2013 Fiscal Year Research-status Report
ペロブスカイト酸化物人工超格子の配向・積層制御と低温酸化還元
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24540346
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
市川 能也 京都大学, 化学研究所, 助教 (70365691)
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Keywords | 遷移金属酸化物薄膜 / 超格子構造 / 低温酸化還元 |
Research Abstract |
本研究では、ペロブスカイト酸化物人工超格子の成長配向および積層周期制御に基づく陽イオンの新規配列の実現と、低温酸化還元反応による酸素配位制御による新規価数状態の実現に基づいて磁性に代表される新規な物性の基礎の確立を目指している。 昨年度までに、Bサイト陽イオンの層状秩序を持つブラウンミレライト構造酸化物Ca2FeMnO5 (BM-CFMO) について、O3を10%程度含むO2ガスを用いた低温酸化によるペロブスカイト構造のCa2FeMnO6 (P-CFMO) の合成に粉末試料については成功していたものの、薄膜試料については困難があった。O3ガスが強力な酸化力を持つ一方分解しやすい性質を持つために、薄膜試料を粉末試料と同様に酸化処理しても、O3ガスの強い酸化力によって薄膜試料が損傷を受けてしまったり、反対に酸化が不十分であったりした。そこでO3/O2ガスによる薄膜酸化処理の再現性の高い方法の確立を行った。試料の加熱方法・O3/O2ガスの当て方・適切な反応容器のサイズ(直径・深さ)・試料と配管の距離などを詳細に検討・試験した結果、薄膜試料についてもP-CFMOをほぼ100%に近い再現性で合成できる最適な酸化方法の実現に成功した。以前は200 °C 以上の温度を必要としていたが改善後は100-200 °C で15分程度の短時間で薄膜P-CFMOが合成できるようになった。この新しい酸化条件は粉末試料にも効力を発揮し、以前は3時間程度かかっていたものが30分程度で酸化反応が進行することを確認できた。P-CFMO薄膜の電気抵抗率測定結果から、Fe/Mn積層方向に平行な電気抵抗率は垂直方向に比べて1桁程度低いことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的を段階に分けると、①ペロブスカイト酸化物人工超格子の成長する配向と積層の周期を変えることで磁性を持つ陽イオンの配列方法を制御する、②酸化還元反応を施し酸素配位を直接的に制御する、③遷移金属陽イオンの新規な配列・価数、および酸素イオンの配位を物性の起源とする新しい磁性体を合成し将来の新規酸化物素子実現へ向けた基礎を確立する、ということができる。 FeイオンとMnイオンとが層状に積層した新しいペロブスカイト超格子磁性体P-CFMOに関しては粉末試料について初年度で①・②および③の合成までが終了している。粉末試料の磁気特性・メスバウワー効果の測定を行った結果、90K近傍に磁気転移温度が、また室温とヘリウム温度の間に電荷不均化転移温度が存在することがわかった。薄膜試料については昨年度に①を、本年度に②を達成した。薄膜試料の③すなわち物性評価については電気抵抗率の積層方向による異方性を確認した。 薄膜試料のO3/O2ガスによる酸化には粉末試料の場合よりもより厳しい酸化条件検討が必要であることがわかったが、その際の対象物質としてCaFeO2.5を用いた。CaFeO2.5からCaFeO3を合成するには粉末試料では高圧印加が必要であり、また薄膜試料の合成報告は非常に数が少ない。この点について本研究の進展によりCaFeO3薄膜試料が非常によい再現性で合成できるようになった。また、SrCoO2.5についても同様な酸化反応系によりSrCoO3薄膜試料が得られることもわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
厳しい酸化条件を要求するCaFeO3の合成に成功したことに加えて、SrCoO2.5から出発してSrCoO3薄膜試料もO3/O2ガスによる低温酸化処理で得られるようになったことから、これらの異常高原子価遷移金属陽イオンを含むペロブスカイト酸化物を構成要素とする人工超格子の合成も可能になった。 そこで本年度は、自然超格子であるP-CFMOについて粉末試料・薄膜試料の物性評価をさらに推進すると同時に、CaFeO3あるいはSrCoO3あるいはその両方を含む人工超格子の合成あるいはヘテロ接合の作成を行う。必要な試薬やオゾン発生原料である酸素ガスの購入を研究費の主用途とする。異常高原子価の実現・酸素配位の状況を結晶構造解析・磁性測定・メスバウワー効果などの実験手法で確認するとともに電気抵抗率などの輸送特性の評価も行う。 再現性のある低温酸化条件の割り出しについては一定の達成を見たと考え、物性評価に向けた試料合成を最適かつ迅速に行えるようにする。薄膜試料や人工超格子あるいはヘテロ接合試料の合成に必要な単結晶基板・プロセスガス等を購入するとともに、必要に応じてO3/O2反応系(オゾン発生器・加熱用ヒータ・温度制御器)の増設も検討する。進捗によっては当初予定した以外にも低温酸化による新規物性発現が期待できる酸化物の合成と酸化も行いたい。 得られた成果を発表するため関係学会への参加を行う。また放射光施設(可能であれば中性子散乱実験施設)への移動のために旅費を支出する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に予定していた装置購入と当初計画していた学会発表のそれぞれ一部を平成26年度に行うこととした。 前項で述べた通り、本年度は人工超格子の合成あるいはヘテロ接合の作成に必要な試薬・単結晶基板・オゾン発生原料の酸素ガスの購入に主に充てる。物性評価が迅速に行える観点から試料合成を最適化するために必要に応じてO3/O2反応系の構成要素であるオゾン発生器・加熱用ヒータ・温度制御器など一式の増設も検討する。成果発表の機会として関係学会に参加する。また放射光施設(可能であれば中性子散乱実験施設)への移動のために旅費を支出する。
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