2013 Fiscal Year Research-status Report
四方逆プリズム型遷移金属錯体に発現する多彩な磁性とその光制御
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24540342
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
山本 昌司 北海道大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (90252551)
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Keywords | 光誘起磁性 / 遍歴電子強磁性 / 四方逆プリズム型錯体 / モリブデン化合物 / 群論 / 光学伝導度 |
Research Abstract |
群論解析により磁性・非磁性可能な基底状態相を洗い出した後、その競合相図の数値計算に進みました。結晶構造が複雑な分、ホッピング・パスは勿論、クーロン相互作用についても、試行錯誤が続きました。当初、主題の1つである遍歴強磁性相が思うように拡大しませんでしたが、結晶構造を再度精査するうちに、単位胞を跨ぐ銅イオン間距離が大変近く、これに係るクーロン相互作用が大変重要であることに気付きました。結果、強磁性相は拡大し、初期状態である常磁性相とより近接しました。これら2相の他にもう1つ、モリブデン・イオン上の電子が出払い、銅イオン上に電子が移動する、“電荷偏在相”を見つけました。この相は、銅イオン上のクーロン反発が極端に小さい所でのみ実現するもので、基底状態としては現実味を欠きますが、大変興味深いことに、光誘起強磁性状態、これをさらなる光照射で消磁してゆく時、バンド構造はこの電荷偏在相に似通ってゆくことが判明しました。光誘起磁性、光消磁、そうして到達する微弱磁性、非磁性状態は、初期常磁性状態とは異なる可能性が浮上してきました。今年度の大変大きな収穫、来年度へ向けての大変重要な論点です。 これら3つの興味深い相それぞれについて、光学伝導度を計算し、実験で検出する際の特徴を示しました。光照射後、バンド・ギャップは速やかに縮小し、ドゥルーデ吸収バンドが現れます。これに伴い、初期状態を特徴づける吸収バンドは低エネルギー側にシフトし、間もなくその構造及びウェイトそのものが消失します。また、角度分解光電子分光スペクトルを時間追跡しながら計算し、磁化発現・減退過程に伴うバンド構造の変化を視覚化しました。平坦バンドそしてその縮重度が磁化の増減と密接に関連しています。運動量空間でのより定量的解析を進めてゆく所存です。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
群計算による可能な磁気秩序相の導出を経て、基底状態相図を数値計算するところから今年度は始めました。各相のバンド構造や光学的性質の計算を通して、光照射実験が行われたモリブデン錯体のクーロン・パラメタを同定し、そこでこの光誘起磁性を再現するところまでを、今年度の目標に掲げました。ベクトル・ポテンシャルをハミルトニアンに導入して“光照射”を行い、時間依存シュレーディンガー方程式を数値的に解いて、磁化や局所電子密度のダイナミクスを追跡しました。ハミルトニアンにおける磁化の保存は、ジャロシンスキ‐守谷相互作用を仮定して壊しました。ただし、その大きさについては3桁にわたって変えた計算を行い、最終的な誘起磁化量に深刻な影響を与えないことを確認いしています。この磁気緩和駆動因子の導入の仕方によって、本質的な物理が変わることはありません。そうした注意深い道具立て、理論創りを経て、光照射により確かにマクロな磁化が誘起されることを確認できました。 当初想定以上に計画が進展していると考えるのは、この磁化誘起仮定に留まらず、磁化減退過程の再現にも成功したからです。実験では、青色光照射で磁化増大、より長波長低エネルギー光照射で磁化減退が確認されています。ガウス型パルス光を断続的に“照射”した結果、一連の磁化増減を再現することができました。特に、磁化減退過程において、モリブデン・サイトから銅サイトに移動した電子が単純に回帰するのではなく、むしろ減退過程においても、電子の正味移動はモリブデン→銅である、そのようなシナリオが判明したことは驚きに値します。また磁化が立ち上がる過程でも発見がありました。光子エネルギーの吸収には2つの段階があり、前者は言わば潜伏期間で、巨視的磁化の発現は後者で起こります。運動量空間で見ると、光子吸収に寄与する電子に質的変化が起こることが分かります。
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Strategy for Future Research Activity |
達成度の項で、2つの『発見』を詳述しました。1つは、磁化発現過程における2段階の光子エネルギー吸収、もう1つは、磁化減退過程における正味モリブデン→銅の電子移動です。特に後者は、大きな驚きをもたらしました。来年度の研究推進方策の主眼は、この大胆なシナリオを注意深く確認する作業に置きます。『光消磁した準安定状態は、初期上磁性状態とは質的に異なる』シナリオとしては大変魅力的なものですが、その是非は慎重に議論しなくてはなりません。われわれのシミュレーションでは、光照射により、電子は概してモリブデン→銅の向きに移動します。一見磁化が減退していても、電子移動の流れは継続、逆転しないのです。このプロセスを、実験的に“観る”指針を与える必要があります。光学伝道度、角度分解光電子分光、これら実験を模した計算を行い、この電子の流れを如何にして確認するかを議論・提案してゆきます。 電子が銅→モリブデンと回帰することでも、勿論、磁化は減退します。光子エネルギーを吸収しているわけですから、定量的に同じ初期状態に戻ることは許されません。しかし、別のシナリオが無いか、あるならばいずれのシナリオにより強い正当性があるか、これらを愚直に確認してゆきます。 これとは別に、研究最終年度も見据えながら、もう1点考えていることがあります。当該物質の発信基地である、大越教授、所準教授の研究室から、コバルト・タングステンの組み合わせでも、同様ないしより効率のよい光誘起磁性が発現することが、この春の学会で発表されました。錯体配位は四方逆プリズムではなく二冠三角柱、結晶構造は単斜晶系となり、ゼロからの出発を余儀なくされますが、系統性、比較研究の観点から、将来的には考慮したい課題です。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
北海道大学の会計システムの仕様上,平成25年度3月に購入した物品に関しては,平成26年度4月支払いとなるため。 平成25年度3月に購入した物品を当初予定通り使用する。
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Research Products
(8 results)