2012 Fiscal Year Research-status Report
四方逆プリズム型遷移金属錯体に発現する多彩な磁性とその光制御
Project/Area Number |
24540342
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 昌司 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90252551)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光誘起磁性 / 遍歴電子強磁性 / 四方逆プリズム型錯体 / モリブデン化合物 / 群論 |
Research Abstract |
分子模型を作成してMo4d、Cu3dの有効軌道模型を構築し、ハミルトニアンを考案し、その群計算へと進みました。既約表現の洗い出しに成功した後、数値計算により基底状態相図を描きました。相図と実験を照らしては、パラメタの調整、パラメタの再考、モデルの拡張といった、延々暗中模索のプロセスが長く続きました。当初想定しなかった単位胞倍化磁気秩序(『達成度』の欄にも関連記述)まで計算することとなりましたが、意中の基底状態相図を完成することができました。 当初、電子遍歴・相関ともに、単位胞内のパラメタを微調整・多様化することに労力を割きました。しかし、思った程の強磁性領域の張り出しは見られませんでした。試行錯誤する中で、結晶パラメタを再度精査し、単位胞をまたぐ銅‐銅間距離が以外に近いことに気付きました。そこでこれを経由する電子遍歴パラメタを追加したところ、強磁性状態は拡大し、またMo、Cuサイト上の電子相関パラメタも、より自然な形に設定することができました。 光励起前の低温常磁性状態、これは光誘起される強磁性状態と肉薄、隣接しているだろう、最初はそのように考えていました。しかし、広範な数値計算を重ねた結果、そのような状況は非現実的であることが分かりました。間に、反強磁性相が有為に割り込んでくるのです。すると、光励起により、遠く離れた常磁性・強磁性両状態を架橋できるのか心配になります。このため、本来まだ先に位置する磁化ダイナミクスの経路積分計算を試行してみました。驚いたことに、僅かな僅かな磁気緩和因子(ジャロシンスキ‐守谷相互作用)を想定することにより、常磁性状態から巨視的磁化が立ち上がることが分かりました。しかもそれは、広範なパラメタ設定のもとで可能であり、実験で観測されている光誘起磁化は間違いなくこの8配位モリブデン錯体に特有のもの、そう確信しました。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
四方逆プリズム型シアノ8配位モリブデン錯イオンの対称性はD4d、これと銅イオンから成るCu2[Mo(CN)8]のそれはC4hです。並進まで考慮した結晶の空間対称性はI4/m、大変複雑な3次元構造を取り、その磁気秩序を系統的に洗い出すことは、本題―光誘起磁性―に先立つ序章に過ぎないながら、本研究の成否を左右する重厚長大な計算となります。平成24年度はこの群計算に集中する予定でした。翌年度へずれ込む可能性すら想定した計算ですが、これが殊の外順調に進みました。 その理由は、申請段階で既に、分子模型まで作成して熟慮を重ね、Mo4d、Cu3dの有効軌道模型を構築していたことに尽きます。これには半年を要していました。その定式化の上にスムーズに群計算に入ってゆけたことが功を奏し、光励起の叩き台となる基底状態磁気相図の数値計算を、年度内に修了することができました。 一方予定外の追加計算も生じました。当初想定していなかった、単位胞が倍化した磁気秩序状態の計算も行いました。これは、実験環境に近い基底状態相図を手に入れようとする中で、遍歴ないし相関パラメタをより多様化する必要が生じ、伴って倍周期秩序状態の発生が予期されたからです。後に続く磁化ダイナミクスの計算―実時間経路積分―まで考える時、このモデルの拡張はとても勇気+根気の要ることでしたが、これに乗り出し、現段階で既にクリアしました。それもこれも、申請段階における準備考察が、初年度の労力・負担を大幅に軽減してくれたからこその成果でした。 倍周期磁気秩序状態は、基底状態相図の一定領域を占めるとは言え、光励起前後の静的磁気秩序として存在することまでは想定していません。しかし、磁気緩和の隠れたスパイスとして機能する可能性はあります。
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Strategy for Future Research Activity |
基底状態磁気相図は絶えず修正の可能性がありますが、典型的な相競合の概要を抑えることはできました。そこでこれをもとに光励起を試みます。しかしそれに先立ちまだ準備することがあります。光学伝導度の計算です。励起光波長・偏向・強度等、やみくもに設定することはできません。実験に合わせることが大前提ですが、現在までのところ実験試料は粉末のみで、データが安定していません。吸収効率を精確に査定することはおよそ不可能であり、逆にだからこそ、理論再度から幅広く系統的知見を提供してゆく必要があります。このため、単結晶資料を想定した偏向光学伝導度の詳細な計算を行います。 電子相関は勿論重要ですが、これはHartree-Fock(HF)近似において行うこととします。理由は2つあります。1つに、磁化ダイナミクス計算との整合性があります。計算メモリ・時間の観点から、配位間相互作用まで考慮した経路積分計算は絶望的です。そこで、シュレーディンガー方程式の積分は時間依存HF法を用いることにします。したがって、出発点となる状態及びその物性も、HF近似で計算することにします。これは消極的動機ですが、もう1つの理由は、もう少し積極的正当化に貢献します。結晶は3次元構造を取ることから、低次元に比べHF近似の妥当性は増すと考えられます。実際、わずか数単位胞の小さな系ですがHF近似を越えて相関を考慮してみたところ、現計算を覆すような定性的差異は見られませんでした。 光学伝導度スペクトルが得られたならば、これをもとに励起波長を査定し、ダイナミクスの計算に進みます。磁化の直接観測は勿論のこと、電子及び正孔1粒子グリーン関数(角度分解光電子分光スペクトル)の計算等を通して、磁化発現機構の解明を目指します。さらには磁化減退まで再現できるか、ならばその機構は、3年度目、最終年度へ向けて、挑戦を続けます。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし。
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Research Products
(9 results)