2012 Fiscal Year Research-status Report
ペロブスカイト酸化物人工超格子の配向・積層制御と低温酸化還元
Project/Area Number |
24540346
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
市川 能也 京都大学, 化学研究所, 助教 (70365691)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 遷移金属酸化物の合成と物性 |
Research Abstract |
ペロブスカイト酸化物人工超格子の成長する配向と積層の周期を変えることで磁性を持つ陽イオンの配列方法を制御し、更に酸化還元反応を施し酸素配位を制御することで、遷移金属陽イオンの新規な配列・価数、および酸素イオンの配位を物性の起源とする新しい磁性体を合成し将来の新規酸化物素子実現へ向けた基礎の確立を本研究は目的としている。 本年度はペロブスカイトと同一な陽イオンの枠組みを有するブラウンミレライト酸化物Ca2FeMnO5 (BM-CFMO) 薄膜の合成とその低温酸化を行った。BM-CFMOではFeイオンとMnイオンの秩序度が90%と高く遷移金属陽イオンがほぼ完全な二次元的積層状態にある。BM-CFMOをトポケミカルに低温酸化することでペロブスカイト構造のCa2FeMnO6 (P-CFMO) に至ると予想される。P-CFMOが合成されれば当初計画したCaFeO3/SrCoO3人工超格子と比肩する新規な物性が期待されるが、そのためには酸素イオン配位の低温制御が必要となる。そこでBM-CFMOから出発して新規ペロブスカイト層状超格子の合成および薄膜試料の製作と配向制御を行った。低温酸化にはO3を10%程度含有するO2ガスを用いた。 まずBM-CFMO粉末試料を合成し粉末X線回折により単相の試料が得られたことを確認した。これを200°Cで3時間処理することで、初めて新たな酸化物磁性材料P-CFMOの合成に成功した。 一方薄膜試料はBM-CFMOをターゲットとしてパルスレーザー蒸着法を用い、40nm程度の膜厚の単結晶薄膜の合成に成功した。Mn3+のJahn-Tellerひずみによる長いb-軸長が観察されたことから、FeイオンとMnイオンは粉末試料と同様以上の秩序度で超格子構造を形成していると考えられる。また用いた単結晶基板との格子ミスマッチにより成長配向の制御に成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を段階に分けると、①ペロブスカイト酸化物人工超格子の成長する配向と積層の周期を変えることで磁性を持つ陽イオンの配列方法を制御する、②酸化還元反応を施し酸素配位を直接的に制御する、③遷移金属陽イオンの新規な配列・価数、および酸素イオンの配位を物性の起源とする新しい磁性体を合成し将来の新規酸化物素子実現へ向けた基礎を確立する、ということができる。 FeイオンとMnイオンとが層状に積層した新しいペロブスカイト超格子磁性体P-CFMOに関しては粉末試料についてすでに初年度で①・②および③の合成までが終了している。現在はその磁気特性の測定を行っているところであり、本年度中に終了できると考えている。薄膜試料については①が達成され、現在②の条件を決定することに取り組んでいる。粉末試料とは異なる酸化条件が必要となっており、これは当初の予想外であったが少なくともO3/O2ガスを用いた低温酸化処理により格子定数の減少は生じているので不完全ながら酸素イオンの取り込みは起こっている。BM-CFMO薄膜試料においては前項で述べたとおり配向制御が実現できている。この結果、ブラウンミレライト構造でのFe3+イオンとMn3+イオンの層状積層方向を基板面に平行および垂直な2つの方向に作り分けることができた。特に基板面に垂直な積層は当初計画していた人工超格子手法では実現できないものであり、積層順序制御では不可能な配向が得られたことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は粉末試料についてはBM-CFMOの合成およびその低温酸化によって得られた新規磁性体P-CFMOの合成を引き続き行う。必要な試薬やオゾン発生原料である酸素ガスの購入に研究費を充てる。P-CFMO粉末試料の物性測定を引き続き行う。粉末X線回折結晶構造の詳細な解明やメスバウワー分光および磁化率測定による磁気特性の解明を行う。ここでは陽イオンの価数および配位状況を理解することを主眼とする。可能であれば放射光X線や中性子散乱を用いて詳細な結晶構造解析・磁気構造解析を行いたい。 BM-CFMO薄膜試料の酸化条件の検討を行う。低温酸化の前駆体であるBM-CFMO薄膜作製に必要な単結晶基板・プロセスガス等を購入する。低温酸化の結果有意に酸化された(P-CFMOに近い酸化状態の)薄膜試料が得られた場合は粉末試料に準じた同様な物性解明を行う。 特に薄膜試料特有のエピタキシャルひずみの程度やその物性に与える影響は重要であるので詳細に調査する。 得られた成果を発表するため学会への参加を行う。また放射光施設(可能であれば中性子散乱実験施設)への移動のために旅費を支出する。 本年度の中盤より、来年度に向けて人工超格子的手法が必要となるCaFeO3/SrCoO3人工超格子の作成を開始する。ここでも前駆体CaFeO2.5/SrCoO2.5の合成とその低温酸化が必要となる。その際にはP-CFMOの合成時に得た知見が決定的に重要な役割を演ずると予想している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
試料や試薬、単結晶基板に関しては前項で述べた通りである。また実験・学会参加のための旅費についてもすでに言及した通り支出したい。 そのほかに今年度は得られた新規磁性体の物性測定を可能にする装置を購入する。BM-CFMO自体にも、P-CFMOの前駆体としてだけではなく層状磁性材料としての未解明の性質が残されている。注目したいのは近年盛んな研究対象となっている磁性と誘電性を併せ持つマルチフェロイック特性についてである。BM-CFMOの対称性は中心対称性のあるPnmaであるが類縁ブラウンミレライト酸化物SrCoO2.5はIma2でありこれは中心対称性のない結晶構造である。PnmaとIma2違いの源はFeO4四面体層の酸素の配位にあり、薄膜試料では基板から受けるエピタキシャルひずみによってバルクとは異なる酸素配位が実現している可能性がある。中心対称性がない場合に期待される強誘電性を誘電率の温度変化から確認するためにLCRメータを購入することを予定している。 なお、平成24年度に予定していた装置購入と出張を計画していた学会発表のそれぞれ一部を平成25年度に行うこととした。
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