2012 Fiscal Year Research-status Report
一次元競合系におけるスピンネマチックラッティンジャー相のNMR・μSRによる探索
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24540350
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Sophia University |
Principal Investigator |
後藤 貴行 上智大学, 理工学部, 教授 (90215492)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
鈴木 栄男 芝浦工業大学, 工学部, 准教授 (40327862)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | スピンネマチック / フラストレーション / 低次元量子スピン磁性体 / NMR |
Research Abstract |
1次元S = 1/2Heisenberg系Rb2Cu2Mo3O12は、ferroの最近接交換相互作用と、それに競合するantiferroの第二近接交換相互作用を持つ1次元競合系であると報告された。[1] このようなferroとantiferroの交換相互作用が競合する系では、低磁場域でスピン密度波(SDW)相が、飽和磁場付近の高磁場域では多極子Tomonaga-Luttinger液体(TLL)が実現するとHikiharaらによって理論的に示されている。[2] これは例えば、強磁性ボンド上に励起された二つの隣接スピンが、三重項(ディレクタ)のSz=0状態とみなせ、z軸に対して反転対称性を持つことから、ネマチック(液晶)のように振る舞うことに由来している。 nematic TLL状態になると、低磁場域(SDW相)では通常のTLLと同じように核磁気緩和率1/T1は低温で発散するが、高磁場域(多極子TLL相)では1/T1は温度と共に減少するという特徴的な振る舞いを示す。 しかし、多極子TLLは4体以上のスピン相関関数で表されるため、実験で直接検出することは非常に困難である。近年、NMR緩和率T1測定により、間接的にではあるが多極子TLLを検出できるという理論がSatoらにより提唱された。 Satoらによれば、nematic TLL状態になると、低磁場域(SDW相)では通常のTLLと同じように核磁気緩和率1/T1は低温で発散するが、高磁場域(多極子TLL相)では1/T1は温度と共に減少するという特徴的な振る舞いを示す。 我々はRb核のNMR-T1の温度依存性をさまざまな磁場下で詳細に測定し、磁場によって温度依存のべきが劇的に変化することを見出した。これは、Satoらの理論による、特徴的な振る舞いと一致しており、nematic相の存在を示唆する結果であると言える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
交付申請書の目的の概要は以下の二点である。 1.A2Cu2Mo3O12(A=Cs, Rb)のNMR縦緩和率の磁場・温度依存性を測定し、ネマチックラッティンジャー液体状態を探索する。 Cs(I=7/2)核、Rb核(I=3/2)について、低磁場から、磁化飽和域までの広範囲磁場で、T1の温度依存性を測定し、温度のべきになることを確認し、べき指数の磁場変化を求める。通常のラッティンジャー液体状態では、スピンの横成分・縦成分とも、べき相関を示すことを反映して、NMR縦緩和率は温度のべきで変化し、低温で上昇する。しかし、ネマチック・ラッティンジャー液体では、スピンの横成分相関のみが指数関数的に減衰することを反映して、縦緩和率の温度依存性が磁場によって大きく変化する。これを利用して、上の実験結果を解析し、ネマチックラッティンジャー液体かどうかを特定する。 2.ネマチック相秩序相の出現が期待される、磁化飽和付近の強磁場でスペクトルの温度依存性を、3He温度域まで測定し、ネマチック秩序相を探索する 磁化飽和付近の高磁場域で、3He温度域の低温までスペクトルを測定し、ネマチック秩序相を探索する。これまでの予備実験で、2Kまでの低温で、磁場中NMR縦緩和率の急激な上昇を観察しており、より低い温度域において秩序相出現の可能性が高い。 このうち、1についてはT1の温度依存性のべき指数が磁場によって大幅に変化することを見出しており、目的はほぼ達成されたと言える。2については、Cs系については1.5Kまでの実験で、T1とスペクトルの変化から、有限磁場における秩序相の存在を確認出来た。Rb系についても、NMRで1.5Kまで、比熱(連携研究者)では、3He温度まで秩序相の探索を行い、1/T1の発散傾向と比熱の異常増大を確認し、秩序相の存在を示唆する結果を得た。以上より、おおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
Cs系における秩序相について、T<Tcでの臨界指数を、スペクトル線幅から求め、また、T>Tcでの動的臨界指数をT1の温度依存性から求める。これらと理論との比較より、秩序相のユニバーサリティクラスを決定する。 ネマチック系のT1の議論は、超微細場の縦・横成分の寄与を分離することが肝心である。しかしながら単結晶の育成(連携研究者が試作中)は極めて困難であるため、強磁場での磁場配向試料の作製を試み、それを用いてT1の異方性を測定する。 これにより、T1の温度依存性が真にネマチック相由来であるかどうかを確認する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当該研究費が生じた状況:低温物性測定系(分担者)の立ち上げに使用する、電子部品等の端数を繰り越した。本年度の使用計画はそれを含めて以下の通りである。 ・ミュオン実験(スイス、PSI)の旅費、 ・低温循環冷凍機スクロールポンプ交換費用 ・実験補助のための大学院生への謝金支払
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[Journal Article] Microscopic Phase Separation in Triangular-Lattice Quantum Spin Magnet κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3 Probed by Muon Spin Relaxation2012
Author(s)
Saori Nakajima, Takao Suzuki1,2, Yasuyuki Ishii1, Kazuki Ohishi1, Isao Watanabe1, Takayuki Goto, Akira Oosawa, Naoki Yoneyama4,5, Norio Kobayashi4, Francis L. Pratt3, and Takahiko Sasaki4,5
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Journal Title
J. Phys. Soc. Jpn. 81 (2012) 063706 (4 pages)
Volume: 81
Pages: 063706 (4 page)
DOI
Peer Reviewed
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