2012 Fiscal Year Research-status Report
微細構造振動子を用いたグラフェンの面内歪み制御の研究
Project/Area Number |
24540363
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内田 和人 東京大学, 物性研究所, 技術専門職員 (20422438)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長田 俊人 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00192526)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | グラフェン / 歪み / 音波 |
Research Abstract |
弾性体の密度波である音波を、物体を駆動するエネルギーとして用いた例は数多い。しかし、マイクロスケールの微細構造体と薄膜を近接させ、微細構造体を振動させることによって、微細構造体と薄膜との間に介在する気体(あるいは液体)に音波の波長よりも極めて小さなスケールの密度波を発生させ、対象物をマイクロスケールで変調(振動)させた例はこれまで見あたらない。本研究の核心はまさにこの点にあり、微細構造体のパターンと、振動周波数、振幅をコントロールすることにより、薄膜(特に炭素の一原子膜であるグラフェン)に接触することなく自在に歪みを加える手法の確立と、グラフェンの電子状態の歪みによる影響の解明を目指している。 初年度となる本年度の目標のひとつは櫛状、四角格子状、三角格子状等パターンとサイズの異なる数種類の微細構造体の作製であったが、実験と検討を重ねた結果、初年度は市販のシリコン基板上に形成されたマイクロパターン成形品を購入することとなった。また、微細構造体とグラフェンとの位置関係を正確にコントロールする必要から、振動源である圧電素子には、正確な上下動と位置制御機能が必須である。そこで、位置センサーにより入力電圧を補正するクローズドループ制御をもち、さらに伸びに対して垂直方向のずれが極力少ないタイプのピエゾアクチュエータを選定、購入した。グラフェンは空中懸架されている必要があり、機械的剥離法により、酸化膜付きシリコン基板上に転写されたのち、電子線リソグラフィーによるホールバー等の電極構造の描画、真空蒸着法による金電極の蒸着等を行った。最終工程としてグラフェン下部の酸化膜を緩衝フッ酸により除去する必要があるが、グラフェン試料の乾燥時に水(あるいはアルコール等)の表面張力の影響で、基盤に張り付く現象が起こるため、低表面張力液体への置換実験を試行中であり、技術の確立を次年度の課題とした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は、音波によるグラフェン振動実験で用いる材料(微細構造体、ピエゾアクチュエータ、架橋グラフェン試料)の準備期間と位置づけているが、ピエゾアクチュエータ、さらにコントローラはすでに選定、購入している。 微細構造体については、当初の計画通りではないが、より高品質で種類の豊富なマイクロパターン成形品(市販品)を選定することができ、当面の予備実験や基礎的実験に十分使用できると考えている。 また、架橋グラフェン試料の作製については、機械的剥離法による100ミクロン程度の単層グラフェンの転写、および電子線リソグラフィー技術による電極形成に成功しており、最終工程である緩衝フッ酸処理後の乾燥過程に問題が残されている。具体的には緩衝フッ酸処理後、グラフェン試料に含浸されている水またはアルコールを乾燥させる段階で、液体の表面張力によりグラフェンがシリコン基板に張り付いてしまう。この現象を回避するためには臨界点乾燥法や凍結乾燥法を用いるか、より低表面張力の液体に置換した後、乾燥させる方法が考えられるが、後者についてはすでに実験を行っており、顕微鏡観察ではグラフェンが基盤に張り付くことなく、空中懸架されている様子が確認できた。ただし、グラフェン電極間で導通が見られていないことから、グラフェンと電極の間に何らかの不純物が混入しているか、ダメージが加わってる可能性があり、洗浄工程や乾燥工程等の見直しが必要だと考えている。 以上、当初の計画の通りではないが、現段階において、総合的にほぼ順調に研究が進展しているものと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
ピエゾアクチュエータに結合された微細構造体(微細構造振動子)と架橋グラフェンは、高精度で面平行を保ちつつ近接配置する必要がある。そこで、次年度はまず両者を固定する架台を設計・製作し、実際の振動実験を行う。 架橋グラフェン試料については頻繁に交換する必要があり、再現性良く着脱可能なステージ機構が必要である。またグラフェン膜と微細構造体とのサブミクロン精度での面平行が必須なため、最低3個のピエゾ素子によるチルト調整機構を導入する。さらに、グラフェンの蜂の巣格子と微細構造体の構造との幾何学的整合性をチェックするため、回転機構を付加する。これら架台は、ピエゾ素子による振動部分の振動が測定系に伝わらないよう除振ステージ上に設置する。微細構造体とグラフェンとの面平行の調整には、微細構造体周辺部と架橋グラフェン周辺部に金属を蒸着し、それらが接触したときにグラフェン側の二つの電極が導通することにより確認する。実際には微細構造振動子の圧電素子をある程度伸ばし、架橋グラフェン側の4方向の電極対のなかでどれか一対が短絡した時点で圧電素子を固定する。その後、短絡していない電極対側のステージを位置調整用ピエゾ素子により上昇させ、全ての電極対が短絡するよう傾きを調整し、固定する。実際の振動実験は微細構造体とグラフェン間隔をサブミクロン精度で調整した状態でおこない、周波数は1kHz程度を想定している。 次年度は室温においてグラフェンの電気伝導測定を行い、微細構造振動子とグラフェンとの間隔、振動数、振幅が伝導度に与える影響を調べ、グラフェンが強制振動する条件を探る。実際の電気抵抗測定には、ロックインアンプを用い、電気伝導度の周波数成分のみを抽出する高感度測定を行う。最終年度では、低温下、磁場下でのグラフェンの音波振動実験へ向けての装置改良を行い、量子効果が顕在化する環境下での観測を試みる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ピエゾアクチュエータに結合された微細構造振動子と架橋グラフェンは、高精度で面平行を保ちつつ近接配置する必要がある。そこで、次年度はまず両者を結合する架台を設計・製作し、実際の振動実験を行う。架橋グラフェン試料については頻繁に交換する必要があり、再現性良く着脱可能なリセッタブルプレート等のステージ機構が必要である。またグラフェン膜と微細構造体とのサブミクロン精度での面平行が必須なため、最低3個のピエゾ素子によるチルト調整機構を導入する。さらに、グラフェンの蜂の巣格子と微細構造体の構造との幾何学的整合性をチェックするため、ステージに回転機構が必要であり、購入を計画している。 さらに、完成した振動装置を用いて架橋グラフェンを振動させ、同時に室温における電気伝導測定をおこなう。そして、微細構造振動子とグラフェンとの間隔、振動数、振幅が伝導度に与える影響を調べ、グラフェンが強制振動する条件を探る。実際の電気伝導測定にはロックインアンプを用い、電気伝導度の周波数成分のみを抽出する高感度測定を行う必要があり、ロックインアンプとピエゾコントローラの入力信号用にファンクションジェネレータの購入を計画している。 また、各種学会、展示会等で、情報収集を行うとともに、技術開発および計測結果を逐次取りまとめ、成果発表を行う予定である。
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Research Products
(1 results)