。既に種々の対策を施し成果を得ているが、更にプローブ位置に於ける赤外放射光の空間安定性をあげるため、フィードバックシステムの導入を行う。ピエゾ駆動でミラー角度を調整するアクチュエーターと、4分割フォトダイオードによる位置検出とを組み合わせたシステムである。アクチュエーターに搭載したミラーに反射した後の光の一部をビームスプリッターで取り分けて位置検出し、この情報をアクチュエーターにフィードバックすることにより、位置の移動が最小になるように制御する。このフィードバックシステムで除去を目指しているノイズ周波数帯は、100Hz以下のゆっくりした時間成分である。低い周波数のノイズは、インターフェログラムのベースライン歪みの原因となり、しかも、時間的に変動するため、スペクトルの劣化につながる。平成26年度、フィードバックシステムの導入により、更に安定性を向上させ、スペクトルのS/N比を向上させる予定である。この装置を利用して、積層セラミックコンデンサの測定を行い、結果を順次、学会、論文等で発表して行く予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は研究最終年度にあたり、成果発表のための旅費として使用するためにくりこした。 国内学会等に参加し成果発表するための旅費として使用する。
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Research Products
(6 results)