2013 Fiscal Year Research-status Report
極性溶媒分子を絶縁層にもつ層状有機超伝導体における新奇な電子状態の探索と解明
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24540364
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
川本 正 東京工業大学, 理工学研究科, 助教 (60323789)
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Keywords | 有機超伝導体 / 電荷秩序 / 2次元電子系 |
Research Abstract |
平成25年度は1994年に米国のグループで開発された有機超伝導体である(BEDT-TTF)_2_Cu(CF_3_)_4_(TCE)の高Tc相の構造を決定することに成功した。Ag(CF_3_)_4_塩では2種類の高Tc相が存在したが、Cu(CF_3_)_4_塩では1種類であることが過去の実験結果からも示唆されているため、安定な構造が判明することになった。具体的にはBEDT-TTFがk(kappa)型と呼ばれる井桁状に配列した層と、a'(alpha prime)型と呼ばれる捩じれながら積層した層が溶媒分子1,1,2-トリクロロエタン(TCE)を含有するアニオン層を挟んで交互に積層した層状の超伝導体である。Ag(CF_3_)_4_の2つの高Tc相と比較すると、Tc = 9.5 Kの三斜晶の相と同型のka'1型である。単位胞の体積がAg(CF_3_)_4_塩よりも小さいことは、アニオンの大きさを反映していると考えられる。また、同じ化学組成の低Tc相と異なり、アニオンと溶媒分子の乱れはない。溶媒分子TCEの立体構造にはCl原子の位置関係が異なる物同士(対掌体)、1:1の割合で結晶に含まれていることが明らかになったが、これは元の溶媒分子における存在比率を反映していると考えられる。BEDT-TTF分子の結合長からa'層は電荷秩序状態であることが明らかになった。したがって、超伝導を担うのはk層のみであり、伝導シート間距離が大きい極めて2次元性の強い物質である。磁気トルクと抵抗測定の結果から、Tc = 9.4 Kの超伝導体であることを確認した。磁気抵抗から決めた上部臨界磁場(Hc2)の温度依存性から見積もった伝導シート間方向のコヒーレンス長が伝導シートであるk層の厚みに比して十分に短いことから、本物質は2次元超伝導体であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要に記したように、19年間の未解決問題であった(BEDT-TTF)_2_Cu(CF_3_)_4_(TCE)の高Tc相の結晶構造解明に成功した。長年の未解決問題だけに、最終年度まで時間を要しても解決できない可能性も否定できない研究目標であったが、これで本研究の大きな目標としていた課題のひとつを達成できたと考えられる。また、抵抗測定による超伝導転移の確認や磁気抵抗による上部臨界磁場の決定にも成功し、超伝導特性を明らかにするための最初の一歩を踏み出すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、極性溶媒分子を含む絶縁層をもつ有機超伝導体に注目している。構造を確定させた高Tc相の(BEDT-TTF)_2_Cu(CF_3_)_4_(TCE)や(BEDT-TTF)_2_Ag(CF_3_)_4_(TCE)には結晶学的に独立なドナー分子が4つも存在している。X線結晶構造解析から見積もった電荷移動量の誤差は、超伝導を担うkappa層のバンド充填率が通常の1/2であるか否かを明らかにするために、量子振動によるフェルミ面の観測が不可欠である。また、低Tc相は乱れたアニオンと溶媒分子をもつが、常圧で超伝導を示す。この物質の超伝導特性を明らかにすることで、高Tc相との違いを見出すことを目標にする。具体的には磁気抵抗や磁気トルクの精密測定を行い、超伝導に特有のいくつかのパラメータを明らかにしていく。
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