2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24540370
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森成 隆夫 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (70314284)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ディラック電子 / 有機導体 |
Research Abstract |
固体中のディラック電子系としてよく知られているグラフェンでは、ディラック電子の生成条件はよくわかっている。蜂の巣格子上を電子が跳び移るとき、ディラック電子のエネルギー分散が自然に現れる。しかし、圧力下でディラック電子系となる有機導体においては、ディラック電子の出現条件は明らかになっていない。これはエネルギーバンドが4つのバンドからなっており、グラフェンと比較して複雑で、解析が困難なためである。 4つのエネルギーバンドは実空間での多数のホッピングパラメーターによって決まっており、どのようにしてディラック電子のエネルギー分散が生成されるのかよくわかっていない。この問題に対して、ディラック電子特有のカイラリティに着目して解析を行った。特にディラック電子のカイラリティに関係する代数的な構造に着目して、ハミルトニアンを解析し、この系のディラック電子のカイラリティを記述する2つの生成子を見出すことに成功した。特に、生成子が持つ位相自由度と、ブリルアンゾーンにおけるディラック点との間に簡単な関係式が成り立つことがわかった。また、 4つのバンドを持ちさらにディラック点を有するような簡単なモデルの構築にも成功した。簡単化したモデルではディラック点の位置が解析的な表式を用いて表すことができる。研究計画において面間磁気抵抗の理論式と実験データの比較から系のディラック電子のエネルギー分散のパラメータを決定することを計画していたが、ディラック電子のカイラリティに関係する生成子の結果は、異なる観点からこの系のパラメータに関する考察を与えるものである。ディラック電子のエネルギー分散が安定化される条件を明らかにすることができれば、常圧下でのディラック電子系の実現に向けて有用な知見が得られることが期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
圧力下でディラック電子系となる有機導体においては、角度分解光電子分光などの直接的な方法でエネルギー分散を実験的に決定することができない。このため他の実験手段を用いてエネルギー分散を決める必要がある。この問題について、本研究では面間磁気抵抗に着目して研究を進めている。現在、磁場下での面間磁気抵抗の理論的表式を得ており、実験データの解析を行っている。しかし、研究実施計画に記載したように、面間磁気抵抗の面内磁場方向への依存性の起源について二つの可能性があり、この点について注意深い考察が必要である。有機導体で実現しているディラック電子系では、グラフェンと異なり、エネルギー分散が等方的で直立した円錐形ではなく、傾いてひずんだ円錐形となっている。このため、磁場下での電子の波動関数であるランダウ準位の波動関数が実空間で異方的になる。面間の伝導において、電子が面間を飛び移るとき、面内磁場の影響によって電子の軌道は曲げられる。このとき、波動関数の異方性を反映して、面間磁気抵抗が面内磁場の方向に依存して、振動する。ところが、異方性の起源として円錐のひずみと円錐の傾きの二つの可能性がある。この点を区別するために正の磁気抵抗領域における面間磁気抵抗の理論式は導出されており、現在実験データを解析中である。負の面間磁気抵抗領域については、すでに実験データの解析を進めており、波動関数の異方性の定量的な評価を行っている。平成24年度に得た、ディラック電子のカイラリティを記述する2つの生成子による解析によって、面間磁気抵抗の解析について相補的な情報が得られる事が期待され、この点について現在解析を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究については、2つの生成子を用いたハミルトニアンの解析を進め、圧力下で実現する有機導体のディラック電子系の出現条件を明らかにすることを目指す。特に、4行4列のハミルトニアンにおけるディラック電子系に関するガンマ行列として5つ存在することが知られている。この代数的構造を考慮して解析を行う。この代数的解析においては、共同研究者により電子のホッピングの符号と関係したスカラーカイラリティと呼ばれる量が重要な役割を演ずることが見いだされている。この点について平均場理論による解析を行い、どのようなスカラーカイラリティのパターンが生成されるかを明らかにする。このような解析と並行して、面間磁気抵抗の実験データの解析を進める。また、最近の実験の進展により系へのホールドープが実現している。量子ホール効果が観測されおり、グラフェンとの違いも明らかになっている。特に、ゼーマンエネルギーに起因するスピン縮退の分裂が、グラフェンと有機導体の系とで定性的に異なっている。この点について、クーロン相互作用による多体効果の解析を行う。面間磁気抵抗の温度依存性の実験からも、電子のスピンが関与する寄与が見いだされているため、面間磁気抵抗についても考察を行う。この解析とは異なる側面からの解析として、エネルギーゼロへのランダウ準位への射影を行った空間での理論を構築する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降は研究室にて指導している大学院生にも研究に参入してもらう予定である。具体的には面間磁気抵抗の実験データの解析や4行4列のハミルトニアンの代数的構造の解析、およびスピン相関についてのクーロン相互作用の解析を共同で行う。実験データの解析等においては数値計算が必須であり、大学院生が使用するためのパソコンを購入予定である。また、学会や研究会への旅費を支出する。その他、場の理論関係の文献等を購入するとともに、計算ノートや数値計算コードの整理のためにアルバイトの学生を雇用し、謝金を支出する予定である。ホームページにて得られた研究成果についても情報を発信する予定であり、そのための謝金も支出する予定である。
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