2013 Fiscal Year Research-status Report
微細構造振動子を用いたグラフェンの面内歪み制御の研究
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24540363
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
内田 和人 東京大学, 物性研究所, 技術専門職員 (20422438)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
長田 俊人 東京大学, 物性研究所, 准教授 (00192526)
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Keywords | グラフェン / 歪み / 音波 |
Research Abstract |
今年度は、シリコン基板にマイクロパターン成形された微細構造体と、機械的剥離法により同じくシリコン基板に転写されたグラフェン試料を、マイクロスケールの高精度で面平行を保ちつつ近接配置するための音波振動装置を製作した。微細構造体側には回転ステージ上にピエゾアクチュエータが設置され、試料ステージ側には試料をワンタッチで交換できるホールド機構とあおり調節をするためのチルト機構を設けた。ピエゾアクチュエータには波形発生器からのサイン波や矩形波等の信号を増幅して入力でき、最高周波数約5kHz、最大振幅10ミクロンまで、自在に振動させることができる。 架橋グラフェン作製までの予備的な振動実験として、シャボン膜にサブミリオーダーの構造体を距離10ミクロン程度に近接させつつ振動させ、シャボン膜に反射する光をビデオ撮影することによって、シャボン膜の振動の様子を直接観察した。その結果、1-20Hzの周波数範囲で構造体が発する音波(応力波)がシャボン膜を変形させる様子が鮮やかに記録され、本研究の核心部分である振動子からの近距離音場による歪みの発生が確認された。ただし、微細構造体の構造パターンを反映したシャボン膜の歪みパターンを観測するまでには至っていない。観測した周波数領域が最高20Hzと低いのは、使用したビデオのフレームレートにより、それ以上の高周波記録が不可能なためである。次に歪み量を見積もる目的で構造体と歪みゲージを近接させ、振動子を振動させつつ、歪みゲージからの出力信号を測定した。その結果、1-500Hzの周波数範囲において、振動子の振動に極めて良く追随した出力信号を確認できた。この場合の最高周波数は歪みゲージ測定器の周波数限界に依っている。 架橋グラフェン試料作製については、臨界点乾燥法や凍結乾燥法等を用いないで済む、フッ酸処理された櫛形電極へのグラフェン転写法を現在開発中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度、回転機構を追加した3軸ステージ上に固定されたピエゾアクチュエータによる振動部分と、あおり調整機構を持つ試料ステージ部を結合した音波振動実験装置の設計・製作を完了した。さらに、この装置を用いて、本研究における最重要課題であった微細構造振動子からの近距離音場(応力波)による歪みの発生と制御が、サブミリスケールの構造体において、しかも限られた低周波領域ながら、シャボン膜および歪みゲージを用いた実験により確認された。 架橋グラフェン試料は従来、シリコン基板に転写されたグラフェンをフッ酸処理し、絶縁膜である酸化シリコン膜を除去する方法が一般的である。この場合、最終工程である水またはアルコールを乾燥させる過程で、液体の表面張力により架橋されたグラフェンがシリコン基板に張り付くという問題が生じる。この現象を回避するために、臨界点乾燥法や凍結乾燥法等、特殊な乾燥法が必須であり、本研究においては現実的でない。また、低表面張力の液体を用いる方法も、現時点で十分な結果を得るには至っていない。そこで、絶縁膜付きのシリコン基板に櫛形の電極構造を多数配置し、フッ酸処理することで絶縁層を除去したのちグラフェンを転写し、架橋グラフェンを作製する方法を現在、開発中である。すでに櫛形電極は製作しており、フッ酸処理していない電極を用いた予備的な転写および電気伝導実験では、数層グラフェンの電気伝導測定に成功している。次年度、フッ酸処理された櫛形電極を用いて架橋グラフェンを作製し、音波振動実験を行う予定である。 以上、架橋グラフェン試料の作製については当初の計画通りではないが、本研究の最重要課題と位置付けていた近距離音場を用いた歪みの発生と制御が確認されたこと、さらにグラフェン作製において新たな技術の確立が視野に入ってきたことから、総合的に見て、本研究がほぼ順調に進展しているものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
グラフェン試料に振動子を近接させ、音波振動させる装置はすでに完成しており、最終年度である本年度初めに、音波振動を制御するためのピエゾコントローラの信号発生器、電流源、デジタルオシロスコープ等の計測器を一元的に制御するプログラムの開発を行う。次に酸化シリコン絶縁膜付きのシリコン基板上に形成された櫛形電極をフッ酸処理し、グラフェンを直接転写することで、ドライプロセスのみで架橋グラフェンの作製を試みる。グラフェンは単層2層、あるいはそれ以上の複数層グラフェンについても作製し、グラフェン電子系に与える歪みの効果の、層数依存性も調べる予定である。 実験の具体例としては、単層グラフェンにおいて一軸歪みによるバンドギャップの生成が注目されており、グラフェンの架橋構造と微細構造体の櫛状構造を垂直に配置し近接させた場合の音波振動による引っ張り歪みによって、ブリュアンゾーン、ひいてはバンド構造の変化、あるいは電子系の変化により、抵抗の増大現象が観測できるかどうか確かめたい。また最近、剪断歪みを加えるとより効果的にバンドギャップが形成されるとの報告がある。この点について、本研究手法を用いると、グラフェンの架橋構造と微細構造体の櫛状構造が水平な場合には剪断歪みが加わることから、微細構造振動子に対してグラフェンを回転させ、音波振動実験を行うことによって、一軸歪みや剪断歪みといった歪みの種類による伝導特性への影響も検証したい。 また、物理学会、展示会等の場で、情報収集に努めるとともに、技術開発および研究成果をとりまとめ、発表を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
架橋グラフェン試料の作製方法として、当初は低表面張力液体を用いた乾燥法により行う予定であったが、これまでの予備実験により、グラフェンの伝導特性が必ずしも良くないなど、十分な結果が得られていないことから、フッ酸処理された櫛形電極に直接グラフェンを転写するドライプロセス法に変更した。これにより、研究計画および購入予定の物品に変更が生じたため、予算の一部を次年度に繰り越すこととなった。 架橋グラフェンのドライプロセスによる作製法を確立するために、グラフェンを櫛形電極に効果的に転写するための治具を作製する計画である。
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Research Products
(2 results)