2013 Fiscal Year Research-status Report
リチウム置換による希土類化合物での次元性低下に伴うフラストレーション効果の研究
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24540359
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
小坂 昌史 埼玉大学, 理工学研究科, 准教授 (20302507)
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Keywords | 強相関電子系 / 磁性 / フラストレーション / 低温物性 / 希土類金属間化合物 |
Research Abstract |
本年度は昨年度に成功したYb5Ge4の単結晶試料を用いて詳細な物性測定を行った。Yb5Ge4は計画当初の研究対象物質Yb4LiGe4の母物質に相当するものである。Liによるインターカレーションによって系の二次元性を増強させる計画であったが、母物質であるYb5Ge4において、既にかなりの次元性の低下が生じていると考えられる結果が今回初めて得られた。 まず、比熱測定で1.8Kに観測された相転移の詳細を調べるために3He冷凍機を用いた磁化測定を行った。帯磁率の温度依存性は1.8Kで反強磁性転移に特徴的な折れ曲がりを観測し、本物質の基底状態は反強磁性長距離秩序であることを明らかにした。また、磁化容易方向はc軸、a軸、b軸の順番であることがわかった。磁化容易軸であるc軸方向では、多結晶試料でも観測されていた帯磁率における転移温度以上のブロードな山が更に強調された形で現れた。この振る舞いは、比熱測定で観測された転移温度直上のショルダー型の比熱異常に対応していると考えられる。帯磁率は100K以上でキュリー・ワイス則に乗っており、全ての軸方向で有効ボーア磁子は2.7μBと見積もられた。この値から期待されるYb価数比はYb3+ : Yb2+ = 2 : 3となり、既に報告されているX線吸収分光実験により求められたYbの平均価数を説明することができる。 更に、得られた単結晶は1~2mm程度の小さなサイズであったが、各軸方向の電気抵抗測定に成功した。電気抵抗率の温度依存性は予想をしていなかった狭いバンドギャップを持つ半導体的な挙動を示した。しかも、そのバンドギャップは一定のものではなく、温度とともに変化するものであった。特に40Kを下回ると、急激にギャップが減少する方向に変化することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度策定した目標であった、Yb5Ge4の単結晶試料を用いた物性測定を滞り無く進めることができた。特筆すべきは、温度と伴に変化する狭いバンドギャップを持つ半導体的な電気抵抗の振る舞いの発見である。このような電気抵抗率の温度変化を示すものに近藤半導体がある。中でも、近藤半導体CeOs2Al10において最近見出された、ギャップ構造の2段階の変化を示唆する結果と今回観測した結果は似通っている。よって、Yb5Ge4が近藤半導体である可能性を視野に入れ解析を進めているが、これまでに知られている物質の近藤温度に比べ一桁小さい約3Kが特性温度であることが実験結果から推測される。このことから、Yb5Ge4においては近藤効果が他の典型物質に比べて顕著でないことがわかる。そのような状態でも近藤半導体となりうるのかどうかが今後の考察のポイントである。一方、フラストレーション効果を起源としたシナリオでも比熱と帯磁率に現れた異常を定性的ではあるが説明することができる。現時点では、先に述べた電気抵抗率の温度変化を説明することに成功していないが、次元性の低下に伴うフラストレーション効果がYb5Ge4の示す物性の根底にあると考えている。Yb4LiGe4の研究により明らかにしようとしていた、希土類Yb化合物における次元性の低下とフラストレーション効果が物性に及ぼす影響についてはYb5Ge4が最適な研究対象物質であることが再確認できた。計画の最終年度である次年度は、Yb5Ge4で見出された興味深い物性の本質に迫るべく、ミクロな手法を用いてその電子状態を明らかにしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
Yb5Ge4がLiでインターカレーションを行うまでもなく、低次元性を有している可能性があることが基礎物性測定からわかった。それを受けて、計画の最終年度である次年度はYb5Ge4のYbイオンが何故、低次元性を獲得するに至ったかを明らかにしたい。そのためには、YbサイトごとのYb価数を特定することが重要となる。Yb5Ge4が形成するGd5Ge4型構造では、Ybは3種類の結晶学的なサイトを占める。もし、サイトごとに磁性イオンであるYb3+と非磁性イオンであるYb2+が住み分けていれば、磁性を担うYb3+イオンの低次元的な配列が実現すると予想される。磁化測定からはYb3+ : Yb2+ = 2 : 3の比であることが判明しており、サイトの存在比を考慮すると、この比を説明できる組み合わせが存在する。これを明らかにするためには、放射光施設でのX線回折実験DAFS(Difraction Anomalous Fine Structure)を行う必要がある。 また、昨年度はJ-PARCで予定していたミュオンスピン回転実験が施設の事故に伴う稼働停止により行うことができなかった。今年度に改めて実施する計画であるが、マシンタイムが措置されない場合も考慮し、NMR測定やメスバウアー効果測定による、磁気転移温度直上の短距離秩序の形成あるいは磁気揺らぎ等の観測も視野に入れている。上記で述べた、ミクロな手法を駆使することによってフラストレーション効果の影響を調べたい。 一方、Yb5Ge4が近藤半導体である可能性も、フラストレーション効果に関する直接的な実験証拠が無い現状では、完全には否定されていない。そこで、バンド計算により、フェルミエネルギー近傍の4f電子の状態密度や分散関係を見積もり、その可能性の評価を計画している。 さらに、Yb5Si4の作製に試行錯誤の末、昨年度成功した。現時点では多結晶試料しか得られていないが、Yb5Ge4に比べ特性温度がさらに低い物質と考えられるため、比較物質として基礎物性測定を進めていく。
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Research Products
(6 results)