2013 Fiscal Year Research-status Report
スピンフラストレーションおよび競合する自由度をもつ遷移金属フッ化物の新奇物性探索
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24540345
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
植田 浩明 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (10373276)
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Keywords | スピンフラストレーション / 電荷秩序 / フッ化物 / パイロクロア |
Research Abstract |
当該年度には、秩序型ReO3構造のZrMF6について、一連の化合物を合成し、その基礎物性を測定した。また、その前年度から継続して研究を行っている変型パイロクロアAV2F6およびダブルペロブスカイトA2BVF6に関しても、質を向上させた試料について、研究を行った。さらに、これらの研究の中で、新物質である秩序型変型パイロクロアA2BTi3F12、A2BV3F12を発見し、これらの研究も開始した。 秩序型ReO3構造のZrMF6は、M=Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Niについて、研究を行った。その結果、M=Ti,Coでは、スピンは反強磁性的に相互作用しているが、それ以外のものでは、その相互作用は非常に小さいことが明らかになった。また、M=Ti,Coについては、磁場によって安定化される磁気秩序状態を低温で形成することが分かった。 変型パイロクロアAV2F6については、単結晶を用いた物性測定を行うことにより、前年度の問題となっていた再現性の問題をクリアした。CsV2F6においては、電荷秩序の形成に伴い、構造が変化する。一方RbV2F6においても構造変化が起こるが、これはイオン間の隙間の大きさが重要な役割を担っていることが分かった。ダブルペロブスカイトA2BVF6に関しては、単結晶においては組成ずれが起こるが、多結晶では抑制されることが分かり、これらを用いた物性測定が進行中である。 新物質である秩序型変型パイロクロアA2BTi3F12、A2BV3F12は、単結晶構造解析を行い、TiまたはVがカゴメ格子を形成している磁性体であることが明らかになった。これらの物性測定も進行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
これまでの二年間の研究で、変型パイロクロアACr2F6、AV2F6およびダブルペロブスカイトA2BTiF6に加えて、秩序型ReO3構造のZrMF6の研究の主な部分に区切りが付いた。また、変型パイロクロアACr2F6とダブルペロブスカイトA2BTiF6については、論文も出版され、変型パイロクロアAV2F6と秩序型ReO3構造のZrMF6については、論文の準備中である。これらのことを考慮すると、研究の進展はほぼ順調であると言える。さらに新物質である秩序型変型パイロクロアA2BTi3F12、A2BV3F12を発見したことによって、研究の幅が広がり、この点においては、予定以上の成果ということができる。 一方で、ダブルペロブスカイトA2BVF6については、良質な粉末試料を得ることはできたが、組成のコントロールに苦労したために、その物性測定はそれほど進んでいない。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは、当初の予定のうちで残された課題であるダブルペロブスカイトA2BVF6について、物性の評価を行う。 また、ダブルペロブスカイトA2BTiF6については、アルカリ金属の置換によって、中間の物質の探索と物性評価を行う。ダブルペロブスカイトA2BTiF6は、d電子を一つ持つTiのヤーンテラー不安定性と、アルカリ金属イオンの大きさによって決まる格子の不安定性を持ち、これらの競合によって物性が変化する。これまで、二種類のアルカリ金属を用いて、五つの化合物を合成し、それらの物性を明らかにしてきた。さらに、アルカリ金属を固溶させることによって、それらの中間の格子の不安定性を持った物質を作ることができることが明らかになった。それらを合成、評価することにより、格子の不安定性を連続的に変化させた効果を明らかにする予定である。 また、新たに発見された秩序型変型パイロクロアA2BTi3F12、A2BV3F12についても、合成および物性測定を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初の予定よりも対象とする物質が増えたことにより、アルゴン雰囲気での合成に不可欠なグローブボックスと直結した電気炉の数が、現状では不足している。円滑に研究を進めるため、このような電気炉の増設を当該年度より進めているが、納期などの関係で、翌年度までかかってしまうことになった。そのため、翌年度に予算を残すことになった。 これらの予算を元に、まずは、先に述べたグローブボックスと直結した電気炉の増設を行う。これらには物品費を使用するが、物品費はそれ以外に、フッ化物の合成に必要な、金や白金の容器などの消耗品や、物性の測定に必要な液体ヘリウムなどに使用する予定である。旅費は、研究成果の発表のために、いくつかの学会に参加予定であり、そのために使用する。その他としては、論文投稿費や英文校正費をあてる予定である。
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